第四十六話:悪魔祓いの魔法
さて、悪魔祓いの魔法の作製だけど、そんなに時間はかからないと思う。
やることは、悪魔によって憑依させられた人を元に戻すってだけの魔法だからね。限定的でも、やることが明確ならイメージもしやすい。
その気になれば、悪魔自体を払う、文字通りの悪魔祓いの魔法もできそうだけど、今回はそっちは作らないでおこうと思ってる。
悪魔を安易に消滅させたら面倒くさいことになるってわかったし、もしやるとしても根城を見つけて根こそぎって感じにしないと絶対面倒くさいことになる。
仮にも天使並みの強さを持っている奴を相手にしたいとも思わないし、戦わずに済むんだったらそっちの方を選ぶ。
「それで、スレートさんの様子はどうだった?」
「相変わらずですね。飽きもせずにデモ活動。アースの方も、面倒になって来たのか、行動が目に余る者は逮捕していっているようです」
「それ、スレートさんも逮捕されるんじゃ?」
「そうしたいのは山々ですが、引き際はわかっているのか、兵士が来る前に離脱しているようです。ずる賢さだけは悪魔にも匹敵するかもしれませんね」
デモ隊を先導している人物だから、その人を逮捕できれば、洗脳されていない人はそもそもデモを起こさない気もするけど、その本人が捕まらないっていうジレンマ。
流石に、軍事国家で皇帝にたてつく危険性はそれなりにわかっているのか、正当性が認められるであろうぎりぎりのところで責めているって感じだ。
そんな調子だからなのか、デモに参加していない人達も、アースは裏で何かやってるんじゃないかっていうイメージが浸透してきてしまっていて、アースを退任させろという声も次第に大きくなってきている。
デモ隊ほど過激ではないが、それでもアースの地位を脅かす状況だ。
まあ、アースが宰相の座に収まっているのは、あの国の竜脈を整備するためであって、城に入れさえすれば役職は何でもいいとは思うが、今まで頑張ってきた苦労をこんなくだらないことで無に帰されるのはちょっと納得できない。
早いところ事件を解決して、このくだらないデモを終わらせないと。
「魔法の方はどうですか?」
「ほとんど完成はしたよ。試してないから効果はわからないけど、多分できてるはず」
いかんせん、悪魔によって憑依させられた人を引きはがすって魔法だから、効果が限定的すぎる。
今までは、作った魔法は試してから実用化していたけど、こればっかりはぶっつけ本番で行くしかないだろう。
多分大丈夫だとは思うが、効かなかった時はまた作戦を考えないといけないね。
「アースから報告がありましたが、軍部でも少し暴動まがいのことが起こっているようです」
「暴動? デモに参加してる兵士がいるとか?」
「はい。基本的にはデモに参加しているのは教会の連中と一部の一般市民らしいのですが、割と長い間続けられた活動によって感化された人が出てきたのか、軍部でもそう言った動きが出始めたようです」
「それはまずいね……」
軍事国家だけに、その戦力はほとんどが軍によるものだろう。デモ隊に参加してやんややんや言うだけだったらまだいいが、もし仮に、軍の施設へ入る手引きをしたり、武器の横流しをするようなことになったらかなりまずいことになる。
今はまだただの文句だけだけど、そこに武器が加わったら殺し合いになる可能性もあるわけだし、それだけは阻止しなくてはならない。
「アースが根回しして、説得したり拘束したりしているようですが、じわじわと増えているようで、そのうち対処できなくなる可能性もあります」
「あんまり時間は残されてないってことか」
デモを終わらせるだけだったら、ある程度時間をかけても大丈夫そうだけど、アースの地位まで保証するとなるとちょっと急いだほうがいいかもしれない。
まあ、アースへの不信感が少しずつ芽生え始めている今、もう手遅れって可能性もなくはないけど、早々に解決し、アースの身の潔白を証明できれば、まだ何とかなる可能性がある。
そのためにも、まずは悪魔祓いを試してみないとね。
「なら、早めに行こうか。明日の夜、決行してみるよ」
「了解です。周囲の監視はお任せください。何かあれば、すぐに駆け付けます」
「お願いね」
さて、この魔法がうまく機能してくれるといいのだけど。
そんなことを思いながら、次の日の夜を待った。
そして次の日。私は再びスレートさんの家に忍び込んだ。
あの時は寝ていることを確認してから、さあかけようとなっていたが、今回はそんなことはしない。
起きていようが寝ていようが関係なく、部屋に入った瞬間に魔法をかける。
しかし、どうやらその考えは読まれていたようで、扉を開けた瞬間、目の前に悪魔が現れた。
「来るとは思っていたが、まさかこんなに早く来るとはね。しかも、なんだいその魔法は。あまりにも悪魔的すぎないか?」
「それ、褒めてるんですか?」
「褒めてるとも。悪辣さという意味でね」
一応、悪魔を無視して魔法をかけようとして見たが、発動しなかった。
この感じ、魔法陣自体を消されてるな。
私の魔法は、神様になったことによって色々強化され、魔法陣を出さなくても魔法を使えるようにはなっているけど、見えなくなっただけで存在していないわけではない。
その、見えない魔法陣を何らかの方法で消されているせいで魔法が使えないようだ。
そんなことができるなら、前回の時も結界を解いたり、水の刃を消したりできそうなものだけど、やはり手加減してたってことなのかな。
あるいは、契約に関することじゃないと本気出せないとか。
とりあえず、速攻でかけて悪魔を出し抜こう作戦は失敗に終わったようだ。
「なら、邪魔しないでください。私はただ、スレートさんを助けたいだけなので」
「そう言うわけにはいかない。契約者の大事な器なのだから、それを奪われてしまっては敵わない。そちらこそ、私のゲームを邪魔するのをやめてほしいのだが?」
「ゲームなら紙の上でどうぞ。人をもてあそぶゲームは、見たくありませんので」
「君ならこのゲーム、楽しんでもらえると思うのだがね。まあ、理解を得られないのなら仕方がない。これ以上邪魔立てするようならこちらも相応の対処はさせてもらうが?」
「別に一戦交えてもいいですが、起きちゃいますよ?」
「ふむ、それはまずいか。外で、でもいいが、また結界で縛られても困る。どうだろう、何もしないのであれば、このまま立ち去ることも吝かではないが?」
どうやら悪魔はあまり戦いたくない様子。
前回の聞き取り作業が堪えた? いや、ただ単に面倒くさいだけだろうか。
ごり押しが効かなかった以上、この後の行動はまだ決まっていない。
どうにかして悪魔を出し抜き、隙をついて悪魔祓いをする、あるいはどうにか契約を破棄させ、あるいは満了させて、終わらせる。
今のところはこのくらいだろうか。しかし、悪魔を出し抜くと言っても、そんなうまい具合に事が運ぶわけもないし、正直手詰まりではある。
さて、どうしたものだろう。せっかく悪魔に会えたことだし、だめ元で交渉でもしてみるか?
私は腕を組みながら、どうしたものかと思案していた。
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