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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第一章:カオスシュラーム編
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第十六話:真正の恐怖

〈とにかく、早急に神剣を回収し、カオスシュラームの対処をお願いします。このままでは、本当に間に合わなくなる〉


「うるせぇ! 貴様のような神獣でもない奴に命令されるいわれはない。それに知らないものを対処しろと言われてもどうしようもない! 俺は何も知らん!」


〈……どうか、そこを曲げてお願いします。神剣を回収するのが難しいのであれば、神剣を回収するために他者が触れる許可を〉


「ああ、もういい! お前は消えろ!」


〈ッ……!?〉


 マキア様がこちらに向けて手を向ける。その瞬間、私は金縛りにあったかのようにその場から動けなくなった。

 先程から、圧倒的な威圧感によって足が震え、動けなかったことは確かだ。しかし、今はそれよりももっと強い。それこそ、ピクリとも動けない。

 なぜ動けないのか、視線すら動かせない今、その理由ははっきりとはわからない。

 でも、足元からせりあがってくるこの冷たさは、神力による魔法なのではないかと思った。

 足元の素材を操って足を固めたか、あるいは足そのものを石にでも変えたのか、わからないけど、私はそれに成す術がなかった。

 魔法を使って抵抗することすら許されない。私は今、完全にマキア様に命を握られていた。


〈貴様、何をする!〉


 お父さんが吠える。私を庇うように前に出て、マキア様に飛び掛かる。しかし、マキア様は軽く腕を払っただけで、お父さんを弾き飛ばした。

 震えが収まらない。これは紛れもない恐怖。心臓を鷲掴みにされ、じわじわと握り潰されていくようなそんな感覚。

 心臓が早鐘を打つ。ここにあるぞと胸の奥で主張してくるが、その鼓動を信じられないくらい、私の心は黒く染まっていた。

 人は正気を失うと常軌を逸した行動をとる。私の場合は恐らく、極度の恐怖症。マキア様から目が離せない。逃げなければならないのに動けない。私は、何もできない。


「……その辺にしておきなさいな、マキア」


 恐怖に支配されていた私の心。しかし、黒く覆われていたそれが急に晴れた。

 動かなかったはずの足が動くようになる。正常に呼吸ができる。視線を動かすことができる。

 私は思わずパドル様を見た。いつの間にか私の隣に立ち、私の翼を撫でるようにさすっている。

 今のはきっと、パドル様の力……。


「あなたの子供みたいな言い訳は正直理解できないけど、地上にティターノマキアがあり、それにはカオスシュラームがついていて、それによって地上は穢されつつある。そんな状況で、私達のやるべきことはなに? 地上を救うことでしょう?」


「そ、そう言うのは調和の奴らがやるもんだろ。そもそも俺は地上に降りるなと言われている。どのみち手伝えないだろうが」


「何言ってるのよ。ティターノマキアが原因なのだから、まずはそれを回収するのが最優先。そして、それを扱えるのは持ち主であるあなただけ。なのにあなたが協力しなかったら何も始まらないでしょうが」


