第六十五話:新鮮な反応
《ハク、俺達はどうすればいいんだ?》
《あ、ごめんね? こっちで勝手に盛り上がっちゃって》
《いや、ハクも久しぶりに妹に会えて嬉しかっただろうしな。別に気にしてない》
しばらく話して、お兄ちゃんから指摘されてようやく放置していたことに気づく。
いや、会えたのが嬉しいのは確かだけど、流石に放置はいけなかったよね。反省しないと。
「一夜、その、お兄ちゃん達を泊めることってできるかな?」
「え? んー、全部で6人でしょ? リビングのテーブルとソファ片付ければ一応行けそうだけど……布団ないよ?」
「あ、それは大丈夫。寝袋は持ってきたから」
確かに高級マンションだけあって部屋は広いが、流石にこれだけいれば手狭になる。それに、人数分の日用品が揃っているわけもないし、そこらへんはこちらで持参してきた。
寝袋というか、毛布を重ねただけのものではあるけど、これでもないよりはましだろう。
どうやら今は夏っぽいし、寒さで凍えることはあるまい。
「それなら大丈夫かな。あ、ハク兄は私の部屋で寝てね」
「いいけど、なんで?」
「せっかくまた会えたんだから、触れあいたいの」
「まあ、そう言うことなら構わないけど」
私としても、一夜のベッドで寝たいなと思っていたしね。
お兄ちゃん達には悪いけど、私の意思は伝えてあるし、特に文句を言うことはないだろう。
ただでさえ、こんな大所帯で詰めかけたのだから、家主の意向は反映しないとね。
「じゃあ決まりね。後は……ご飯は大丈夫?」
「食べてないね」
「なら、作ろうか。ちょうど私もこれからご飯のつもりだったし」
時間的にタイミングがよかったのかもしれない。
一夜はコンビニで済ませることも多いようだが、流石にここまで来てそれで済ますのはもったいないだろう。
冷蔵庫には食材もそれなりに入っているようだし、作ろうと思えば作れると思う。
まあ、あんまり消費させるのもあれだから、基本的にはこちらが用意したものを使いたいけど、初日くらいはいいかな?
後でお金が稼げたら、ちゃんと返しておかないと。宝石を現物で渡すのもいいけど、換金するのが大変だろうしね。
「んー、何作ろうかな」
「私も手伝おうか?」
「いや、いいよ。ハク兄はお風呂の用意してくれる?」
「わかったよ」
と言っても、お風呂を沸かすなんてボタン一つでできるからそんなにやることはないかもしれないが。
便利だよね。あちらの世界では、いちいち水を汲んで、それを温めてやらなきゃいけないからかなりの手間がかかる。
と言っても、私の場合は魔法で水も火も出せるから、そんなに苦ではないけれど。
入り心地だけなら、ここのとそう変わらないと思う。いや、シャンプーとかがちゃんとしてる分、こちらの方がいいのは確かか。
「しっかりした妹さんね」
「まあね。私にはもったいないくらいの自慢の妹だよ」
「今は私の妹でもあるのかな? お姉さんらしく何か手伝った方がいいかな」
「んー、まあ、今日はお客さんなんだし、ゆっくりしてればいいと思うよ」
「そう? なら、お言葉に甘えておくね」
そう言って、ユーリはソファでくつろぐ体勢をとる。
お兄ちゃんとお姉ちゃんは、まだ若干緊張しているようだ。
ソファとかテーブルとか、その辺は私の家でも同じような品質のものが揃っているけど、周りの雰囲気に気圧されてるって感じだろうか?
まあ、ざっと見るだけでも知らないものはたくさんあるだろうしね。
テレビとか、冷蔵庫とか、レンジとか。
いや、冷蔵庫は似たようなものがあるけれど、形はそこまで似ていないし。
話していたからテレビは消していたんだけど、つけたらまた面白い顔を見せてくれそうだ。
……と、思っていたらミホさんがリモコンを取ってテレビをつけた。
いきなり現れた画面と音にびっくりする二人。それを見てにやりと笑うミホさん。
ミホさんもなんだかんだ楽しんでいそうだね。
《は、ハク、これは?》
《テレビだね。あっちの世界で言うと……スクリーンの魔道具が似てるかな?》
《あのすっごく高い魔道具? そんなものがポンとあるなんて、この家はお金持ちなのかしら》
《まあ、それなりには稼いでると思うよ》
スクリーンの魔道具というのは、固定カメラでライブ中継するようなものと言えばわかるだろうか。
専用の魔道具に映した映像を、離れたところでスクリーンに映し出すって感じ。
基本的に、あちらの世界でカメラのようなものはないのだけれど、魔力を通してその場に何があるのかを再現することはできるようで、読み取った魔力の情報を基に、スクリーンに映像を再構築すると言ったことをしているらしい。
と言っても、発明されたのはごく最近だ。かなり高度なことをしている上、並の魔石ではそもそも再構築することすらできないので、純度が高い巨大な魔石が必要不可欠となってくる。
だから、仮に魔道具職人に技術があったとしても、おいそれとは作れない代物だ。
確か、作ったのはセレフィーネさんだったと聞いた。
以前、ドワーフの国に行った時に結果的に目論見を邪魔してしまった、魔道具の発明家の貴族である。
あの時、詫びとして魔石を渡したんだけど、もしかしてあれを使ったのかな? あまり踏み入って聞いたことはないけど、あの人の発明力は凄いと思う。
もしかしたら転生者だったりして? まさかね。
《チャンネルを変えたらいろんなものが見られますよ》
《ちゃんねる?》
《はい。例えば、これとか》
《おおー!》
ミホさんはリモコンで色々チャンネルを変えて遊んでいる。
今の時間帯だと、バラエティが多いだろうか?
クイズ番組とか、季節柄のせいかホラー番組とか、そう言うのを色々やっているようである。
ホラーはなぁ、最近は見る気も起きなくなっちゃったよね。
いや、もちろん、あちらの世界にテレビはないし、ホラー番組を見る機会なんてないけれど、いざ見られるからと言って見たいかと言われたらそんなことはない。
以前、配信でホラーゲームをやった時にわかっていたことだけど、なんとなくホラー耐性がなくなってきたように思える。
魔物としてのゴーストとかなら全然平気なんだけどね。なんでだろうか。
《これは、歌手か? 歌手が集まって歌を披露しているのか》
《音楽祭でもやっているの?》
《それは歌番組ですね。この時間帯なら割とやってるみたいですよ》
最終的に、歌番組に落ち着いたようである。
その歌声に感動しているというのもあるが、その声量の大きさや、周りの設備なんかに驚いているというのもあるようだ。
あちらの世界でも、歌手はいるし、ステージも大きな場所だからそこまで大差はない気もするけど、やっぱりテレビ越しだから違うんだろうか?
終始テレビに見入っている二人を、ミホさんは微笑みながら見守っている。楽しそうで何より。
私はそんな様子を後ろで眺めつつ、時折、一夜の手伝いをする。
ちょっと騒がしいかもしれないけど、その騒がしさがとても心地よかった。
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