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七彩の魔術師~捨てられた少女は二度目の人生を妖精と歩む~  作者: ウィン
第二部 第一章:カオスシュラーム編
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幕間:守りたいもの

 ヒノモト帝国の皇帝、ローリスの視点です。

 ハクから連絡を受けて、私達は状況を把握した。

 と言っても、目に見える範囲に何かがあるわけじゃない。その範囲は今はまだとても狭く、私達がいるヒノモト帝国までは相当な距離がある。

 ハクが言うには、カオスシュラームはどんどん増殖しながら侵攻していき、触れれば闇の眷属となってさまよう羽目になるとかなんとか言っていたけど、正直よくわからない。

 ウィーネが言うには、仮にまっすぐこちらまで侵攻してきたとしても、到達するには一か月はかかるんじゃないかという計算だったという。

 だから、そこまで危機感を感じることはできなかった。


「万が一のために避難してくれとは言われたけど、正直どう思う?」


「住人達を避難させる必要はあるでしょう。竜達も、背中に乗せるから急いで避難してくれと言っています。解決の目途が立っていない以上、素早い避難は後々役に立つと思います」


「そうよねぇ……私もそんなよくわからないの相手したくないし、逃げたいのは山々だけど、ここを離れるわけにはいかない理由もあるのよね」


 無限に増殖する泥、そして触れればよくわからないものにされてお陀仏と考えると、さっさと避難したいところではあるけど、その泥の性質的に、何としても死守しなければならない場所がある。

 ヒノモト帝国そのものもその中には入っているけど、もう一つ、開拓調査で見つけた、地球に行くための魔法陣があるダンジョンだ。

 今のところ、あのダンジョンの魔法陣は地球に行くための唯一の方法である。

 もちろん、すでに魔法陣は転写して保管してあるし、周りの柱に関しても解読が済んでいる。仮にあそこが破壊されたとしても、新たに魔法陣を設置することは可能だろう。

 しかし、あのダンジョンの歯車の仕組みは未だに解明されていないし、場所を指定するための柱にはあの遺跡の素材を使う必要がある。

 もし、あのダンジョンを損失すれば、地球に行くための手段を著しく失うことになるだろう。

 だからこそ、何としてでも阻止しなければならないのだ。


「触れたらアウトなら、触れずに吹き飛ばせばいいかしらね?」


「それが一番でしょうね。こちらの魔法が通用するなら、多少進みを遅くすることくらいはできるでしょう」


 まだ実物を見たわけではないからどんなものかはわからないけど、魔法で散らせるならいくらでも対処のしようがある。

 結界を張るのもいいだろう。結界を通り抜けられないなら、単純な足止めとして使えるだろうし。

 今のうちに、ダンジョンの周辺に結界魔道具を大量に敷き詰めておくか?

 それなら、万が一私達が止められなくても何とかなるかもしれない。


〈ローリス殿、ここにおられたか〉


「その声は、アースね」


 ふと振り返ると、そこには巨大な竜の姿があった。

 まるで巌と見まがうような巨体に対し、小ぶりな翼。背中には植物や苔が生え、かなりの貫録を感じさせる。

 エンシェントドラゴンが一体、アース。

 エンシェントドラゴンはそれぞれの大陸に担当者がいて、そこに住まう竜の管理をしているらしいのだけど、アースはこのルナルガ大陸の担当らしい。

 ヒノモト帝国が竜との貿易を始める際にも、代表としてここを訪れてくれたことがあった。

 人の姿はよく見ていたけど、竜の姿は初めてかしら? 流石はエンシェントドラゴン、かなりの威圧感があるわ。


〈住人の避難はほぼ終わっている。貴殿らも早く避難を〉


「そうしたいのは山々なんだけどね、心配事が多すぎてどうしようかと」


〈よもや、戦おうと思っているのではあるまいな?〉


「戦うというか、守る? かしらね。この国は大事だし、手放したくないものなのよ」


 これは私のみならず、他の国でもそうだと思う。

 誰だって、自分の国を手放したいなんて思うわけない。仮に、何事もなくて無事に戻ってこられたとしても、一度は国を離れるのだ。その際に盗賊に入られて荒らされてしまったり、火事場泥棒に家をめちゃくちゃにされてしまうかもしれない。

 そもそも、カオスシュラームなんて物質、初耳だ。いきなりそれは危ないものですって言われても、どう危ないのかなんてわからないだろうし、見た目がただの泥だというなら、こんなもののために避難できるかと動かない人の方が多いだろう。

