第四十一話:悪魔の影
憑依状態で憑依しているのは基本的に魔物だ。いや、わかりやすく言うなら、幽霊と言った方がいいかな?
基本的に生きている者が憑依することはなく、この世に未練を残して死んでいき、ゴーストとしてこの世に留まっているような奴が憑依するのが基本だと思う。
まあ、もしかしたら探せば生きたまま憑依できる可能性もあるかもしれないけどね。でも、今のところは、転生者以外でそれはないって方向で考えて行こう。
さて、相手がゴーストであれば、普通なら浄化魔法ですぐにでも浄化できるはずである。正確に言えば、光魔法とか火魔法でも効果的だろう。
まあ、流石に生身の人間に火魔法やらをぶっ放すわけにはいかないから、実質浄化魔法一択にはなりそうだが、本来ならそれで浄化できるはずなのである。
しかし、昨日浄化魔法をやってみたが、浄化された様子はなかった。
他にも呪われていた人がいたから効果が薄まった、なんてことはないだろう。仮に薄まったとしても、多少は効果があるはずだし、苦しがるとかしてもいいはずだ。
でも、あの時の反応は、周りで洗脳が解けてぽかんとしている人を見て叱責しているくらいで、全然堪えた風ではなかった。
つまり、浄化魔法は効かないと思った方がいい。
その場合、どうやって憑依状態を引きはがすかと言うのが問題になってくる。
強引な手段でいいなら、それこそ光魔法や火魔法をぶっ放すでもいいけど、スレートさん自身は何も悪くないのに、追い出すためとはいえ大怪我の危険がある攻撃を行うのは気が引ける。
だから、どうにかして体を傷つけないまま、憑依している奴だけを追い出す必要があった。
「うーん、そんな都合のいい魔法あるかな」
「似たようなものに悪魔憑きがありますが、あれも宿主もろとも殺すことが推奨されていますからね」
悪魔憑きも要は憑依なのかな? 悪魔を見たことがないからよくわからないけど、人を操ることにかけてはかなり強そうである。
と言うか、浄化魔法が効かないってことはアンデッドではないってことだし、犯人は悪魔なのでは?
実際、騒いでいる理由がアースが生贄のために人を大量に攫ったって感じだし、それが悪魔召喚の儀式だったとしたなら、自分でやったことをアースに押し付けようとしている、と考えられなくもない。
ただ、それだとスレートさんの性格と噛み合わない。
そもそも悪魔自体、教会では忌み嫌われているものだし、儀式の方法も禁忌扱いで公に広まったりしていない。
天使やら神様やらを召喚するというならともかく、敵である悪魔を教会が召喚するとも思えないけどなぁ。
「情報を知らされず、何者かに言われるがままにやってしまったという可能性は?」
「なくはないだろうけど、そもそも生贄が必要な時点でスレートさんはやらない気がする。他の神官とかはわかんないけど」
詳しく調べたのはスレートさんくらいなので、もしかしたら他の神官達が黒と言う可能性もある。
スレートさんはただ巻き込まれただけであり、本当に不運だったということもあり得るか?
うーん、わからない。
「まあ、悪魔が犯人と言う可能性があるなら、悪魔祓いみたいな魔法を作れば解決するかな?」
「それはそうでしょうが、作れますか?」
「んー、悪魔がどういうものなのかわかれば、多分?」
私が想像するような悪魔であるというならその必要もないけど、魔法はやはりイメージが重要だから、悪魔がどういうものかきちんと理解していないと効果が薄れると思う。
私の知っている悪魔は、角が生えていて、翼が生えていて、対価と引き換えに願いを叶えてくれる、みたいなそんなイメージがあるけど、この世界ではどうなんだろうか。
「私も悪魔自体はよく知りません。見たことはありますが、強いて言うなら、エルフを邪悪にさせた感じでしょうか」
「ダークエルフみたいな?」
「恐らくは。主観で申し訳ありませんが」
ダークエルフは悪魔だった? ダークエルフなんて見たことないけど、いたら怒られそうな発言だったかもしれない。
エルフに例えたのは、多分魔法が得意だからだろうか。魔力が豊富で、対価さえもらえばどんな願いでも叶えられるような、そんな感じなのかもしれない。
「アリアは見たことない?」
「ないかなぁ。あんまり姿を現さないし」
エルが見たことあるならアリアもあるかと思ったけど、そう言うわけでもないらしい。
実際に会って確認する、と言うのはちょっと難しそうだ。となると、私のイメージで魔法を作っていくしかないかな。
「もう一度浄化魔法を試してみては? もしかしたら、集中してやれば効くかもしれません」
「そう? まあ、眠ってる時を狙うならできるだろうけど」
あれはどちらかと言うと解呪をする魔法だから、アンデッド系に効果があるのはついででしかない。相手が悪魔であるなら、余計に効きづらいのはわかる。
でも、悪魔はイメージ的に光属性の魔法が苦手そうだし、光属性である浄化魔法は多少なりとも効果があってもいい気はする。
漠然と撃つのではなく、対象を限定して撃てば少しは効果があるかもしれない。
「じゃあ、今夜寝室に忍び込んでみるよ」
「私はどうしましょう?」
「うーん、他の神官が悪さしないか見ててくれる? そっちが黒って可能性もあるし」
「承知しました」
これで効いてくれたら解決だけど、果たしてどうなることやら。
私は町の様子を観察しつつ、夜を待った。
そして夜。私は教会に隣接した場所にあるスレートさんの家へと忍び込む。
かなり質素な家で、必要最低限のものしか置いていない。
教会の上層部は、多額の献金によって私腹を肥やしている場合もよくあるが、スレートさんはそう言うことはしていないようだ。
神官として凄くできた人だと思う。こんなところで憑依されて可哀そうに。
昼間のうちに構造は把握しておいたので、寝室まで迷うことはない。
ベッドの上には、スレートさんが横たわり、静かに寝息を立てていた。
どうやら気づかれてはいないらしい。さっさと済ませてしまおうか。
「さて……っと?」
早速浄化魔法をかけようと集中しようとすると、不意に背後に気配を感じ取った。
探知魔法は今でも発動している。しかし、それには今急に現れたように映った。
転移魔法? もしかしたら黒幕の登場かもしれない。
そう思って背後を振り返ったが、誰もいなかった。どうやら隠密魔法で姿を消しているらしい。
「……誰?」
「おや、お嬢さんは私のことが見えるのかい?」
そんな言葉と同時に、先ほどまで何もなかった場所に一人の男性が現れる。
頭の両端から伸びる二本の角、背中にはコウモリのような黒い羽が生え、ともすれば竜人のように見えなくもない。
しかし、スーツのような仕立ての良い服から覗く素肌は青く、それが普通の人ではないことがよくわかった。
その姿はまさに、悪魔と呼ぶべき姿だった。
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