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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第一章:カオスシュラーム編
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第十九話:神の誕生

 遅くなって申し訳ありません。

「……さて、質問はもうないようだから、さっそく始めようか」


〈えっ……〉


 ネクター様はそう言って立ち上がると、手に持ったガラス瓶を数度振る。

 すると、その中にはいつのまにか虹色に輝く液体が満たされていた。

 もう一つ用意したカップにそれを注ぐと、私の方へと近づいてくる。


〈え、あの、ネクター様?〉


「さあ、ハク。口を開けてくれ。その姿では飲みにくいだろうから、私が飲ませてあげよう」


 にこりとした笑みを浮かべながらにじり寄ってくるネクター様。

 いや、あの、私はまだやるとは一言も言ってないんですが!?


「ハク、諦めて飲みなさい。ネクターはああなったら聞かないから」


〈私にも心の準備というものがあるんですが!〉


「大丈夫よ。死にはしないわ。いざという時は私が何とかしてあげるから、安心して飲みなさい」


〈いや、いやいや……〉


 あんな説明聞いて安心できる人はいないと思いますが!

 そう言っている間にも、ネクター様はこちらに近づいてくる。と言うか、もう目の前だ。

 後ずさる私の顎を軽く手で撫でると、私の口が自然と開いていく。

 私の意思じゃない。もうこれネクター様が飲ませたいだけでしょ!?


「ちょっと苦しいかもしれないが、そこは気合で我慢してくれ」


〈そんなこと……んぐっ!?〉


 そう言っている間に、私の口に虹色の液体が流し込まれた。

 とんでもない色をしている割には、味はなかなかいい。リンゴのようなフルーツの香りが鼻に抜けてくる。

 あ、意外と美味しい、とか思ってたら、次の瞬間には息ができなくなった。


〈……ッ!?〉


 必死に息を吸っているはずなのに、脳に酸素が回らない。

 それだけじゃない。いつの間にか体はプルプルと痙攣しながら動かなくなっていたし、視界はパチパチと明滅を繰り返している。

 あまりの苦しさにのたうち回りたかったが、それすら許されず、ただその場で立ち尽くすことしかできない。

 こ、こんなの、聞いてない……!


「おお、意外と耐えるね。だが、あまり耐えない方がいい。すべて身を任せてしまった方が結果的に早く片が付くよ」


〈……! ……!!〉


「とはいえ、苦しい時にそう言っても難しいか。今こそこれの出番だね」


 そう言って、ネクター様は何かを手に持った。

 だが、視界が入り混じっていてそれが何なのかわからない。

 話の流れからして、多分あれがネクタルなんだと思うけど、そんなこと考えている余裕はなかった。

 息もできない。体も動かない。ものも見えづらい。ありとあらゆる状態異常をかけられたかのようなそんな責め苦を前にして、冷静な思考ができようはずもない。

 私にできることは、必死にこの苦痛に耐えることだけだった。


「ほら、口を開けて。うん、これで大丈夫だろう」


 口の中に何かが流し込まれた感覚がした。その瞬間、苦しみが少し引いたように思える

 相変わらず体は動かないけど、多少なりとも息はできるようになったし、視界も少しはましになって来た。

 これがネクタルの力? 味に関しては余裕がなかったからわからないけど、確かに効果はあるようだ。

 だが、全快とまではいかないらしい。私の胸の内を荒れ狂う暴風のように流れていく神力。

 今まで神星樹の実を食べてちまちま身に着けていた神力が、大量に流れ込んできている。

 一体何百年分の実を食べたらこうなるのかわからない。これが神様の力なのかと思うと同時に、私の体に一体何してくれてるんだと苛立ちを覚えた。


〈はぁ……はぁ……〉


「落ち着いてきたかな?」


 いったいどれほどの時間が経っただろうか。一時間? 二時間? いや、もしかしたらもっと経ったかもしれない。

 永遠に続くかと思われた責め苦は、時間を置くごとに徐々に収まっていった。

 今ならば、言葉を喋る余裕も生まれた。荒い息を吐き、何とか呼吸を整える。

 苦しかった。まるで地獄に落とされた囚人が如く苦しみは、私の精神を蝕んだ。

 だけど、何というのだろうか。私は狂うことはできなかった。

 すべてを投げ出して絶叫したかった。こんな苦しい目に合わせた神様を懲らしめてやりたいとも思った。けれど、そんな感情が浮かぶと同時にすっと溶けるように消えていく。

 恐らくだけど、どちらかの神様が何かしてたんだろう。酒場の時の状況を考えると、パドル様かな?

