第六十四話:家族の紹介
一夜の部屋は特に変わりはないように見えた。
まあ、急いで掃除したんだろう。部屋の隅の方にゴミがはみ出たゴミ袋が置いてあるのが見える。
なんでもそつなくこなす優秀な妹ではあるが、やはり私生活までは完璧にはならないようだ。
まあ、私は全然気にしないけどね。というか、人のこと言えないし。
「ど、どうぞこちらへ……」
一夜は一緒にいたお兄ちゃん達に気づくと、リビングへと案内し、お茶を用意する。
お兄ちゃん達も部屋を興味深そうに見回りながらもソファに座り、お茶を飲んでまたびっくりしたりしていた。
いちいち驚いた顔するのが面白い。まあ、そりゃあちらの世界と比べたら大抵のものは品質がいいから当たり前だけど、ただの紅茶一つでここまで驚いてくれると思わずニヤニヤしてしまう。
なんというのかな、自分の得意なフィールドに相手を誘い込んだ時の余裕というのだろうか。
別にマウント取りたいわけではないけど、普段冷静沈着な二人が新鮮な反応してくれるとほっこりするよね。
「ええと、だ、誰?」
「うん、ちゃんと紹介するから、そんなに緊張しないで」
一夜はお兄ちゃんを特にチラチラ見ながらこちらにひそひそと話しかけてくる。
まあ、唯一の男性というのもあるだろうけど、イケメンでもあるしね。こちらの世界で言うなら、それこそファンタジー世界から抜け出してきたような人だ。
そんな二次創作にありそうな人が現実にいたらそりゃびっくりするだろう。私の時だって驚いていたしね。
「じゃあ、順番に。この人はラルド、私のお兄ちゃんだよ」
「お、お兄ちゃん……そう言えば、配信でちょろっと言ってたね」
「うん、そのお兄ちゃん」
しげしげと眺めているからか、お兄ちゃんは訝しそうに一夜のことを見ていた。
一応、フォローはしておいたけど、しばらくはみんな一夜の好奇の目線に晒されそうだね。
「で、こっちがサフィ。お姉ちゃんね」
「お姉ちゃんは私じゃ?」
「いや、一夜は妹でしょ」
確かに、今の見た目だと私の方が妹っぽいけどさ。
以前、こちらに来た時に、ヴァーチャライバーとしてデビューしたが、その時の設定は一夜のキャラである月夜アカリの妹という設定だった。
だから、妹でも間違ってはいないけど、気分的にはまだ兄なのである。
配信内ではともかく、日常ではまだ兄面させてほしいなぁ。無理かな。
「で、こっちがユーリ。前に言ってた、私の婚約者。もう結婚してるけどね」
「まじで女の子なんだ……」
「ちなみに男にもなれます」
「謎が増えたんだけど!?」
まあ、私の元々の性別を考えたら相手は女性なのが普通かもしれないけど、今の性別を考えると男性でも間違いではない。
ユーリが意を決して性転換を試みてくれたからうまく解決できたけど、そうでなければ私は未だに未婚だっただろうね。
家の手伝いも進んでやってくれるし、私のことをとても理解してくれている。とてもいい子だ。
「そして……アリア、ミホさん、姿を現してくれる?」
『いいの?』
「うん。一夜は信用できるから」
『わかった』
『了解です』
そう言って姿を現す二人。
いきなり現れた二人に、一夜は目を丸くして驚いていた。
そう言えば、精霊が姿を消せることは言ってなかったっけ? そもそも精霊の話をあまりしなかったような気がするが。
まあ、悲鳴を上げなかっただけ良しとしよう。
「この二人が最後。私の契約精霊のアリアと、お兄ちゃんの契約精霊のミホさん」
《アリアだよ。よろしくね》
「ミホです。よろしくお願いします、一夜さん」
「あ、こ、こちらこそ……」
そういえば、アリアもこちらの言葉は喋れなかったね。
いつも聞き慣れているから勘違いしそうだけど、アリアの言葉はあちらの世界の言葉だった。
一夜も、恐らくミホさんの言葉だけを聞いて返事したんだろう。アリアにもきちんと教えておけばよかったかな?
まあ、それは追々考えていくとしよう。
「これで全員。みんな同じ家で暮らしているメンバーだよ」
「なんというか、すっごいファンタジーしてるね……」
「そうかな?」
「そうだよ! 何よこのイケメン&美女の組み合わせは! こんなのが現実にいたらハーレム作れるよ! ユーリさんもそれに全然負けてないし、アリアちゃんは可愛いし、ミホさんはなんか日本人っぽいし、もうわけわかんない!」
「どうどう……」
うん、まあ、言われてみれば確かにそうなのかもしれない。
そもそもの話、精霊と一緒に暮らすってこと自体がおかしな話だしね。
精霊が人と一緒に暮らすなんて本来はありえないことだし。それこそ、よっぽど気に入られて、契約精霊にでもならなければ無理だ。
それに、お兄ちゃんとお姉ちゃんは、Aランクという高レベルの冒険者でもあるし、ユーリもユーリで巷では聖女なんて呼ばれるくらいぶっ飛んだことしてるし、少なくとも普通の家庭ではないだろう。
一夜が発狂する気持ちもわかる。
「はぁはぁ……」
「落ち着いた?」
「まあね。というか、ハク兄が魔法使ったんでしょ?」
「まあ、ね」
いつまでも発狂されても困るから、鎮静魔法でちょちょい、っとね。
「それで? 前回あれだけ会えないかもしれないって言って置いて、二か月くらいで戻ってきたのは一体どういうことなの?」
「いや、こっちの感覚ではもう四年半も経ってるんだよ。言ったでしょ、時間の流れが違うって」
「そう言えばそんなこと言ってたっけ……。意外に早く会えたから、ちょっと拍子抜けしちゃった」
ほっと安心しているような表情を見る限り、会えて嬉しいのは確かなようだ。
でも、やっぱりこの時間差はどうにかしたいよね。
一夜を待たせないという意味ではありだけど、こちらの世界に滞在する限り、あちらの時間がどんどん進んで行っちゃうのはやはり不便である。
二週間もいれば一年経っちゃうからね。流石に一年丸々空けるのはやばいし、どうにか解消したいところではある。
時間の流れに関しては、魔法陣を調べてもなんもわからなかったけどね。
「また会えてよかった」
「うん、それは私もそう思う」
とはいえ、滞在は慎重にしなくちゃいけないけど、行くだけだったら気軽にできるようになったので、もう少し頻度は増やせそうである。
うまくすれば、配信活動もできたかもしれないね。まあ、もう退職しちゃったから無理だと思うけど。
「今回はどのくらいいられるの?」
「一応、一週間程度の予定ではあるよ」
「そっか。それじゃあ、また一緒に配信できるね」
「そうだね。一夜の方は、何か変わったことはあった?」
「あ、そうそう、ハク兄が来たら言おうと思ってたんだけどね」
そう言って、この二か月ほどで判明したことを話してくれた。
特に、私の加護は結構重要な効果を及ぼしたらしい。
というのも、あれ以来、身体能力やら動体視力やらが強化されたようで、いつも以上にゲームがうまくプレイできるようになったり、ランニングをしても疲れなくなったりと、色々な変化があったようだ。
確かに、私は一夜の契約精霊になったけれど、まさかそんな効果があるとは。
まあ、プラスな効果ならいいんじゃないだろうか。ゲームがうまくなるなら、配信活動にも生かせるだろうしね。
しばらくの間、お兄ちゃん達そっちのけで、私と一夜で盛り上がっていた。
感想ありがとうございます。




