第三十七話:デモの行く末
受け入れの方はうまく行っているようだった。
城勤めの官僚の何人かを割り当てていたようだが、少々言葉遣いは荒いものの、きちんと説明していたし、彼らが自分達の家に戻るまでの間の仮の住居も準備ができていた。
両替についても頼んでおいたし、これで彼らはきちんと家に帰ることができるだろう。
まあ、家に帰った後が大変かもしれないけどね。
うまく行っているようなので、戻って第二陣、第三陣と転移を実行する。
今回の告知を見れなかった人もいると思うから、まだ全員じゃないとは思うけど、これで大半の人達は送り帰すことに成功しただろう。
いきなり許容量を超える人々を抱えることになったソーキウス帝国には申し訳ないが、彼らもすぐに移動を開始するだろうし、仮にもルナルガ大陸最大の国なのだから、そこまでの痛手ではないだろう。
これでアースに対するデモが収まってくれたらいいのだが。
「ハク、お疲れ様。魔力の方は大丈夫かい?」
「うん、それは大丈夫。なんかまた増えてるみたいだからね」
「あれだけ転移魔法陣を起動しておいてまだ余裕があるのは凄いな。流石ハクだな」
「ありがとう。それより、この国に残ろうとしている人達の対処をお願いね」
「もちろん」
後はしばらく告知を出しておいて、他の町に存在する人の中で、避難させられた人を集めて、また転移で送っていくだけである。
まあ、それが大変なんだけど、数ヶ月もあれば片が付くだろう。それでも見つからないなら、その時は諦めてもらうしかない。
いや、私も探すけどね? 泣き寝入りは極力させないよ。
「さて、皇都の方は、と」
今回の転移で、避難民の大半は帰ってくることになった。
デモを行っていた人達も、生贄にされたはずの人々が戻ってきたとあっては、もう文句を言うこともできないだろう。
心配事があるとすれば、一部の戻ってない人達のことだろうか。
確かに、大局を見れば、大勢の人が消えて、大勢の人が戻ってきた、で済むだろう。
しかし、細かなところまで見れば、一部は戻ってきていないということになる。
それを指摘して、大半の人間を帰してきたのはカモフラージュであり、その数人の人が目的だったんだ、とか言い出す人も出てくるかもしれない。
その中には優れた技術者なんかがいるかもしれないし、貴族の嫡男がいるかもしれない。
他国にそれらを売り飛ばし、技術の流出や、身代金の要求、考え始めればきりがない。
もちろん、そんなのは苦しい言い訳であり、後にその人が戻ってきたならなんにも言えなくなっちゃうけど、いつ何時も馬鹿なことを考える人はいるものだ。
教会も絡んでいるらしいし、何とか力を手に入れようとした教会が後に引けなくなって、と言うのも十分考えられる。
その辺は、慎重に観察していかないとだね。
「ひとまずは大丈夫そうだけど、これからが問題かな」
今は大量の避難民を受け入れたことによって混乱していることだろう。
動くとしたら、この混乱に乗じてってことになるだろうが、まだ動きはないと思う。
デモは引き下がるだろうけど、それで安心しちゃいけないだろうね。
アースもそれくらいはわかっているだろうけど、一応後で連絡しておこうかな。
「このまま丸く収まってくれるといいけど」
そんなことを考えた後、ちょっと後悔した。
これがフラグにならなきゃいいなと。
事態が動いたのは二週間後だった。
消えたはずの人々が戻って来て、デモを起こしていた人達は鳴りを潜めた。
逆に、城側はこれで潔白は証明されたと、デモを起こしていた人達を捕らえ、ちょっとした罰を与えることにしたらしい。
まあ、全くおとがめなしじゃあれだからね。王族を舐めた行動をとったわけだし、多少の罰は必要だろう。
それがある程度収まり、俺はデモに参加してないとか、言ったのはあいつだとか、罪の擦り付け合いも収まった頃、またしてもデモが始まったらしい。
内容は前回とほぼ同じで、悪魔の遣いであるアースを許すな、処刑しろ、みたいなもの。
なんでそうなったかと言われると、避難民の照会が終わり、正確に誰が帰ってきたのかが判明したことで、一部の人達が戻ってきていないことに気が付いた。
それで、人々が消えたのはこれこそが狙いだったんだ、大量の人達が帰ってきたのは偽装工作だ、あるいは逃げ出してきたんだ、といった声が高まり、またしてもデモと言う形になったようだ。
いや、予想はしていたっちゃしていたけど、まさかほんとにそのまんま来るとは思わなかった。
当然、城側はこの活動に否を唱え、すぐにデモを取りやめるように言ったが、教会が旗頭に立っているようで、勢いは収まらずと言った様子。
今更喚いたところでどうにもならないと思うんだけど……。
「どうしたものかなぁ……」
彼らの言っていることはでたらめだ。戻ってこない人達は、オルフェス王国に定住を望んだ人達だし。アースを通して皇帝にもそのことは知らせてある。
流石に証拠を見せろと言われてもないけど、やろうと思えばその人を一時的に転移魔法陣で連れてきて、証拠だと言い張ることはできる。
こちらにはそれをいつでもやる用意があり、皇帝もそれは知っているはず。
と言うか、そんな証拠なかったとしても、皇帝に逆らっているのだから、国家反逆罪として極刑でもおかしくないんだけどな。
それをやらないのは、皇帝が甘いからなのか、アースが止めているからなのか。どちらにしても、判断が遅いと言わざるを得ない。
もうこっちで勝手に連れて行ってあげようかな。そうすれば、流石に黙るだろうし。
「エル、どう思う?」
「これに関しては、多分やっても無意味だと思います」
仮に、オルフェス王国に定住を望んだ人々を一時的に送り帰し、その無事を確認させたとしても、その後消えたらまた騒ぎ出すだろうとのこと。
まあ、あの人達はどうにかしてアースを悪者にしたいんだろうから、アースに何らかの罰が執行されるまで騒ぎ続けるだろう。
ただ、どうしてそこまでアースを貶めたいのかがわからない。
アースは、あの国で何十年、実際には何百年もだろうけど、宰相を続けてきた、いわば忠臣である。
当然、皇帝もそんなアースを信用しているし、アースを貶めることは、皇帝を貶めることとほぼ同義と取れなくもない。
クーデターでもしたいのかな? でも、ろくな戦力もなしにそんなことしたら、軍事国家であるあの国なら速攻で潰せるだろう。
それこそ、軍部が丸々裏切りでもしない限り、教会側が勝つビジョンなどない。
まさか、本当に軍部が裏切ってる? そんなことはないよね?
「流石にそれはないでしょう。そんなことになっていれば、アースが気付かないはずがありませんし」
「だよね。じゃあどうしてそこまで騒ぐのかな」
アースが失脚することで誰かが得をするとか? 教会がその誰かの枠に入っているとかかな。
いや、それはおかしい。他の大臣とかが宰相の座を狙っているというならともかく、国とほぼ関係がない教会がそんな座に収まれるわけがない。
まさかとは思うけど、ただアースを貶めたいだけで騒いでるわけじゃないよね? だとしたら、とんでもない馬鹿だけど。
「うーん、もう少し様子見かなぁ」
とにかく、どうあっても騒ぐならどうしようもない。しばらくは、様子見するしかないだろう。
何となくもやもやした気持ちを抱えながら、デモの行く末を想った。
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