第二十六話:神の戦い
「おら、降りて来いやぁ!」
〈……ッ!〉
もはや自重する気はないのか、先程よりもよっぽど強力な威圧感が襲ってくる。
威圧感と言うよりは、重力魔法みたいなものだろうか?
体全体が重くなり、飛んでいるのが難しくなってくる。
頑張れば飛べないことはないけど、流石にずっと飛んでいるのは不可能そうだ。
私は一度地面に降りる。当然、その瞬間を狙ってマキア様は腕を振り上げた。
〈ふっ……!〉
「ちぃ!」
殴りかかってきたマキア様に対してティターノマキアを向けて盾にする。
今や主人として認められていないマキア様はそれに弾かれ、遠くに飛ばされていく。
これ、かなり便利じゃないか? 武器同士なら鍔迫り合いとかできるかもしれないけど、今のマキア様は素手である。
もちろん、さっき振るわれた拳は、それだけで空気を震わせ、地面を振動させるほどの威力を持っていたけど、それを全くの衝撃を感じさせずに弾き飛ばしたティターノマキアはかなり優秀だろう。
ただ単に盾にするだけだったら隙間を狙われそうだけど、ティターノマキア自身が大きいので、ただ構えるだけでも結構な攻撃を防いでくれそうである。
ティターノマキア自身も、元の主人に仕返しできて嬉しいのか、なんだか張り切っているような感じがするし、これを構えているだけで完封できそうだな。
「ああ、忌々しい! この俺が神剣に捨てられた? それも、神でも何でもないただのがきんちょに? ありえないありえないありえない!」
ただ、弾かれても弾かれてもマキア様は猪のように突っ込んでくる。
攻撃自体はきちんと防げるけど、周りの被害が酷い。
マキア様が踏み込む度に地面にはクレーターができているし、腕を振り上げれば風圧で地面がめくれ上がる。
少し前まで命の輝きに溢れていた草原は、今や荒野のようだ。
できることなら、早めに勝負をつけたいところだけど、こちらから手を出していいものか、少し疑問ではある。
だって、この神界では神様の戦闘行為は禁止されているんでしょ? マキア様はまあ、頭に血が上って忘れているのかもしれないけど、それはこちらにも適用されるのではないだろうか。
私は神様ではないけど、ネクター様のおかげで格としては神様と言っていいくらいには強くなっている。それなのに、いくら落ち着かせるためとはいえ、攻撃していいのかどうかが引っ掛かったのだ。
ちらりと後ろを見て見る。
ネクター様は面白くなってきたと言わんばかりににやついているし、パドル様は微笑みを浮かべたまま動かない。お父さんはハラハラしながらこちらを見ているけど、今のところ介入する気はなさそうだ。
お父さんに関しては、流石に神様の本気の攻撃相手に突っ込めないからかもしれないけど、他の二人は一応狙われているのに全然反撃するそぶりを見せない。
やはり、攻撃しない方がいいかな。下手に攻撃して、こちらにまで罰を下されたら困るし。
〈でも、周りの被害も考えないと……〉
別に、ここがどうなろうと私には関係ない話ではあるけど、せっかく協力してくれた神様が住まう神界なのに、私のせいでこんな荒れ果てた土地になってしまったら申し訳ない。
これを地上で復興させようとなったら、数十年はかかるだろう。神様にとって、数十年なんてほんの一瞬かもしれないけど、それでも破壊させない方向で行けるならそっちの方がいいに越したことはない。
どうしたものか……。
〈パドル様、質問があります〉
「なにかしら?」
〈拘束系の魔法は攻撃に入りますか?〉
思いついたのは、拘束系の魔法で動けなくさせることだ。
カテゴリー的には、あれはデバフや状態異常というものであって、攻撃ではない。しかし、敵に対して不利に働くような効果を及ぼすのだから、攻撃という見方もできるだろう。
神界においては、それらは攻撃に入るんだろうか?
「……ふふ、入らないわ。もちろん、基本的には使用不可だけど、暴れている神を取り押さえるためと言う名目があれば、使うことは許可されているわよ」
〈ありがとうございます。なら、これで止めます〉
いまいち神界のルールがわからないが、これに関しては決まっているらしい。
今この状況なら、きちんと当てはまるだろう。これなら遠慮なく使用することができる。
〈大人しくしてください〉
「はっ、そんなもんが俺に効くかよ!」
影魔法で拘束しようとしたが、ティタン様はそれを強引に引きちぎって逃れた。
流石、武闘派な神様だけはある。この程度の拘束ではびくともしないか。
〈……なら、遠慮する必要ないですよね〉
私はさっきの倍の量の影の触手を出現させる。
ついいつもの感覚で使ってしまうが、今の私は神様と同等の力を得ているのだ。
時の神殿においても、最初の内はいろんな魔法を試していたし、その中には拘束系の魔法も入っている。
より効率的に、より強力に、相手を動けなくするということだけに特化させた拘束魔法は、もはや概念と言ってもいい。
相手の行動を縛るだけだったら、今の私の魔法を破れる人は、神様とていないはずだ。
「なん、だと……!?」
先程と同じように引きちぎろうとして、できずにもがくマキア様。
随分と力が強いようだけど、ただ力任せに引っ張るだけではそれはほどけない。
それを力任せにほどきたいなら、今の倍以上の力が必要になることだろう。
「くそっ、なんでだよ! なんで俺がこんな目に!」
〈……それが理解できないから、自分の剣にも捨てられるんですよ〉
「黙れぇ! 虫けらの分際で、俺に歯向かってんじゃねぇ!」
ぶちぶちと嫌な音が響き渡る。
力任せに引きちぎろうとして、拘束している腕や足が悲鳴を上げているのだ。
このままだと、マキア様に怪我を負わせてしまう。
いや、どう考えても自業自得だし、大人しくしていればいいだけの話なんだから気にすることもないのだが、拘束魔法とは言え、相手に怪我させてしまうのはどうなのかと一瞬考えてしまった。
その結果なのか、私の拘束魔法は解かれてしまった。それと同時に、大きな隙を晒すことになる。
〈やば……〉
「死ねや!」
私の腹に向かって振り下ろされる拳。それは私の体を容易に貫き、風穴を開ける、そのはずだった。
「ッ!?」
「これはこれは……」
気が付けば、私は動けなくなっていた。
私だけじゃない。マキア様も、お父さんも、ネクター様もパドル様もみんな動けなくなっていた。
ただ空を見上げ、そこから降りてくる何者かを見ていることしかできなかった。
何もない空間から現れたのは光に包まれた何者か。
それが人型をしていることはわかるが、男か女かもわからない。シルエットだけしか把握できなかった。
しかし、それが何なのかは一瞬のうちに理解できた。
この神界において最高の権力を持つ神様。すべての神様の頂点にして、地上を作り上げた創造神。
この世界における最高神の姿がそこにはあった。
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