第三十二話:説明会
三日後、いきなりこの国に連れてこられた人達のために、また、事情を理解できていない国民に対する説明も兼ねて、説明会が開かれることになった。
会場となった広場には多くの人が押し寄せ、まるでお祭りのようである。
今回説明役を任されたのは、アルト王太子だった。
今回、この国に避難させられた人達から見たら、拉致されたように見えるだろう。そして、当然ながらその犯人はこの国の人であり、下手をしたらまた誘拐されるかもしれない。
疑心暗鬼になっている状態であることは予想できたし、そんな彼らに王様からの使者だったとしても、ただの役人が説明したところで信憑性は薄くなると思われた。
だからこそ、王太子であるアルトの出番である。
他の役人の言葉ならともかく、アルトの言葉であれば、それは王様の言葉と変わりない。その声で説明し、さらに賠償やらなんやらの説明をすれば、少なくともオルフェス王国は彼らを裏切ることはできなくなる。
もちろん、それは建前であって、強引に事を進めることもできなくはないだろうが、そんなことすれば、一緒に聞いていた国民が黙っちゃいないだろう。
王様相手に直接抗議する人はいないだろうけど、言葉もわからず、さまよっている異邦人を助けようとするくらいはするはずだ。
ちなみに、アルトの演説の内容に関してはすべて私が翻訳してある。
隣の大陸ならまだわかる人もいるかもしれないが、さらにその隣の大陸ともなれば、この国の言葉など知らないだろうからね。
翻訳魔法っていう手も考えたけど、ただ説明するだけだったらいらないし、今回は私もそばにいるからその場で翻訳してあげられる。
たった三日で覚えられるものでもないしね。
そう言うわけで、万全の状態で彼らへの説明がなされた。
「本日は集まっていただき感謝する。今回、唐突にこの国へと連れてこられた者達に対して、説明を行おうと思う」
説明の内容だが、大きくは変えていない。
カオスシュラームと言ってもわからないだろうから、巨大な魔力溜まりが何かの拍子に決壊し、彼らが住んでいる地域まで流れ出そうとしていた、と言う風にした。
魔力溜まりの怖さに関しては子供でも知っていることである。それはどの大陸においても共通のことだし、それならば多少は理解も進むというものだ。
あくまで避難させたのであって、誘拐して奴隷として売ろうとしてただとか、家主のいない間に家を物色しようとか、そう言う意図は全くないということを伝えた。
そして、ここが別の大陸と言うことも今更ながら伝えた。
もしかしたら、それすらわかってない人もいるかもしれないしね。言葉が違うから、予想はしていたとは思うけど。
「……以上だ。質問を受け付ける。質問したい者は挙手して知らせよ」
それにしても、アルトの王太子モードも結構様になっているね。
今回は、いくらこちらに非があるとはいえ、あまり舐められすぎても困る。最低限、王族としての威厳は必要であって、アルトにも丁寧かつ舐められすぎないように注意してほしいと言っておいた。
「本当にそんな話を信じろとでもいうのか? あまり馬鹿にするな!」
質問に関してだけど、反発する者も多かった。
そりゃ、今の説明だけ聞いても納得しない人もいるだろう。いくら王族の言葉とはいえ、彼らにとっては知らない国の王族だし、実際に現場を見たわけでもない。
そもそも、魔力溜まりが決壊するなんて話聞いたこともないしね。
だから、荒唐無稽な話として文句を言う人もたくさんいる。
ただ、そんな人ばかりでもない。無理矢理連れてこられた人も多いとはいえ、その過程で竜の姿を見たり、何ならその背に乗って移動させられたことを覚えている人もいた。
アースの指示で逃げてきたという人もいたし、彼らの証言によって反発していた人も少しずつ鳴りを潜めて行った。
これはある程度予想していた。
いくら緊急事態とはいえ、全くの説明なしに連れてこられた人は稀だろう。
気絶させられたりして無理矢理連れてこられた人達は、目の前に死の危険があるのに気が付かずにごねていた人達が大半であろうことは予想できる。
つまり、逆に言えば、素直に説明を信じて連れてこられた人もいるというわけだ。
まあ、そう言った人達の中にも、避難させられた後、一か月以上も音沙汰がなかったのだから不安を感じている人は多そうだったけど、今回の説明で帰れる目途が立ったこともわかったはず。
だから、ここで変にごねるよりも、さっさと帰してもらった方が得策と言うわけだ。
そりゃ、宥めるよね。ここで下手に王族を怒らせて、その話がなくなったり、復興のための賠償金がなくなったりしたら困るだろうし。
「質問はもうないか? ……ないな。それでは、以上を持って説明会は終了とする。後日、帰還のための転移魔法陣を用意するので、告知された時はまた集まって欲しい」
そう言って、説明会を終了する。
今回、集まっていた人達に対しては、空き家を提供するということにし、ひとまずの住を用意することになった。
そうでないと、スラムに流れたりして犯罪行為に手を染める人もいるだろうしね。と言うか実際そうなっていたわけだし。
戦争とかで捕虜を大量にとったというわけでもないのに、彼らの分の食費を払うのは大変だろうが、その辺も私が出すことになっている。
彼らに関するすべてのお金は私が払う。せめてもの償いのために。
「ハク、どうだった? 私の演説は様になっていただろうか」
さっさと城まで撤収したアルトを追って、私も城へと向かう。
来るのがわかっていたのか、アルトはすでに自室で待機していた。
王様と会う時は応接室だけど、アルトと会う時はたまにこちらの部屋も使うようになった。
まあ、一応は私の騎士だしね。万が一にも、不埒な真似などできないだろうし。したところで返り討ちにできるけど。
「よかったと思うよ。文句を言っていた人達も、うまくあしらってたし」
「そうか、それならよかった。これもハクが翻訳を手伝ってくれたおかげだな」
「私はただ通訳しただけだよ。無事に収められたのは、アルトの実力だと思うよ?」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
アルトは王太子となったことで結構忙しい身になってしまった。
以前までは、学園と言う隠れ蓑があったが、卒業した今ではすでに一人前として認められ、様々な公務に携わることになっている。
その関係で、外国に行くことも多く、なかなか会えない日も多い。
そんな中、今回はちょうどよくいたから、王様もちょうどいいと思って任せたわけだけど、アルトも王太子の名に恥じないようにと頑張ってるみたいだし、仕事させ過ぎない程度に仕事させてあげたらいいと思う。
「こうして話すのも久しぶりだな。元気にしていたか?」
「まあ、ちょっと大変なこともあったけど、それ以外は元気だったよ」
「そうだったな。ハクは知らないところで世界を救うから困り者だ」
「別に私だってやりたくてやってるわけじゃないんだけどね」
今更ながら、アルトがルナルガ大陸にいなくてよかったと思う。
いやまあ、流石に隣の隣の大陸まで行く用事なんてほとんどないだろうけど、万が一ってことはあっただろうし、そこでカオスシュラームに巻き込まれてました、とかじゃなくて本当によかった。
その後も、久しぶりの歓談を楽しみ、夕方まで過ごした。
みんな成人しちゃって手がかからなくなったけど、またこうして話す機会があると嬉しいね。
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