 冷静なパドル様の言葉に、周囲の神様達もそうだそうだと喚き立つ。

 それぞれがどんな神様かは知らないけど、マキア様の意見に同調するような輩は一人もいないようだった。

 完全に孤立無援。状況の不利を悟ったマキア様は、唸りながら一歩後ずさると、苦し紛れの言葉を吐いた。


「お、俺は知らねぇからな!」


 その言葉と同時に、マキア様の体が光る。眩しさに、一瞬目をつぶり、すぐに開けたが、その時にはマキア様の姿はどこにもなかった。


「まったく、子供なのかしら。人の子供は可愛いけれど、あんな大きいのじゃダメね。可愛げがなさすぎる」


 パドル様はやれやれと言った様子でため息をついている。

 だが、状況はかなり悪い方向に転がったことだろう。

 地上の危機を救うためには、ティターノマキアを回収してもらう必要がある。しかし、それを唯一扱えるマキア様があの様子。しかも逃げているし。

 このままでは、元凶を排除することもできず、やがて地上は死の土地になってしまう。

 いったいどれほどの猶予があるだろうか。最初こそ、川の流れによって浄化されるほど弱い存在だった。それなのに、時間が増すごとにその侵食速度はどんどん増している。

 最後に報告を聞いた時は、ルナルガ大陸のごく一部と言う風に聞いたけれど、今はもしかしたらもっと広がっているかもしれない。下手をしたら、ルナルガ大陸はもう……。

 それだけでもかなりの被害ではあるが、それだけだったならまだ間に合うかもしれない。逃げたマキア様を追い、どうにかして自分の非を認めさせる。いや、認めさせなくてもいいから神剣を回収してもらわなければ。


「話を聞いていたが、随分と大事になっているようだね」


 そう言って話しかけてきたのは店主らしき青年だった。

 柚葉色の髪に白色の瞳。白と緑を基調とした上着を羽織るように身に着けており、手にはガラス瓶が握られている。

 そんな小さな神様に、パドル様は困ったように両手を広げながら軽く返した。


「本当にね。カオスシュラームなんていつ以来かしら? 面倒だから間違っても地上には持ち込むなって言ってたのにね」


「気が緩んでいたのもあるだろう。それにマキアは戦いを欲していた。それがたまたまカオスシュラームを呼び寄せるきっかけとなった。悪いのはマキアだろうが、地上に降りれず、娯楽も少なかった。仕方ない部分もあるだろう」


「そうね。ただ失敗しただけなら素直に謝って、巻き返せばいい。誰しも地上に降りたがっていたのだから、そうすれば同調してくれる神もいたでしょう。でも、あいつは最低の道を選んだ」


「その通り。マキアは地上を、自分の責任から逃れるためだけに穢そうとしている。それは許されざる行為だ」


 笑顔ではあるものの、その裏にはふつふつとした怒りの感情が見え隠れしていた。

 信じていたものを裏切られた、そんな感じだろうか。パドル様もそれは同じようで、こちらは呆れたような表情になっていた。


「私もこの件に力を貸そう。店の常連が罪を犯したなんて看過できるものではないからね」


「ありがとう、助かるわ」


 そう言って、今度はこちらに視線を向ける。

 青年の神様はにこりと笑うと、片手を差し出してきた。


「初めまして。私はネクターと言う。私の力がどこまで及ぶかわからないが、できる限り力を貸そう」


〈え、あ、は、ハクです。あ、ありがとうございます!〉


 慌てて差し出した手をネクター様は優しく握ってくれた。

 そう言えば、今は竜の姿になっているんだった。振りぬいた爪で傷つけてしまうかとも思ったが、小さくなっていたおかげで何とかなったようだ。

 危ない危ない。下手したら攻撃と見做されていてもおかしくなかった。

 ネクター様が優しげな神様でよかった。


「さて、となると作戦を考えましょうか。ニル、とりあえずマキアの居場所を探ってきてくれる?」


〈構わないが、ハクはどうする気だ?〉


「それも含めてちょっと話し合う必要があるでしょう? さっきの威圧に怖気づいているようじゃ、意見なんて言えないだろうし」


〈それは貴様らが……いや、わかった。丁重に扱えよ〉


「わかってるわよ。それじゃ、頼んだわね」


〈ああ。ハク、パドルと共にいれば安全だ。しばらく離れるが、万が一危なくなったら我を呼べ。すぐに駆け付ける〉


〈え? は、はい……〉


 そう言って、お父さんは酒場を後にした。

 マキア様を探しに行ったのはわかるけど、話し合いとは?

 いや、マキア様に非を認めさせる、あるいは最低限神剣に触れる権利を得るための作戦か。確かにこのまま行ったらまた言い訳されて逃げられそうだしね。


「ひとまず、場所を移しましょうか」


 そう言って、私の手を引くパドル様。

 さて、うまく言いくるめられるといいのだけど。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 他の神からタコ殴りにされればいいのに
[一言] マキアは一番最悪の対応を取りましたがそれが後々どう響いてくるか 下手したら追放されてしまうのではないでしょうか。まぁ自業自得ですけど
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