第六十三話:妹と再会
その後、赤橋さんの方からこのアパートのことについて教えられた。
このアパートは、赤橋さんが昔から管理しているもののようだったが、立地が悪い関係なのか、あまり入居者がいないらしい。さらに、住んでいた数少ない入居者の一人が部屋で自殺をしたことから、余計に不気味だと印象付けられ、住む人はいなくなっていったのだとか。
仕方ないからもう畳んでしまおうと思っていた時に、ローリスさんのお父さんから話を持ち掛けられ、そう言うことならと貸し出すことを決めたようである。
いわゆる訳あり住宅ってところだろうか。自殺した人がいるとなれば、確かに印象は悪くなっちゃうよね。
でも、こちらにとってはいい拠点が手に入ったのだから運がよかったとも言える。この状況で、それに文句を言う人はいないだろうしね。
「部屋は人数分用意してある。家具も最低限ではあるが用意した。好きに使ってくれて構わないが、くれぐれも壊すんじゃないよ」
「それはもちろん」
「ならいいさ。それで? ちょっとばかし人数が少ないようだが、今回はこれだけかい?」
「ああ、いえ、一気にくると悪目立ちすると思ったので、少人数に分けて移動したんです。後8人います」
「そうかい。なら、部屋の鍵は渡しておくから、後から来た奴に渡してくんな。何か問題が起こったらあたしに報告してくれりゃいい」
「わかりました」
それにしても、丁寧語のローリスさんってなんか新鮮だな。
いつも強気な感じだけど、流石に年上は敬うのかな。
ちょっとレアなものが見れて少し得した気分である。
「ハク、話はついたから、残った人達を迎えに行くわよ」
「あ、はい。また二人ずつですか?」
「それが無難じゃない? 一応、今回は特に問題は起きなかったわけだし」
「目立ってはいましたけどね」
でもまあ、残り8人をいっぺんに連れてくるよりはましだろう。
そう考えて、往復を繰り返すことにした。
そうして、ようやく山に残っていた人達を全員連れてくることに成功したのである。
「やっと終わった……」
「ちょっと長引きすぎたわね」
この世界に来たのは朝だったが、今はもうすっかり暗くなってしまっている。
それなりに遠かったというのもあるけど、はしゃいで人外要素を見せてしまいそうになる事故があったり、何度も同じ道を通ると怪しまれるからと別の道を通って迷子になりかけたり、色々と大変なことがあったから仕方ないのだけど、ここまで苦労することになるとは思わなかった。
こちらの一日があちらの世界での一か月と考えると、単に移動だけで一日が潰れてしまったのはちょっと悲しいものがあるけど、まあこれは必要経費だろう。
次回以降は、どうにかここにスムーズに来れるように何かしらの策を立てておきたいところだね。
「で、今日の寝床だけど、どうする? 私の家に来る?」
「いえ、私は妹の家に行きますから」
「ああ、そりゃ会いたいわよね。でも、マンションじゃなかったかしら? そんな大所帯で大丈夫?」
「まあ、一日くらいなら多分……」
前回、パソコンは買ったが、スマホは買ってなかったので、連絡手段がない。
通信魔法を飛ばすというのも手だが、一夜は魔法使えないし、いきなり頭の中に私の声が響いたらびっくりするだろうからそれを使うのも憚られる。
そう言うわけで、もれなくアポなしで行くことになるけど、まあ一夜なら大丈夫だろう。多分。
お兄ちゃんを連れて行くのはちょっと気になるけどね……。
「それじゃ、私は自分の家に行くわ。何かあったら連絡するわね」
「はい、多分跳んでいくでしょうけど、気づかれないようにお気をつけて」
「ええ。それじゃ」
そう言って、ローリスさんは去っていった。
昼間に大所帯でやるには難しかったが、暗くなった今、一人で屋根の上を飛び回るくらいだったら多分ばれないだろう。
見られたらやばいけど、多分大半は見間違いだと思うだろうし、そこまで気にしなくても大丈夫だと思う。
「それで? 妹の家に行くって言ってたな」
「うん。一夜って名前ね」
「ヒヨナ、なんか面白い名前ね?」
「よく言われる」
私の名前の白夜も、ハクヤと読むけど、よくビャクヤって呼ばれてたしね。
多分、夜って字を入れたかったんだろうけど、よくもまあ思いつくものだ。
ちなみに、私の名前は遠夜と迷っていたとか言っていた気がする。まあ、どちらでもいいけども。
「その家まではどれくらいかかるんだ?」
「まあ、ここは転移で行こうかな。一応、人目もあるかもしれないし」
別に、このメンツだったら飛んでいったって問題ない気はするけど、人が多い分、万が一ということもある。
それに、今の私だったらそこまで気にしなくても神力は有り余ってるしね。転移の一発や二発問題はない。
いざという時はミホさんだっているわけだし。
……というか、転生者達も転移で送ればよかったのでは? 一回目は場所を知らなかったからともかく、二回目以降はわかってたわけだし。
ちょっと失敗したな。
「それじゃ、行くよー」
「おう」
「転移」
その瞬間、目の前の景色が切り替わり、一夜のマンションの部屋の前へと移動する。
今考えると、通路へ直接転移するのは危なかったかな? 人がいたかもしれないし。
屋上とかの方がよかったかもしれない。ちょっと反省だね。
まあ、誰もいなかったから良しとしよう。
「ここは、びるとかいうやつか?」
「ここはマンションだね。ビルの居住区版ってところかな?」
実際、このマンション結構高いしね。物理的にも、値段的にも。
まあ、それはいいとして、ちょっと緊張してきた。
いや、以前と違って、私のことはすでに一夜は知っているし、信じてもらえないかもしれないっていう不安はないけれど、これでも四年ぶりの再会である。
あちらはまだ二か月くらいしか経っていないだろうけど、いざ会えるとなるとちょっと興奮してきた。
ひとまず、深呼吸をした後、呼び鈴を鳴らす。
返事が聞こえた後、しばらくして扉が開かれた。
「……ハク兄!?」
「ひ、久しぶり、一夜」
「え、ちょ、来るなら言ってよぉ!」
そう言って、一夜はすぐに引っ込んでバタバタと何か騒いでいた。
多分、また掃除してなかったんだろうな。別に私は気にしないけど。
一応、お兄ちゃん達もいたんだけど、気づかなかったのかな? まあ、戻ってきた時に紹介すればいいか。
私は変わってない様子の一夜を見て、ふふ、と笑みをこぼした。
感想ありがとうございます。




