第四十八話:痕跡探しと意外な反応
しばらく考えてみたけど、やっぱり理由が思いつかない。
仮に、自分を生贄にして悪魔を召喚できたとしても、何の意味もないわけだし、そもそもそんな簡単に自分を生贄に差し出せるような人はそういないだろう。
……いやでも、もしかしたらある可能性もあるのかな?
「もしかして、憑依している人って、すでに死んでいる可能性があるかも?」
自分を生贄に召喚したなら、本来ならただ悪魔を呼ぶだけで誰も契約者がいなくなってしまう。
けれど、この世界は死しても強い未練があれば、ゴーストとしてこの世に留まる可能性がある。
強い恨みを持っているのなら、その条件は満たしているだろう。
自分を生贄にして悪魔を呼び出し、残った魂がゴーストとなって悪魔と契約したとすれば、それでも契約できないことはないのではないだろうか。
考えてみれば、憑依っていうのは本来はゴーストが稀にやってくる行動である。契約者がゴーストなら、悪魔も憑依という形をとってもおかしくはない。
「なるほど、その可能性もあるかもしれませんね」
「大規模避難の際にすべてを失い、アースを恨んだ人が、自分を生贄にして悪魔を呼んだなら、あの状態も納得できるかもと思うんだけど」
「ですが、その場合の対価は何です? 自分を生贄にしなければならないほど切羽詰まっていたなら、対価など用意できないのでは?」
「対価が自分だったのではないですか? 召喚のための生贄は何とか用意できたが、対価が用意できなかったから、自分を対価に差し出したとか」
なんにせよ、その人物はもしかしたら、自分を生贄にしてまでアースを恨んでいたのかもしれない。
みんなを守るための行動だったのに、それでアースが恨まれるのは納得いかないけど、満足な説明ができているわけでもないし、ある程度は仕方ないのかもしれない。
「そうなってくると、誰が恨んでいるのかですね」
「教会関係者、というのが一番濃厚そうですが」
「教会関係者かぁ……」
確かに、憑依した先が教会関係者だし、教皇になりたいと口走っていたことから考えても、教会関係者である可能性は高いかもしれない。
あるいは、貴族とかの可能性もあるかな。賄賂とかを平然と受け取ろうとしたり、平民を馬鹿にしたりしていたという話もあるし、元からそれなりの地位にいて、そう言うことが当たり前だった人の可能性もある。
避難させた地域から考えて、そう言う人達も一定数は存在していただろう。それだけで絞り込むのはちょっと無理があるか。
「悪魔召喚をしたタイミングも重要かもしれません。もし召喚のために自らの命を差し出しているのなら、死亡届が出ているかも」
「デモ活動が始まったのは、大規模避難をさせてしばらくしてからでした。遅くとも、今から一か月半以内かと思います」
「この一か月半で死亡した人物か」
短いようで結構長い期間である。
まあ、私がのんびりしていたせいもあるけど、この間で死亡した人で、さらに不可解な死を遂げている人で調べれば、もしかしたらヒットするかも。
「アース、そう言うのは調べられる?」
「届けが出ているなら確認は可能です。ただ、そんなことをする人物が誰かに言うとも思えませんし、届けを出しているかはわかりませんが」
「そっか、その可能性もあるんだよね」
確かに、何もかも失った人が最後に頼った方法だとしたら、身寄りもないだろうし、一人でやった可能性も高い。
当然ながら、そんな禁忌の儀式を人前でやるわけないし、ひっそりと死亡していても何らおかしくはないよね。
となると、届けは調べるだけ無駄かな。調べるんだったら、そう言う痕跡がないか、町中を調べた方がいいかもしれない。
「なかなか難しそうだね」
「ですが、一歩前進したかもしれません。少なくとも、悪魔召喚の痕跡を調べるというのは早々にやるべきでしたし」
「考えが至らず、申し訳ありません」
「いや、悪魔が関係してるってわかったのは最近なんだし、仕方ないよ」
とりあえず、王都だけでも色々と痕跡がないか調べてみるべきだろう。
もちろん、全く別の場所でやった可能性もあるし、調べたところで見つからないような秘密の場所でやった可能性もある。
そこまでされたら流石に見つけられないけど、やらないよりはずっとましだろう。
まずは地道に捜査してみて、それでだめだったら、また別の手段を考えるしかないね。
「それじゃあアース、お願いできる?」
「承知しました」
そう言って、アースは戻っていった。
さて、痕跡がうまく見つかるといいけど。
そんなことを考えながら、こちらでも色々調べてみることにした。
そうして一週間ほどが経過した。
アースは皇帝に交渉し、悪魔召喚の可能性を示唆し、王都の捜索を開始してくれた。
流石に、家一軒一軒に直接踏み入ることは難しいけど、そう言うのはお母さんの力も借りて確認しているので問題ない。
ただ、今のところそれらしい痕跡は見つかっていないようだ。
よほど巧妙に隠された場所なのか、それとも王都ではなく全く別の場所なのか。
尻尾を掴むという意味では、王都に悪魔召喚の痕跡が残っていた方が楽でよかったけど、流石にそんなうまくはいかないようだ。
あれから私もそれらしい場所を探してはみているが、全く見つからない。これは、王都ではないのかもしれないね。
「流石に、王都以外ってなったら探しようがないけど」
一応、避難させた地域の誰かっていうなら、そこでやった可能性もあるけど、それを調べるには範囲が広すぎる。
すべてがソーキウス帝国の範囲でもないし、国外まで出られたらもう調べきれない。
精霊のネットワークも、精霊は悪魔を忌避するらしく、仮に召喚が行われていても近寄らないようなので、確認するには至っていない。
全部を調べていたら、一か月あっても足りないだろうし、どうにか絞り込みたいところだけど……。
「もう直接聞いてみようかなぁ……」
一つの方法として、スレートさんに直接聞くという方法がある。
いや、正確には憑依している奴にだけど、悪魔は契約について喋ってくれないけど、本人ならもしかしたら喋ってくれるかもしれないし。
まあ、仮にも別人に成りすましているんだから普通は喋らないだろうけどさ。でも、そうでもしないと情報が全然ない。
ダメ元でもいいから、話してみるべきかもしれない。
「なんだかんだ、会ったことはないんだよね」
こちらはすでに何度も顔を見ているが、あちらがこちらを認識した機会はない。
デモは遠巻きに見ているだけだったし、家に忍び込んだ時も寝ている時だったからね。
私の見た目は子供だし、デモ参加者のふりをして近づけば少しは口を割ってくれないだろうか。
そんなことを考えながら、今日も町へとやってくる。
目の前にはデモを行うスレートさんとそれに続く洗脳者達。
まあ、今となっては全員が洗脳されているわけではないみたいだけど、それだけアースの悪評が広まってきたということでもある。
どうにかできればいいんだけど……。
「……ぬ? き、貴様、こんなところで何をしている!?」
そう思いながら近づいてみると、スレートさんはこちらを指さしながらなにやら凄い剣幕で怒鳴りつけてきた。
え、なんで?
私は予想外の反応に、思わずきょとんとしてしまった。
感想ありがとうございます。




