第二十話:神力の制御
「ハク、君は魔法は得意かな?」
〈まあ、それなりには……〉
「それなら簡単だ。基本的に使い方は同じだからね」
そう言って、ネクター様は神力についての説明を始める。
神力は魔力の上位互換のようなものと認識しているが、あながち間違ってもいないらしい。
元々は、神様から漏れ出た神力を、人族が取り込んだことによって定着し、魔法と言う形で具現化できるようになった。
その後、神様が地上から姿を消すと、神様から供給されていた神力がなくなり、人族が持つ神力は徐々に薄まっていった。
そして、神力とも言えなくなった薄い神力が魔力であり、今の魔力の形になっているのだという。
だから、また以前と同じように神様が地上に降りれれば、人族の持つ魔力は再び神力となるだろうとのこと。
神力を入手するために色々奔走していたわけだけど、解決策を聞くとあっさりしているように思える。
ただ、そもそもほとんどの神様は地上に降りることを禁止されているし、そうでない神様も今更地上に降りる用もないので、地上で再び神力が溢れることはないだろう。
次点で、神様の遣いである天使ならみんな地上に降りられるし、人族に比べたら神力も多いから、天使から直接供給されれば神力の安定した上昇も見込めるかもしれないが、天使は基本的に神様の言うことにしか従わないし、勝手に行動することもない。
まあ、さぼり癖が酷いのはいるようだけど、それも命令に背いているわけではないようなので、見逃されているようだ。
だから、たまーに神託を下す時とかに出番があるくらいで、天使もほとんど地上には現れない。
つまり、神様を当てにして神力を入手するのは不可能ってことだね。
神力取得計画が飛躍的に進むかと思ったけど、そう言うわけでもなさそうだ。
と言っても、今は多少なりとも神力を扱えるようになった人はいるみたいだけどね。以前ウィーネさんがそんなことを言っていた気がするし。
後は、地球に行った後、無事に帰ってこられるかと言うところだ。
「魔力の操作法は知っているだろう? その感覚で、神力を動かしてみるといい」
〈わかりました〉
ネクター様に言われた通りに、体の中の神力を動かしてみる。
魔法として具現化していない魔力は、魔力操作の仕方さえわかれば感じることはたやすい。
なんにでもなれるからなのか、その形は自由自在に変更できる。
粘土のよう、とでも言えばいいだろうか。引き延ばすこともできるし、固めることもできる。
あんまりやらないけど、魔力そのものを壁にすることで魔法を防ぐ、っていう方法もあるらしい。
魔法は魔力によって作られるもので、魔力は魔力を貫通しないからね。理論上は、ただの魔力でも魔法を防ぐことができるわけだ。
まあ、そんなことやる人いないだろうけど。基本的には魔法を放って相殺した方がよっぽど楽だし、壁にできるほど魔力を練り上げる余裕があるなら上級魔法の詠唱だってできるだろう。
だから、これはただの手遊びのようなものである。
〈意外と、簡単ですね?〉
魔力操作ならぬ、神力操作をやってみたわけだが、確かに魔力操作と何ら変わりはなかった。
ちゃんと私の思った通りに動いてくれるし、その動作もすべらかでひかっかりもない。
単純に神力が増えた分、扱いが難しくなるんじゃないかとも思ったけど、そんなこともなく、増えた分もきっちり扱うことができている。
この体のおかげだろうか? 色々ドーピングしたみたいだし、神力の扱いもしやすくなっているのかもしれない。
「簡単だと思うなら十分に使いこなせるだろう。ちょっと力を入れすぎたかな?」
「ハクの元々の才能もあると思うわ。薬の反応にだいぶ耐えていたようだし」
「ああ、それは確かに。魂が強靭なのかもしれないね」
魂が強靭と言うと、私が転生者だということが多少なりとも関係するんだろうか?
別に、前世の自分である春野白夜が特別優れた人間だったというわけではないと思うけど、別世界の魂だし、基準が違うのかもしれない。
まあ、使いこなせているというならありがたいことである。これで何もできませんでしたじゃ、ネクター様の顔に泥を塗ることになりそうだし。
「まあでも、きちんとその体を使いこなすことは大事だ。ひとまず、しばらく練習期間としよう」
〈練習期間、ですか?〉
「ああ。と言っても、神界において、神が戦闘行為を行うことは禁じられている。だから、時の神殿に向かおう」
〈時の神殿……〉
なんか、どこぞの緑の勇者が活躍しそうな名前だけど、一体どんな場所なんだろうか。
練習するということだから、訓練室のようなものなのかな? そこでなら戦闘行為が認められているとか。
わからないから、私には曖昧に頷くことしかできないけど。
「パドル、君の神獣がマキアを見つけるまであとどのくらいかかりそうだい?」
「そうねぇ。マキアの転移ならそう遠くはないでしょうし、一日もあれば見つかるんじゃないかしら」
「なるほど。なら、何の問題もないね」
「ネクター、止めはしないけど、あんまりハクをいじめるとニルに噛みつかれるわよ?」
「はは、君のところの神獣は凶暴だからね。だがまあ、大丈夫だろう。これもハクを鍛えるためだ、わかってくれるさ」
「そうだといいけどね」
そう言いながら、家を後にする。
私の体だけど、家の中だからあの程度で収まっていたようで、外に出たらもう少し大きくなった。
大体7メートルくらい? 普通の人の姿であるパドル様やネクター様が小さく見える。
神様としてはこの姿は普通なのかもしれないけど、あんまり大きいと注目を浴びそうで嫌だな……。
実際、道行く神様達が物珍しそうにこちらを見ている。変なことにならなきゃいいけど。
〈あの、その時の神殿と言うのは、どんなところなんですか?〉
「簡単に言えば、訓練場のようなものさ。創造神によって解放されている施設の一つで、あらゆる環境を設定でき、それでいて無駄な時間も消費しない。まあ、利用するのは一部のもの好きくらいだがね」
やはり訓練場のような場所らしい。
自由に環境を設定できるってことは、亜空間的な場所になっていて、いろんな環境で実験ができるということだろうか?
流石に世界一つを創造するというわけではなさそうだけど、一部とはいえ自由に環境を整備することができるって相当やばいと思う。
言うなれば、小さな世界を作ってるようなものだと思うしね。
しかも、無駄な時間を消費しないってことは、最適化でもされているのかもしれない。入る人物に合わせて、望む環境が作り上げられるんじゃないだろうか。
それだけ聞くとまさに夢の場所だな。その気になれば、理想郷も作れそう。
「目的はわかると思うが、ハクの強化だ。中で仮想の敵と戦ってもらい、感覚を確実なものにするってわけさ」
〈仮想の敵って、幻影みたいなものですか?〉
「そうだね。神力で作りだされた、倒せば消えてなくなる幻影だ。まあ、幻影とはいえ、攻撃を受ければ傷つくがね」
〈大丈夫なんですか、それ……〉
「なに、少なくとも死ぬことはない。そもそも、神は不滅の存在だ。仮に胸に穴を開けられようが、頭を吹っ飛ばされようが、じきに治る。その点は安心するといい」
〈安心できない要素が増えたんですが……〉
それってつまり、それくらい強い敵が現れるってことだよね?
確かにこの体はかなり力も上がっているし、魔法だって相当なダメージが出せそうではあるけど、例えば囲まれたりしたらひとたまりもないと思うんですが……。
訓練なのだから、流石にそこまで鬼畜ではないと思いたいけど、どうだろうか。
あんまり期待しない方がよさそう……。
私はこの先に待っている訓練に不安を覚えながら、時の神殿へと向かうのだった。
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