第三十話:終わった後の油断
とりあえず、今この町に来ている人達に対して説明するためにも、王様に連絡しなければ。
私は早速城へ向かうと、いつもの応接室へと通された。
「よく来たな、ハク、そしてエル。それで、伝えたいことと言うのは?」
「はい。報告が遅くなって申し訳ないのですが、実はこんなことがありまして……」
私はカオスシュラームの件について説明する。
と言っても、流石に神様のことまで伝えてしまうと信憑性も何もなさそうなので、竜が危険な物質を発見し、それが増殖しながら大陸を侵食する類のものであり、触れたら死ぬ可能性が高かったため、安全のために竜や精霊の力を借りて人々を避難させた、と言う風に説明した。
まあ、もしかしたら調べれば天使を見たって人もいるかもしれないけど、それはその時に改めて伝えればいいだろう。別に嘘は言ってないわけだし。
「……なるほど。近頃、竜が大量に目撃されたり、いきなり知らない場所に放り出されたと騒いでいる者がいると報告があったが、そのせいだったか」
「はい。多分、説明しても聞いてもらえなかったと思うので、そのまま連れてこられた人も多いと思います」
「道理で異国の者の犯罪が多くなるわけだ。何の用意もなく放り出されたのなら、生きるために魔が差しても仕方ない、か」
「……もしかして、それで亡くなったり怪我したりしてる人いますか?」
「捕まえた者は全員生きているが、それ以外はわからんな。教会に駆け込めば、数人くらいなら面倒を見てくれるかもしれんが、それ以上となると放り出される可能性もある。犯罪をせずに苦しんでいたり、スラムに迷い込んだりした者はいるかもしれん」
「……」
これは、やってしまったな……。
考えてみれば当然のことである。相手は人で、こちらは竜。話が通じないことは目に見えていたし、それを承知で無理矢理避難させたのはこちらである。
それなのに、避難させた後はろくな説明もないまま放り出しているだけでは、それは避難したとは言えない。
そりゃ、避難させなきゃ闇の眷属になっていたかもしれないけど、ほとんどの地域は無事だったのだ。そう言う地域から避難させられた人にとっては、なんでこんな目に、と思うことだろう。
犯罪を犯した者もそうでない者も、本来面倒を見るべきは私達竜だったのだ。世界の危機だったという目が離せない事情があったとはいえ、これでは申し訳が立たない。
「……あの、賠償金とか、払います」
「ふむ。確かに、説明する以上は無理矢理連れてきたのはこちらなのだから、ある程度の賠償は必要だろうが、すべてそなたが払うのか?」
「はい、それくらいはさせてください。そうじゃなきゃ、申し訳ないです……」
こちらの我儘で避難させたのだから、これくらいのことはしなければ罰が当たってしまう。
もちろん、避難した人すべてに賠償を払うとなるとかなりの金額になるだろうが、幸いお金は十分に蓄えがある。
宝石やミスリル類を売ったものもあるし、刻印魔法を施して得たものもある。他にも色々とお金が流れてくることもあり、もう一生使いきれないんじゃないかと言うくらいには有り余っているのだ。
なるべく世の中に還元するようにはしているけど、それでも使い切ることはできない。だったら、こういう時に使うのが一番いい。
「それでそなたの気が晴れるのなら、そのように取り計らおう。説明に関しては、こちらに任せるか?」
「それは、お願いします。私が言っても誰も聞かないでしょうし」
「だろうな。この国や周辺国ならともかく、別の大陸の者がそなたの地位を正しく理解できるはずもあるまい」
肩書だけ見るなら、私はただの剣爵だしね。平民相手ならともかく、貴族相手には何の意味もないだろう。
賠償をしっかりして、ちゃんと元の場所に送り帰して、できることなら復興の手伝いもする。これくらいしなきゃ私の罪は償えないかもしれない。
「あまり無理はするなよ? 話を聞く限り、これは仕方のなかったことなのだろう? そこまで気に病む必要はないと思うが」
「それは、そうですけど……」
仮に責任があるとしたら、私ではなくお父さんだろう。竜達はお父さんの采配で動いたわけだしね。
でも、だからと言って私に責任がないとも言えないと思う。
私がもっと早く解決していれば。そうでなくても、もっと早く報告していれば、こんなことにはならなかったのだから。
世界は救われただろう、と胡坐をかいて家でのんびりしていた私は絶対に悪い。
下手をすれば、私がのんびりしてたせいで死んでしまった人がいるかもしれないのだから。
「ハクお嬢様。そう気に病まないでください。それでしたら、私も同罪です」
「エル……でも……」
「もし、真実を知ったのなら、誰もハクお嬢様を責めたりしません。私が保証します」
そう、なのかな。まあ確かに、くよくよしすぎるのもよくない。
今私がすべきことは落ち込むことではなく、避難民にきちんと賠償金を払って、元の場所に送り帰すことだ。
とりあえず、迅速に動くとしよう。と言っても、賠償のことも含めて、説明は王様頼りになりそうだが。
「では、すぐに知らせを出そう。説明に関しては、そうだな……三日後でよいだろうか。場所は外延部の広場を使うことにする」
「それで大丈夫です。申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
「うむ。そなたも、あまり気に病みすぎないようにな」
王様はそう言って、部屋を後にした。
とりあえず、三日後の説明までにこちらでも色々とやるべきことをやっておくとしよう。
大陸間では転移魔法陣が使えないから、大勢を運ぶ方法も考えないといけないし。
まあ、竜の背に乗せて、とか、精霊の転移魔法で、とか色々あるっちゃあるけど、それはどれも人知を超えた方法である。
ただでさえ、いきなり連れてこられて混乱しているところに、いくら説明を受けたからと言って、帰りも竜に送ってもらってくださいと言われて納得できる人はいないだろう。
大陸を移動する手段が今のところ船しかない以上、船で移動させることになると思う。
でも、それだと何か月と言う時間がかかってしまうし、その間に土地や家は荒れ放題になってしまうだろう。
だから、できれば手早く運んであげたい。
私が大規模な転移魔法でも使えたらいいんだけどなぁ……。
「……いや、待てよ?」
もしかしたらだけど、転移魔法使えるのでは?
元から、私の使う転移魔法でも、他人を移動させることくらいはできた。それをやらなかったのは、転移先での合体事故がある可能性があったからである。
転移魔法は魔力の消費も激しく、体を魔力に変換して再構築する関係上、どうしてもそう言う危険ははらんでいたから。
でも、今は私には膨大な量の神力がある。
神力は魔力の上位互換のようなもので、少ない神力でも大きな魔法を使うことができる。
当然、転移魔法に使う魔力も削減できるわけで、そうなれば余ったリソースを制御に回すことができる。
これなら、大規模転移で複数人を一斉に運ぶことも可能なのでは?
「これは、検証する必要がありそうだね」
もし、複数人をいっぺんに転移できるなら、一瞬で送り届けることができるだろう。
それでも、流石に全員いっぺんは無理だろうが、何回か繰り返せばできないことはないはずだ。
まずは魔物とかで確認しないとね。そう考えながら、ひとまず外出する旨を伝えるために家へと戻っていった。
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