 こういうのは、ある程度実績がなければ人は動かないものだ。実際に泥に飲み込まれて闇の眷属になってしまった人を見たとか、そう言うのがなければすぐに信じるのは無理である。

 私だってまだ信じられてないくらいだしね。

 それでも避難させたのは、ハクの言うことだったからだ。ハクがわざわざこちらに不利益になるようなことを言うわけないし、そもそもハクは竜王と精霊女王の娘というとんでもない肩書を持っている。

 そんな人が危ないって言ってるんだから、危ないんだろう。少なくとも、私はその言葉を信じる。

 でも、大抵は信じられない人ばかり。その結果は目に見えている。

 その人達を助けたいとかは思わないけど、もしそんな危険なものなら、何としても守りたいと思うのは当然の思考だろう。

 一応これでも、皇帝だしね。


〈我もカオスシュラームがどのようなものかは知らない。だが、貴殿一人で守り切れるようなものではない〉


「でしょうね。だからこれは、時間稼ぎよ。ハクが解決してくれるまでの時間稼ぎ」


 ハクは通信で、神様に助けを乞うみたいなことを言っていた。

 そのままの意味で聞けば、神頼みかと思うところだけど、どうやら本当に神様に会って何とかしてもらおうとしているらしい。

 カオスシュラームを何とか出来るのは神様だけ、と言うのが、ハクのお父さんの言い分なんだそうだ。

 理屈はわかるけど、普通それで神様に会いに行くか? 私だったら行かない。そんな不確かなことに命を預けたくないしね。

 でも、今はそれに縋らなければいけない状況だということもわかっている。今、この状況を解決できる人がいるとしたら、それはハクだけだ。

 だから、ハクが少しでも神様にお祈りできる時間を稼ぐための時間稼ぎと言うわけである。

 何事もなければ御の字。もしダメでも、諦めがつく。

 そう言う意味でも、ここを離れたいとは思わなかった。


〈貴殿はハク様にとって大切なご友人だ。もし闇の眷属に堕ちるようなことがあれば、ハク様が悲しまれる〉


「私だってただでやられる気はないわよ。言ったでしょ、戦いたいんじゃなくて、守りたいの。本当にだめだった時は、素直に諦めるわ」


 幸いにも、カオスシュラームは地上を埋め尽くすように進んでいるらしい。それに、水の中では多少遅くなるようだ。

 つまり、最悪空を飛んだり、水の中に逃げ込みさえすれば、すぐに闇の眷属となることはないはずである。

 この国は本島から切り離された島国だし、当然周囲は海だから進みも遅いだろう。だから、到達したとしてもかなり後になるはずである。

 だから、そのぎりぎりまでここにいたい。ただそれだけだ。


〈貴殿が覚悟を持って臨むなら、これ以上は止めはしない。だが、いざと言う時は竜を呼べ。救出に向かう〉


「ありがとうね。大丈夫よ、そんなへまはしないわ」


〈失礼する〉


 そう言って、アースは飛び去って行った。

 まあ、結局は私の我儘なわけだし、どうせ離れないなら他の国の救助の手助けでもしろって話なのかもしれないけど、流石にそこまでやる気は起きない。

 そりゃ、知り合いがいないわけでもないけれど、彼らなら普通に逃げてくれそうだし、問題はないでしょう。

 この大陸の国とは結構揉めたこともあるので、あんまり助けたいって感情が沸かないのよね。

 転生者がいるっていうなら話は変わるけど。


「ウィーネ、こんな姉だけど、もうちょっと付き合ってね」


「仰せのままに」


 その後、しばらくしてハクからカオスシュラームの元凶を取り除いたという報告が来た。

 あれからまだ数日しか経っていないというのに、神頼みは随分スムーズに行えたらしい。

 いや、ハクだからこそかしらね。私が行っていたら、門前払いされそう。

 結局ヒノモト帝国まで来なかったけど、被害は結構あったらしい。

 それを考えると、早急に解決できて本当によかった。

 ハクには感謝しないといけないわね。今度、何かプレゼントでも考えようかしら。

 そんなことを考えながら、国の運営を再開するのだった。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 杞憂で終われば全て良し
[一言] 異世界の情報伝達が発達してないからこそのどう判断していいのか判らないやーつ もし現代日本みたいにスマホみたいなのがあったらカオスシュラーム動画に撮ってそうです
感想一覧
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