第五十話:契約者の正体
スレートさんに憑依している奴の目的だけど、恐らくはアースを殺すことっぽい。
かなり深い恨みを抱えていたようだし、アースさえ殺せれば後はどうなってもいいみたいなそんな感じだった。
その上で、あわよくば教皇になって偉くなりたいとかそんな感じなのかもしれない。
一応、アースに悪魔召喚の罪をなすり付け、それを自分の首が飛ぶこともいとわずに暴き、糾弾したというのは教会的には評価される内容かもしれないし、ワンチャンないこともないだろう。
本格的に軍とコネを結び、下手したら国家転覆まで狙っているのではないかとも思うけど、場合によっては本当にそうなる可能性もある。
さて、ここまで考えると、予想通り、アースに深い恨みを持ち、悪魔に魂を売った人の犯行ってことになる。
問題は、その正体だ。
「なんか、言動的に私にも恨みを持ってるっぽいよね」
最初に会った時に飛び出して来たあの発言。恐らく、スレートさんに憑依している奴は私のことを知っている。
あの剣幕、もしかしたら私のことも殺したいと思っていたんだろうか。
すぐに自分が別人になっていると気づいて取り繕ったようだけど、あそこであえて私に仲間になるように言ったのは、アースとの同士討ちでも狙ったんだろうか。
私とアースの共通点といえば、竜であるということだけだ。
人姿では、年齢も性別も身長も役職も何もかもが違う。表面上は他国の、それも大陸を挟んでのものなので、親子とかそう言う関係の訳もない。
私とアースを結び付ける要素があるとすれば、それこそ竜であるということくらいしか思いつかない。
じゃあ、あの人がアースや私のことを竜だと知っているかと言われたら、普通はありえないと思う。
私の場合、自分の正体が竜であることを明かしているのはほんのごく一部だけだ。それも、信頼のおける人ばかりである。
事故で見せてしまったことがあるとすれば、お兄ちゃんを探しに行った時に出会った鳥獣人の皆さんと、カエデさん達くらいだろうか。
鳥獣人の方々は、移住した先の島で平穏に暮らしているし、助けた側なのだから恨みを持つとは考えにくい。
カエデさん達は最近会ってないけど、コノハさんから順調に村を大きくしていると報告があったと聞いたし、何か関わっているとも思えない。
聖教勇者連盟に攫われた時に、竜であるエルと一緒にいたことを目撃されているけど、あの時いた人物はすべて皆殺しにしている。
いや、残っている人がいたな。後ほど帰って来て、神代さんの願いもあって、殺さずに竜の谷に幽閉していた人物が。
「そういえば、最近死んだって言ってたよね」
元教皇、クシューリガルを始め、聖教勇者連盟の上層部の人達。
あれらは、今も竜の谷に囚われているはずだが、エルの話によると最近になってクシューリガルは狂って死んだらしい。
もしそれが、悪魔召喚の結果であり、死んでゴーストとなったことで檻から抜け出せるようになったのだとしたら、竜であるアースに恨みを持つのも納得できるし、教皇の座を狙っているのも納得できる。
悪魔と契約したのがクシューリガルなのか、側近の誰かなのかはわからないけど、その様子だと恐らく捕らえた人達は全員死んでいるだろう。悪魔召喚をした首謀者によって、生贄にされただろうからね。
そう言うのはちゃんと報告してほしいけど、まあ、私も興味なかったことだし、それを言うのは無理か。
「ねぇ、エル。竜の谷で捕らえていた教皇一派って、もしかして全員死んでる?」
「え? は、はい。少々、グロテスクな死にざまだったようなので、詳しくはお伝えしませんでしたが、教皇を始め、全員が死亡しています」
「これは繋がったかなぁ」
犯人はクシューリガル、またはその側近の誰か。
アースの人姿を知っているのは、竜人とかから伝え聞いたか、あるいはたまたま竜の谷にやってきたアースを見たってところだろうか。
元々、聖教勇者連盟のトップだったわけだし、世界各地のトップ層の人物くらい把握しているだろう。
その中に、アースの名前があり、さらにもしかしたら人じゃないかもなんて噂があったら、そいつこそが自分を閉じ込めた竜だと確信するには十分な気がする。
わざわざ社会的に抹殺しようとしているのは、自分が味わった苦しみを、少しでも味わわせたいのかもしれないね。
「さて、そうなるとちょっと面倒なことになって来たね」
仮にこの仮説が合っているとして、問題はどうやってスレートさんから引きはがすかだ。
目的がアースが失脚、あるいは処刑されることだとすると、それを叶えるまでで悪魔との契約は終わらない。
自らを生贄に捧げてまで悪魔召喚に頼ったというなら、その恨みは相当なものだろうし、ただ失脚するだけじゃ収まらない可能性もある。
そうなると、契約を満了させて終わらせるっていうのは無理がある。下手したら、私もターゲットにしてくる可能性もあるね。
契約を満了させるのが無理なら、破棄させればいいだろうけど、悪魔がそれに応じるわけもないし、仮にあの人を脅して契約を終わらせるっていう言質を引き出したとしても、悪魔は納得しないだろう。
それこそ、スレートさんが死ぬまで酷使するに違いない。
最悪、アースが助かるならスレートさんを見捨ててもとは思わなくもないけど、流石にこんな可哀そうな人を見殺しにはできない。どうにかして助けてあげたいよね。
「契約の破棄も満了も無理、悪魔を直接叩き潰すのも無理、後何かあるかな?」
ごり押しができないのが辛い。
一応、皇帝に頼んで、一時的にアースを失脚させ、偽の公開処刑をするとかすれば、もしかしたら騙されてくれるかもしれないけど、あの人の欲深さを考えるとそれで終わらない可能性もある。
それこそ、私に目標を切り替えて、同じようなことする可能性もあるわけで、それじゃいつまで経っても終わらない。
もちろん、悪魔との契約の関係上、最初に契約した内容、つまりはアースを失脚させるというのが達成された時点で契約満了となり、悪魔が手を引くって可能性はあるけど、多分新たな願いを言った瞬間現れて、また契約をしてくるんじゃないかなぁ。
これ以上払える対価があるとは思わないけど、悪魔にとって対価なんてただのスパイスみたいなものだし、最低限何か払えるなら契約を結ぶ気がする。
欲深い契約者も厄介だけど、やっぱり大本の悪魔が厄介すぎるよね。
どうにか引きはがせればいいんだけど。
「悪魔を相手にすること自体はできるかもしれませんが、それで種全体に目を付けられるのが厄介ですね」
「それね。倒すこと自体は今ならできそうだけど、それで一生追い掛け回されるのは流石に困るし……」
「ねぇ、それなら天使に頼むのはどう?」
「え?」
そう思っていたら、アリアからそんな提案が飛び出してきた。
確かに、悪魔は天使と同等の力を持つと言われていて、お互いに対を成す存在として伝えられている。
天使が堕天した姿が悪魔という説もあるらしいし、悪魔と天使はお互いに敵同士のはずだ。
であれば、確かに天使に頼めば戦ってくれそうではある。
まあ、問題は天使に連絡する手段がないことだけど。
でも、私も一応神剣に選ばれたわけだし、監視の対象には入っているかも? こちらから呼びかければ、もしかしたら応じてくれるかもしれない。
リエルさんとかを見てるといまいち頼りないけど、カオスシュラームをすぐさま取り払ったのは天使なのだし、だめ元でやってみてもいいかもしれない。
「まあ、やるだけやってみようか」
まずはやってみよう。そう思って、私は近くにいるかもしれない天使に【念話】を送ることにした。
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