 おかげで私は正常な精神のまま、長い苦しみを味あわされることになったけど、今はそれを感謝している。

 多分、あのまま狂っていたら、私は私ではなくなっていたかもしれない。

 私はみんなを助けたいと思っているけど、そのために自分がいなくなるのはダメだ。自分も含めて助からなければ意味がない。

 そう言う意味では、二人には感謝しなければならないかもしれないね。


〈……私、どうなってます?〉


「姿が竜だったからかな。竜をモデルにした姿になったようだ。さながら、竜神と言ったところかな?」


〈竜神……〉


 私は自分の姿を確認してみる。

 その肌は銀色の鱗に覆われ、自慢の巨大な翼も健在だ。ただ、四足が基本だった体勢は二足歩行となり、まるで人のようになっている。

 竜人と同じ、と言いたいが、人間の体に竜の翼や尻尾が生えているというよりは、竜をそのまま人の姿にしたような姿だ。

 ローリスさんと同じようなものだと考えればわかりやすいだろうか。

 さらに言うなら、大きさも変化していない。竜の時の大きさそのままに人に近い姿になったせいか、今の私の身長は二人よりもかなり高くなってしまっている。

 目測ではあるけど、4メートル以上はあるだろうか? 元の姿の身長に比べたらかなり大きくなってしまった。


「概ね成功と言っていいだろう。神としての力もしっかり宿っているようだ」


「へぇ、なかなか可愛いじゃない。ハク、似合ってるわよ」


〈そ、そうですか?〉


 どう考えても可愛いって格好じゃないと思うけど……まあでも、お父さん譲りの銀の翼が健在なのはいいことだと思う。

 だいぶすらりとしてしまったな。竜神の姿でなければ、【擬人化】の大人モードが近いだろうか。

 そっと胸に手を当ててみると、体の中で神力が渦巻いているのを感じられる。それも、今までとは比べ物にならない量が。

 というか、魔力も神力に置き換わってしまってるのかな、これは。

 元々膨大だった魔力がそっくり神力に変わってしまったことで、神力の量もとんでもないことになってしまっているらしい。

 これで新米の神様ってまじ? 神様はいったいどれほどの神力を抱えているのやら。


「神の格としてはこれで問題ないだろう。後は、その力を使いこなせるかどうかだ」


〈これだけでは、まだ足りないってことですか?〉


「言っただろう、神剣はその実力を見るんだ。力だけあっても、神剣を十全に扱えないならそれは相応しい持ち主とは呼べない。だから、その力を完全に使いこなせなければ、意味はない」


〈なるほど。道理ですね〉


 神剣がどういう基準で持ち主を選んでいるのかはよくわからないけど、少なくとも実力を見ているということは確かなようだ。

 今の私なら、ティターノマキアでも多分持てるだろう。だが、持てるだけでは意味がない。きちんとそれを使いこなしてあげられるという信用を得なければ持ち主には選ばれない。

 となると、少し特訓する必要があるのかな? そんな時間あるのかな……。


「まあ、焦ってもしょうがない。少しずつ進んでいけばいいのさ」


〈は、はい……〉


 なんとも頼りない言葉だけど、実際その通りだから仕方がない。

 私は変わってしまった自分の体を確認しつつ、神力の扱いについて考えるのだった。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 心の準備もなしに飲まされるのは嫌だなぁ。でも時間もないですし返ってよかったのかもしれません すぐに懲らしめたい気持ちは消えましたがこの業況を作り出したのはマキアなので ティターノマキアを戦…
[一言] > 私の口に虹色の液体が流し込まれた。 吐いたら素で虹色のエフェクトが……
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