第六十一話:転生者の願い
しばらく待っていると、ウィーネさんがやってきた。
まあ、別に集合場所を教えてもらえればこちらから行ってもよかったんだけど、ちゃんと迎えに行くというので待っていたわけだ。
あちらにも都合があるだろうしね。そこら辺に関しては特に問題ない。
「これで全員か?」
「はい」
「わかった。みんな私の近くに集まれ」
ウィーネさんの指示に従って集まると、周囲に氷の魔法陣が展開される。
そして、すぐに足元がなくなったかのような浮遊感を感じると、次の瞬間にはダンジョンの前に立っていた。
「やっぱり転移って凄いわね。この距離を一瞬なんて」
「俺もミホに教わっているが、流石にあれはできる気がしないな」
お兄ちゃんとお姉ちゃんは辺りをきょろきょろ見回しながら感心している。
若干慣れつつあるのか、以前のように驚きはしないけれど、よくよく考えると転移に慣れるほど周りには転移魔法使える人が多いっていうのもおかしな話だよね。
本来、転移魔法は竜の専売特許で、他にできる人がいるとしたら、精霊とか、一部のエルフとかそのくらいだったのに。
ユーリもできるし、ミホさんもできるし、アリアもできるし、当然私もできると、二人の周りは転移魔法の使い手ばかりだ。
むしろ、二人の常識が変わらないかが心配である。そのうち長距離移動の際に、転移魔法でいいじゃん、とか言って周りをドン引きさせないでよね?
「お帰りウィーネ。そしていらっしゃい、ハク」
「ローリスさん、おはようございます」
「ええ、おはよう。今日からしばらくよろしくね」
「こちらこそ」
ウィーネさんの後ろには、ローリスさんを筆頭に、例の10人がいる。
みんなこの日を楽しみにしていたのか、目を輝かせてうきうきとしているようだった。
ざっと見た限り、そこまで見た目で問題になるような人はいない。
まあ、そう言う見た目の人ばかりを選んだという話だから当然なのだけど。
「そうそう、知っていると思うけど、一応紹介しておくわ。彼女はルル。今回のメンバーのリーダーになったから、私に報告できない時は彼女にお願いね」
「ルルです。ハクさん、ご一緒できて光栄です」
「いえいえ、リーダー役、ご苦労様です」
ルルさんは確か、ハルピュイアの魔物だったかな。
人型で腕に翼が生えていて、足が鳥のようになっている魔物である。
ハルピュイア自体はそこまで強くはないけれど、連携力が高く、ハルピュイアの狩場に入ってしまった人はたちまち八つ裂きにされてしまうとか言われているので、一応Bランク指定されている。単体では少し落ちるけどね。
ヒノモト帝国には、もっと危険度の高い魔物もいるけど、だからこそルルさんがリーダーになったのは意外だな。
危険度だけなら、もっと上の人もいるけれど。
「私が一番人間に近いですからね。それに、遠くに声を届けることもできるので、連絡役としても期待されているみたいです」
「なるほど」
確かに、ルルさんの見た目はぱっと見人間に見える。
元々、ハルピュイアは【擬人化】を使わなくても人間の見た目に近いせいか、【擬人化】まで使うと、ほとんど人間と変わらない見た目になってくれるようだ。
ハルピュイアとしての要素は、せいぜい腕に生えた翼くらい。
手自体は普通に人間だし、これくらいなら長袖を着れば普通に隠せる。
それに、どうやら風魔法で隠密魔法の真似事ができるらしく、いざという時は対処する役割も任されているようだ。
うん、納得のリーダーである。
まあ、他の人も人間に近い見た目の人は多いけどね。今回はルルさんが一歩優秀だったってところだろう。
「私も精一杯頑張るつもりですが、いざという時は頼ってもいいですか?」
「はい、それはもちろん。と言っても、同じ転生者なんですからそこまで戸惑うことはないと思いますが」
「だといいですけどね……」
ルルさんは期待もしているようだが、同じくらい不安も抱えているらしい。
まあ、そりゃね。一度は死んだ世界にもう一度行くわけだし、何か変わっていることもあるかもしれない。
そうでなくても、自分の家族に会いたいとか、死んだ場所を見てみたいとか、色々とあるだろう。
一応、今は別人だし、あちらの世界での地盤も整っていないから、少なくともそれらが整うまでは家族や知り合いと会ったりするのは禁止しているようだ。
