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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第三章:ぬいぐるみの魔女編
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第八十一話:作戦は

 戻ってきたアリアは私の横に着地すると報告を始めた。


「屋敷を張るついでに中も色々調べてきたよ」


『どうだった?』


「構造は大体わかった。例の女の子の私室らしき部屋も見つけたよ」


 お姉ちゃんの様子を見ているだけかと思ったら色々と調べてくれていたようだった。

 お姉ちゃんのことも気になるが、元に戻る方法も探さなくてはいけない今、サリア関連の情報が手に入るのは好ましい。


『なんで私室だと?』


「ぬいぐるみがいっぱいあったから。それはもう部屋中に収まらないくらいね」


『なるほど……』


 まさか、その部屋のぬいぐるみが全員元人間だったなんてことはないよね? もしそうだとしたら今頃行方不明者が続出しているはずだし。

 でも、何人かはいそうだな。お気に入りの人間をコレクションでもしてるのかな。だとしたら、私とお姉ちゃんを揃えたがってたのはそれが理由?


「でね、一応話しかけてみたんだけど、そしたら一人だけ【念話】を返してきた人がいたよ」


『え、誰?』


「それがね、アンリエッタって名乗ったの」


『アンリエッタ? まさか、アンリエッタ夫人!?』


 偶然同じ名前だったのかもしれないが、その名前はまさしくその家の現当主の名前だった。


「うん。確認したら本人だって言ってたから間違いないと思う」


『な、なんでアンリエッタ夫人がぬいぐるみに……』


 アンリエッタ夫人は娘を溺愛し、そのあまり娘の悪事を見て見ぬふりをしているとの噂。実の親を手に掛けたということにも驚きだが、そこまでする理由がわからない。

 それにアリシアの話では、最近も王城で見た人がいるとのことだった。

 一体どういうことだろう?


「彼女はこう言っていたわ。娘を止めてほしいと」


『それって……』


「ええ。彼女は確かに娘を愛していたみたいだけど、それと同時に恐怖もしていたみたい。時折元に戻してもらってるみたいなんだけど、それも一時的で、家に帰ったらすぐにぬいぐるみにされてしまうと嘆いていたわ」


『つまり、アンリエッタ夫人は娘を止めないんじゃなくて、止められない状況にあるってこと?』


「そうなるね。彼女が説得しても待遇が改善されることはなかったみたいよ」


 サリアは親の手に負えないほどに暴走している。となると、アンリエッタ夫人に交渉の協力を取り付けるのも無理が出てきた。

 相手は実の親すらぬいぐるみに変えてしまうほど容赦がない。親から何か言っても無駄だろう。

 やはり交渉するなら自力でやるしかないのか……。


「でも、もしかしたら交渉の余地はあるかもよ」


『え、どういうこと?』


「彼女の話だと、サリアはとても孤独な人みたい。あんな能力を持ってしまったばっかりに、友達と言える人がいない。うまくいきそうな人も能力の事を知った途端離れようとするから、サリアは気に入った人はぬいぐるみにして手元に置いておくようになったって言ってたよ」


 まあ、確かに人を自在にぬいぐるみにできるなんて知ったら驚くだろう。その矛先が自分に向くかもしれないと考えたら友達ができないのも納得できる。


「サリアはハクのことも話してたみたいでね、とっても可愛い子を見つけたから、その子の姉が揃ったら一番いい場所に置いてあげるんだって話してたらしいよ」


『それって、私とお姉ちゃんを揃えたがってたのは、部屋に飾るためってこと?』


「そういうこと。危害を加えるつもりはさらさらないんじゃないかな」


 てっきり例の組織がらみでの報復目的かと思っていたけれど、ただ単に気に入ったから飾りたいだけ? そんな理由で私ぬいぐるみにされたの?

 確かに、危害を加えてこない可能性が高いなら話し合いに持っていける可能性もある。サリアはぬいぐるみの気持ちがわかっていたようだったし、【念話】もあるから話すことに問題はないだろう。

 ただ、気に入られているとなると交渉は難航しそうだ。いや、サリアの気持ちを考えればできないことはないかな?

 交渉事は苦手なんだけどなぁ。でも、やるしかないか。

 いつまでもお姉ちゃんを一人であの屋敷に置かせておくわけにもいかないし。


『そういえば、お姉ちゃんは大丈夫だった?』


「うん、全く同じ場所に置かれてたよ。話しかけてみたら【念話】も返ってきたし、ちゃんと生きてるよ」


『よかった……。何か言ってた?』


「とても困惑してたみたい。ハクのことを話したら、絶望してたよ。守れなかったってね」


『お姉ちゃん、人の心配より自分の心配しようよ……』


 私のことになると過保護ってくらい心配してくれる。ちゃんと覚悟を持ったことはやらせてくれるし、分別がないわけではないんだけど、私優先に考える思考は相変わらずのようだった。


「一応無事だって言ったら安心したみたいだけどね。それ以外は特にないかな。たまにあの子が来るみたいだけど、特に何もされてないみたい」


 お姉ちゃんの待遇についてはおおむね予想通り。いや、予想通りでなくては困るんだけど。

 さて、これからどう動くべきか。

 アンリエッタ夫人の言葉を鵜呑みにするなら、サリアの目的は私とお姉ちゃんを私室に飾ることであり、特に恨みを持って行動していたわけではないと言える。

 こちらを害する気がないのならば交渉によってどうにか元に戻すように頼めるかもしれない。

 アンリエッタ夫人がちょくちょく戻されている以上、戻る方法があるのは確実だ。

 とはいえ、全く危険がないわけではない。

 交渉しているうちに相手の気持ちが変わるかもしれないし、そもそも交渉を受け入れられなければ私はみすみす捕まりに行くことになる。

 今は辛うじて動くことが出来るけど、それを知られれば何かしらの対策を講じられるかもしれない。そうなれば、再び逃げ出すのは困難だ。

 しかし、現状元に戻る手段があるとしたらサリアに交渉する以外にない。多少の危険は踏み越えていかなければならないだろう。

 となればやるべきことは……。


『明日、サリアに会いに行きましょう』


「大丈夫なの? もしかしたら、まだ危険があるかもしれないよ?」


『多少の危険は覚悟の上だよ、アリア。どのみち戻るにはサリアに会わなければならないんだから。でも、保険はかけておこうかな』


 もし交渉が決裂しても最悪脱出くらいはできるようにしておこうと思う。そのためには二人の協力が必要不可欠だ。


『二人にも協力してもらうことになるけど、お願いできるかな?』


「もちろん。ハクのためならどこまでも」


「ああ。せっかく会えた仲間だからな」


『ありがとう』


 即答してくれた二人に感謝する。私は二人に作戦を伝えることにした。

 作戦と言ってもそんな大それたことじゃない。万が一交渉がうまくいかなかった時の保険だ。

 うまくいくかどうかは私にかかっている。苦手な分類ではあるけど、そんなことは言ってられない。


『では明日、よろしくお願いします』


 粗方説明し終え、今日は休むことになった。部屋の明かりが落とされ、静寂が訪れる。

 アリアが寄り添ってくれる中、ふと窓の外を見ると、一際明るい月が地上を照らしているのが見えた。

 大丈夫、きっとうまくいく。そう自分に言い聞かせながら眠りにつく。

 相変わらず閉じられない目では寝付くのに時間を要したが、そのうち気絶するように眠りに落ちた。

 誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔女っ子サリアがまさかの黒幕、これだけ拗らせた存在が王都のど真ん中にいた事実が怖すぎる。こんなの闇組織でもコントロールできるのかね? チームハクさんが闇組織を完全に今回の件から分離させ…
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