第四十三話:聞き取り作業
悪魔は完全に拘束された状態。この状態で魔法を放てば、回避も防御もすることもできずに直撃を食らうことになるだろう。
もちろん、悪魔がその程度で死ぬとも思わないし、この結界だってすぐにでも解ける可能性はあるけど、わざわざ契約して何かを失うより、力づくで吐かせた方がよっぽどスマートというものだ。
ちょっとおしとやかじゃないかもしれないけど、まあそのあたりは今はどうでもいい。
せっかく黒幕らしき人が来てくれたのだから、利用しない手はない。
「ぐっ、なかなか強力な結界じゃないか。高位の精霊だとは思ったが、これほどとは思わなかったよ」
「それで、教えてくれるんですか? 教えてくれないなら、ちょっと残念なことになるかもしれませんが……」
「はは、私は悪魔だ。契約は絶対に守られなければならない。契約以外で悪魔を縛ることはできないよ」
「わかりました。なら、ちょっと痛いかもしれませんが、我慢してくださいね」
そう言って、私は周囲に水の刃を形成する。
威圧する目的なら火魔法でもよかったけど、今は夜だし、周りに気づかれる可能性もあるのであまり派手なのはやりたくなかった。
「脅しのつもりかい? 悪魔がその程度の脅しに屈するとでも……」
「えいっ」
「ぎゃぁあああ!?」
第一射が悪魔の体を斬り付ける。
流石悪魔と言うだけあるのか、本来なら腕の一本持っていけるほどの火力があるのに、ちょっとした切り傷くらいにしかなっていない。
これならもうちょっと威力増してもいいかもしれないね。
「さあ、早く話してください。話したらやめてあげます」
「だ、誰が話す……ぐぎぃぃいい!?」
動けない体に叩き込まれる無数の刃。
なんか拷問してるみたいであまり気分は良くないけど、事件を解決できる可能性があるならやらざるを得ない。
もちろん、急所は狙わないよ。そんなことして万が一死なれたら困るし。
「あ、悪魔なのかお前は!?」
「ただの人間ですよ」
「悪魔を脅しつけるただの人間がいるものか!」
そんなこと言われても、事実なんだから仕方がない。
まあ、人間ではあるけど、ちょっと精霊と竜の血が混ざっていて、今はついでに神様の力も持ってるってだけの話である。
あれ、全然ただのじゃないな。でも訂正するのもあれだからこのまま押し通そう。
「くっ、お、覚えていろよ!」
「あっ」
もう少し追撃しようかと思っていると、不意に悪魔の姿がかき消えた。
転移魔法? 確かに、部屋に現れた時も反応は急に現れたし、転移魔法が使えても不思議はないか。
ああ、それならちゃんと結界で囲んでおくべきだったな。
転生者が使ってるような転移魔法は流石に防げないけど、竜が使ってるような転移魔法は結界で密閉してしまえば転移できなくすることはできる。
あれは、自分の体を魔力に変換して、転移先で再構成することによって転移しているから、魔力すら抜けられない場所だとそもそも移動ができないのだ。
あの悪魔が転生者と言う可能性もなくはないけど、やっておいた方がいいのは確かだったね。ちょっと反省。
「ハク、終わった?」
「うん。でも、逃げられちゃった」
「そっか。珍しいね、ハクが取り逃がすなんて」
「転移魔法が使えるっぽかったからね。ちょっと油断してたかも」
後から部屋からやってきたアリアに状況を説明する。
アリアも転移はできるが、あの時はスレートさんの確認を優先したようだ。
確かに、ごうも……聞き取り作業中に起きられて異変に気付かれても困るしね。
まあ、いらない心配だとは思うけど。
「これからどうする?」
「とりあえず、スレートさんに浄化魔法を試してみて、だめそうなら出直しかな」
悪魔の登場によって、スレートさんに憑依しているのは、悪魔と契約した何者かと言うことがわかった。それはすなわち、どこかしらで悪魔召喚の儀式が行われたということでもある。
恐らく願いは教皇になりたいとかで、でも対価を十分に用意できなかったから中途半端に憑依する形になったってところだろう。
スレートさんは一応は枢機卿だし、教皇に次いで偉い役職ではある。各地に何人もいるとはいえ、それなりの役職ではあっただろう。
それに満足していれば、まだ枢機卿として活躍できたかもしれないが、憑依した奴はそれでは満足せず、教皇になるべく行動を起こした。
その方法はお世辞にも頭がいい方法とは言えないけど、まあ、行動力だけは認めてあげてもいいんじゃないかな。迷惑すぎるけど。
「これで効いてくれたら、悪魔とも関わらなくて済むんだけど」
部屋に戻り、スレートさんの様子を確認する。
遮音の結界のおかげもあって、さっきの騒動に気づいた様子はない。未だにすやすやと寝息を立てている。
さて、浄化魔法はっと……。
「……うーん、だめっぽい?」
一応、集中してやってみたが、スレートさんから憑依している奴が出ていく様子はなかった。
起きることもなかったし、完全に効果がないと見た方がよさそうである。
となると、やっぱり悪魔に引きはがさせるほかないのだろうか。
「また悪魔に会う必要があるかもしれないね」
悪魔なんて会わない方がいいに決まってはいるが、引きはがす方法が悪魔しか知らないとなると、そうも言ってられない。
もしかしたら、他にも方法はあるかもしれないけど、今のところは思いつかないし、また話をして、どうにか引きはがしてもらえるように交渉するしかないかな。
そうなると、あそこでごうも……聞き取り作業をしたのは悪手だったかなぁ。
かなり警戒させちゃっただろうし、もしかしたらもう私の前には姿を現さないかもしれない。
代役を立てるわけにもいかないし、これで引っ込まれたらちょっと大変かもしれないね。
まあ、一応悪魔の魔力は覚えたし、近くに現れれば探知魔法で追跡することは可能だ。
大丈夫、きっと何とかなるさ。
「なかなかうまくいかないね」
こんな、明らかに馬鹿としか言いようがないデモなんて簡単に片が付くと思っていたのに、まさかの悪魔の登場で計画がだいぶ狂った。
もし、悪魔以外にスレートさんから憑依した奴を引きはがす方法がないとすると、本格的に悪魔との契約を結ぶ必要も出てくるかもしれない。
私に差し出せる対価と言えば、何だろう?
魔法の才とか、不老の能力とか、竜の力とか? まあ、それが対価として差し出せるのかはともかく、人一人のために差し出せるかと言われるとちょっと渋ってしまう。
そりゃ確かに、困ってる人がいれば助けたいとは思っているけど、それで自分が困るようなことになっては本末転倒である。
あくまで偽善。自分のできる範囲でやるくらいがちょうどいいのだ。
まあ、お姉ちゃんとか、親しい人を助けるためなら別だけどね。
うまいこと対価を払わずに、あるいはあまり対価を必要とせずに契約する方法はないだろうか。……なんか、これだと憑依した奴と同じような思考な気がするけど、やっぱり人間考えることは一緒なのかな。
まあ、世の中には悪魔やら死神やらを騙す人もいるらしいし、もしかしたら方法はあるかもしれないけどね。
次会う時までに少しは調べておこうかと思いながら、家に戻っていった。
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