だから、そう言う問題は起こらないとは思うけど、気になるのは事実だろうしね。
あんまり異世界の存在を広めるのはいけないことかもしれないけど、早いところ許可が出て家族とかに会えるといいけれど。
「さて、それじゃあ行きましょうか。ウィーネ、留守の間お願いね」
「お任せください」
ウィーネさんは残るので、ここまでのようだ。
みんなで別れを告げ、ダンジョンの中に入っていく。
で、このダンジョンだが、あれからかなりの改修が成されているらしい。
魔法陣があるのは最下層、一番奥ではあるが、そこまで進むには道中に出現するゴーレムを突破する必要がある。
しかし、そのゴーレムはどうやら神力による攻撃しか受け付けないようで、神力を持っていない人が攻撃しても何の意味もない。
それに普通に強いし、これらを回避しながら進むのはとても面倒くさい。
ではどうするか、その答えが、このエレベーターである。
この世界ではオーバーテクノロジーもいいところなエレベーターではあるが、どうにか技術者を見つけ出し、このダンジョンに敷設することに成功したらしい。
おかげで、魔法陣がある階層まで直通で行けるようになり、さらに魔法陣までの道も整備してゴーレムが入ってこないように調整したのだとか。
まあ、ダンジョンの魔物の出現条件を考えると、もしかしたら通路内にスポーンする可能性もなくはないけど、それでも普通に攻略するよりはよっぽど簡単に行けるようになったらしい。
なんか、ここまでインフラが整備されると、ダンジョンでも何でもないような気がするが、これ以外の場所は普通に未探索の場所ばっかりらしいので、全くダンジョン要素がなくなったというわけでもないか。
「なんというか、地球へ行こうという執念がすさまじい……」
「それはそうでしょ。今はどうだか知らないけど、最初の転生者の願いなんて、『元の世界に帰りたい』が普通じゃないの?」
「まあ、それはそうですが……」
実際、ここにいる地獄の修業を潜り抜けた人達は、地球に帰りたいと願い、こうして神力を獲得するまでに至ったのだし、あちらの世界でよほど理不尽な目に合っているでもない限りは戻りたいと思うのが普通なのかもしれない。
私だって、一夜や両親に会いたいと思っているし、最初の故郷を捨てるつもりは全くない。
でも、何というか、この世界に馴染みすぎたというか、今の私の故郷はこちらの世界なんだよね。
まあ、私が竜と精霊という力を持っているからこそ、こちらの世界に馴染めたというのはあるけど、そのせいで地球に帰りたいという衝動が薄れているのかもしれない。
これはいいことなのか悪いことなのか、どっちなんだろうかね。
「まあ、現状元の世界に帰りたいなんて言ってる転生者は割と少数派だけどね」
「ですよね? 私もそう思います」
「私だってそうだしね。お父さんが心配なだけで。ヒノモト帝国の転生者達もそうだし、聖教勇者連盟の連中もそうなんじゃない?」
「良くも悪くも、いろんな能力を持って生まれてしまいましたからね」
転生者は基本的に特殊な能力を授かっているから、それらがある限りわざわざ地球に帰らなくても、快適な生活は送れるのである。
もちろん、この能力を持った上で地球に帰るという選択肢もあるが、基本的に地球には魔力がないから、魔法系の能力はいずれ使えなくなるし、そうでなくても大抵は戦闘特化な能力ばかりだから、地球では出番がない。
能力を有効活用しつつ、よりよい生活を送るとなったら、こっちの世界の方が都合がいいことはよくあることなのである。
戻りたいと思う人は多分、あちらの世界に未練が残っていて、それを解決するまで気が済まないって人だろう。
後悔しながら死んだ人だってたくさんいるだろうしね。それらをやり直せる機会があるなら、戻る選択肢も生まれるかもしれない。
この世界に残るのか、あちらの世界に戻るのか、どちらがいいかはわからないけど、せめて迷惑かけないように生きていかないとね。
そんなことを考えながら、魔法陣の下へと向かった。
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