第七十一話:たくさん話して
その後、みんなでたくさん話をした。
あれからの三人だけど、私が抜けたショックは案外大きかったらしい。気分が落ち込んで、配信どころか、学校生活にすら支障をきたすような、そんな状態だったようだ。
それでも、親や友達、それに『Vファンタジー』の皆さんの励ましもあり、無事に配信を再開したようである。
私が居なくなってから二か月くらいではあるが、私の話を共有できるということもあってか、よく三人でコラボとかもしていたようだ。
一夜が率先して配信活動をしたのも要因の一つかもしれない。
一番悲しいはずのお姉ちゃんである一夜が頑張っているのに、自分達がいつまでも落ち込んでいるわけにはいかないと思ったのかもしれない。
おかげでチャンネル登録者も順調に伸びていき、今では大体5万人ほどいるようである。みんな頑張ってて偉いね。
ちなみに、なぜか私のチャンネルも登録者が結構増えているようだ。
なんでやめたのに増えるのかはよくわからないけど、それだけ期待している人がいたってことなのかな。
「ハクちゃん、そっちはどうだったの?」
「帰った後の話を聞かせてほしいです」
「どういう経緯で帰ることになったのー?」
三人の方の話が大体区切りがつき、次はこちらの番になった。
私は帰ってからの出来事を簡単にまとめて話す。
と言っても、話すのはどういう経緯で帰ることになったのかということだけだ。
確かに、帰ってから約四年半、色々なことがあったけど、それをすべて話してしまったら時間がかかりすぎる。
一気に話してもわからないだろうしね。だから、話すのは戻ってくるきっかけとなった、神力の取得計画の話である。
「昨日の配信でも言ってたけど、神力って魔力とはどう違うの?」
「基本的には同じものですが、神力の方が効率がいいというか、魔力よりも優れているという感じでしょうか」
「なるほどね。でも、神力なんて、名前からして神様が使うものっぽいけど、なんでそんな名前なの?」
「この力は元々神様の力だったから、ということだからだと思います。あちらの世界では、昔は神様が世界を統治していたようですから」
「そんな力を使えるようになるなんて凄いです」
「流石ハクちゃんだねー」
神力の取得に関しては、私の場合はただ運がよかっただけのようにも思えるけどね。
いや、一応、魔力溜まりで過ごしたことによる神力の蓄積や、神星樹の実を食べたことによる蓄積もあっただろうけど、それだけだったら今のようにはならなかっただろう。
それこそ数十年単位で続けなければ、完全に変わるなんてことはなかったはずだ。
それを、たったの四年半で成し遂げられたのは、相当運がよかったことだろう。
まあ、その代償に神様もどきになってしまったのはあれだけど。
「それにしても、ほんとにハクちゃんって異世界の住人なんだね」
「元々はこちらの世界の住人ですけどね」
「あれ、そうなの?」
「そうですよ。言ってませんでしたか?」
「聞いてない聞いてない」
そういえば、確かに異世界から来たということは伝えたし、【擬人化】を見せたから異世界から来たというのが本当のことだとは理解できていただろうけど、だからと言って私が元はこちらの世界の出身で、転生してあちらの世界に行ったということは伝えてなかったかもしれない。
これはうっかり口を滑らせてしまったかな。
いやまあ、別にばれて困るようなことでもないけどさ。この三人なら信用できるし。
「そのあたりのことも少し話しておきましょうか」
私はこの世界で死んだ後、あちらの世界で転生したことを話す。
その流れで、元は一夜の兄であるということも話した。
ただ単に姉妹設定だということではないということを知ってほしかったのもあるが、一夜以外にも事情を知っている協力者は必要になるかもしれない。
もちろん、今はローリスさんの家もあるし、そこまで無理して味方を増やす必要はないかもしれないけど、まあ、信用という形でね。
元々は男だということを伝えるのはちょっとばかり勇気がいることだったけど、案外拒絶はされなかった。
可愛ければいいってことらしい。そんなんでいいんだろうか?
「アカリ先輩と仲がいいのも納得だね」
「アカリ先輩が好きなタイプはハクちゃんみたいな人とか言っていたからおかしいなと思っていましたけど、そういうことだったんですね」
「はい。ちなみに、今の私のお兄ちゃんとお姉ちゃんがこの二人ですよ」
「あ、そうだったんだ。やたらイケメンがいるなぁとは思ってたけど」
さっきから完全にほったらかしな二人をさりげなく紹介する。
三人とも、私に会えたことがよっぽど嬉しかったのか、二人のことを全然突っ込まないんだもの。
いやまあ、軽く紹介はしていたけどさ。そんなことはどうでもいいって感じだったようだ。
「あ、挨拶とかした方がいいかな」
「してもいいですけど、もうお兄ちゃん達にはみんなのこと伝えてますから、名前は知っていますよ。どっちも日本語は喋れないので言いますが、お兄ちゃんはラルド、お姉ちゃんはサフィって名前です」
「そ、そっか。でも一応自己紹介しておくね」
そう言って、三人ともお兄ちゃん達に自己紹介をしていく。
それを私が翻訳して、お兄ちゃん達も自己紹介。
通訳するのはいいんだけど、やっぱり不便な感じはあるね。どうにかしてお兄ちゃん達も日本語話せるようにならないだろうか。
翻訳魔法的なものを開発すれば行けるかな? 聞いた言葉はすべて自分が理解できる言葉に変換して、喋る言葉はその言葉に合わせて変換するみたいな。
翻訳アプリみたいなものはあるんだし、仕組みはそこまで難しくないように思える。
まあ、全く未知の言語を聞いても翻訳できる、って言う風にするというのは無理だろうけど、特定の言語、それこそ、日本語とあちらの大陸共通語を翻訳するのはできそうな気がする。
んー、暇があったら作ってみようか。今はちょっと、忙しいからできないけど、どこかのタイミングで作るとしよう。
「もうお昼だし、みんなでご飯食べに行かない?」
「いいですね。まだまだ聞きたいことはありますし」
「あ、あそこ行こうよ。安くておいしいし」
「ああ、あそこね。ここから近いし、ちょうどいいかも」
話していたら、いつの間にかお昼になっていたようだ。
そう言えば、三人はとりあえず早退の理由を説明するための連絡をした方がいいと思うのだけど、この様子だとすっかり忘れていそうだね。
まあ、有野さんが電話を手に途中で退出していたし、恐らくは学校の方に電話を入れたんだと思うから、学校側は把握しているかもしれないけど、本人からも説明した方がいいだろう。
早退すると次に登校した時にやたら注目されるしね。いや、それは小学校とかの話かな? まあ、どちらでもいいけど。
「じゃ、決まりだね。せっかくだし、私が奢るよ」
「え、いいんですか先輩」
「はっちゃんの復帰祝いにね。結局、まだしてなかったし」
「ありがとうございます!」
一夜の太っ腹発言にみんな頭を下げている。
祝われる側としては少し申し訳ないけど、まあ、それで気が晴れるならいいだろう。
どんな店かは知らないけど、せめてお兄ちゃん達が目立たなければいいんだけどな。
そんなことを考えながら、お昼の算段を立てていた。
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