第二十一話:時の神殿
しばらくして、時の神殿へと辿り着いた。
他の建物と同じように、白を基調とした荘厳な建物で、入り口には噴水がある。
まさにRPGのダンジョンの入り口って感じだが、ネクター様はそんなの関係ないと言わんばかりにすたすたと入り口の前まで歩いていった。
「さて、ここから中に進めばそこは異世界だと言っていい。あらかじめ設定したものを再現した仮想空間だと思ってくれたらいいね」
〈仮想空間ですか。ハイテクですね?〉
「この辺りは転生の神も関わっているからね。きっと別世界の技術の賜物なんだろう」
転生の神様って、もしかしてこの世界にいる転生者達を転生させた神様だろうか?
確かに言われてみれば、この神殿の形もどこかで見たことがあるような気もする。
私のいた地球の技術かどうかはわからないけど、似たような技術ならば少しは安心できそうかな。
「設定はこちらでしておくよ。ハクはこの入り口からまっすぐ進めばいい」
〈それだけでいいんですか?〉
「しばらくすれば視界が晴れてくるだろう。そうしたら、そこは仮想空間の中。何をしても自由だ」
なるほど。まあ、ネクター様の言い方からするに、この先にはいろんな敵が待ち構えているんだろう。それを倒しつつ、感覚を研ぎ澄ませていけばいいわけだ。
感覚的にはかなり使いこなせていそうだけど、実際にやってみないとわからない。
さて、どんな敵がいるのか、ちょっと楽しみではある。
「それじゃあ、行っておいで」
〈はい、では……〉
「あ、ハク、ちょっと待って」
そう言って、パドル様が近づいてきて、私の手を取り、すぐに離した。
何をしたのかはわからないけど、心配してくれたのかな?
「これで大丈夫。気を付けて行ってきてね」
〈は、はい。それでは、行ってきます〉
パドル様にも挨拶をして、入口へと入っていく。
中は暗く、【暗視】をもってしても先を見通すことはできない。
一度深呼吸をした後、私は大きく一歩を踏み出した。
「100年後、また会おう」
〈えっ……?〉
最後に聞こえたネクター様の言葉に思わず振り返るが、その時にはそこは見知らぬ森へと変貌していた。
前を再び向いてみても、その景色は変わらず。どうやら、仮想空間へと入ってしまったようである。
〈き、気のせいだよね……?〉
なんだか100年後とか聞こえた気がするが、流石に聞き間違いだろう。
ただでさえ、カオスシュラームが広がりつつあるのに、ここで100年も時間使ってしまったら間に合うわけない。
それにそもそも、そんな気軽な感じで100年も訓練させる奴はいないだろう。
きっと100分、あるいは長くても100時間と言ったところだろう。うん、そうに違いない。
〈……む、さっそく?〉
神界では役に立たないから探知魔法は切っていたのだけど、それでも感じる殺気に思わず警戒する。
森の奥から現れたのは、大小様々な魔物の姿だった。
〈……多すぎない?〉
下はホーンラビットなどの比較的無害な奴から、上はキマイラだのアークワイバーンだのAランク以上の魔物も多数混じっている。
本来なら、生息域の関係でいがみ合っているような連中ですら、私だけを殺すのが目的とばかりに目を光らせている。
こいつらを全部相手にしろって? 普通に無理ゲーでは……。
そりゃ、範囲魔法を使えば大半は巻き込めるだろうけど、下級魔物はともかく、上級魔物はそれだけじゃ死なないだろう。
それが一体や二体ならともかく、数十体以上。下級魔物を勘定に数えないとしてもスタンピードじゃすまない量である。
〈くっ、やるしかないか……!〉
だが、そんなこと言っても相手は止まる気配はない。
背後はまだ比較的手薄のようだから逃げようと思えば逃げれるだろうが、どうせ地の果てまで追ってくるだろう。
そもそも、私の訓練が目的なのに逃げていたら意味がない。ここは精一杯相手をしなければならない。
私は息を吐くと、範囲魔法を展開する。
属性は水。荒れ狂う渦巻のようにすべてを飲み込むイメージで作り出されたそれは、想像以上に巨大な渦となって魔物達を飲み込んだ。
〈わぉ……〉
結果は壮絶だった。
流石に一撃じゃ落せないだろうと思っていた上級魔物も見事に粉微塵である。
森も、もはや森だったのかもわからないくらい破壊されていて、辺りには小さな木片が散らばり、抉れた地面がその威力を物語っていた。
いや、確かに疑似的にとはいえ神様になったことによって威力は上がっているだろうなとは思っていたけど、ここまでとは思わなかった。
と言うか、いつも使ってる量だけ使ったのに、威力が跳ね上がっている。
恐らく、神力に変わったことで効率が段違いに上がり、その結果威力が高まったんだろう。
イメージが強大だったこともあって、それを神力が補完し、まさに神の一撃、と言う感じになったんだと思う。
しかも、何が凄いって、こんな大規模魔法使ったのに魔力が全然目減りしてないってことだ。
いや、確かにいつもの状態でも、上級魔法くらいだった連発できたけど、多少は減っていくのを感じていた。
それが、今は全くない。まるで無限に神力があるかのような、そんな錯覚すら覚える。
この力があれば、神剣に選ばれる可能性も出てきたかもしれない。
〈やっぱり神様ってとんでもないんだなぁ……〉
元々、神様より優れているだなんて思っちゃいないが、改めてその差を見せつけられるとため息が出る。
私はよくそんな神様に意見しようだなんて思えたな。首が繋がっていることが奇跡のように思ってしまう。
と言うか、これでもし神剣を奪うことができてしまったら、私はマキア様に相当恨まれてしまうのでは?
悔しがらせるのが目的なんだから仕方ないとはいえ、それで逆恨みされて、神様としての力を失った私の元を訪れて報復とかされたら堪ったもんじゃないだけど。
一応、マキア様は地上には降りられないらしいから、地上にいる限りは大丈夫だと信じたいけど、責任逃れで神剣手放すような人だしなぁ、そんな禁則事項知らねぇって言って降りてきたらどうしよう。
不安しかない。
〈……っと、まだ来るみたいだね〉
そんなことをつらつら考えていたら、再び魔物の群れがやってきた。
ここまでくると、あの世界にいた魔物全種類集めてきたんじゃないかって感じがしてくる。
ネクター様がどんな設定にしたのか知らないけど、そのうち歴代の魔王とか出てきたりしないだろうな。
流石にないとは思うけど、その枠でお父さんとか出てきたら戦えないからね?
〈ここは色々試しておこうか〉
さっきは範囲魔法でまとめて倒してしまったが、自分の力を見極めたいなら色々と使った方がいいだろう。
魔法に関しては色々開発しているけど、日の目を見ないものも結構あるし、それらを試していくのもいいかもしれない。
せっかくの訓練場なんだ。何やってもいいというなら、存分に活用させてもらおう。
そう思いながら、私は魔法を連発していった。
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