第一話:春の訪れ
待ってくださっている方がいたらお待たせしました。今回から、第二部開始となります。
春と言うのは始まりの時期である。
そう感じるのは主に学園の影響だろうが、それ以外にも作物の種植えを始める時期だったり、新しく事業を始めようとする人も多いかもしれない。
私は季節の中では春が一番好きだ。と言っても、その理由は単純に陽気が気持ちよく、気分が晴れ晴れとするというだけの話ではあるが。
学園を卒業してから早4年。時の流れは早いけれど、私の生活にそこまでの変化はない。
お姉ちゃんやお兄ちゃんは相変わらず気まぐれに依頼に出かけているし、ユーリはべったりと甘えてくる。
時にはサリアが遊びに来て、一緒に遊びに行ったり、お姉ちゃん達と共に依頼を受けたり、王様の依頼を受けて問題を解決したり、私の日常はそんなものだ。
退屈な毎日というわけではないが、最近はそこまで大きな事件は起こっておらず、ちょっと刺激が足りないと思っている。
もちろん、やるべきことはやっているよ。特に、地球へと行くための魔法陣と神力の研究には余念がない。
この4年間、結局一度も地球には戻っていないけど、神力の研究はだいぶ進んでいる。
ヒノモト帝国はこの件に関してかなり力を入れているようだから、完全に明らかになるのも時間の問題だろう。
まあ、明らかになったところで、時間の食い違いをどうにかする術を見つけられないことには気軽に行けないのだけど。
「まあ、この辺はじっくりやっていくしかないよね」
単純に地球に行くだけだったらすでに魔石は集まっている。
流石に一日に何十体も狩るのは難しいけど、一、二体狩る程度だったら狩りつくすこともないし問題はない。
私の力があれば、Bランク級の魔物が出る場所まで転移ですぐだし、狩る方も何の心配もいらないからね。
まあ、あんまり油断しすぎると腕を持ってかれそうなこともあるけど。
それはともかく、そのうち会いに行くことも考えておこう。いくらあちらの世界とこちらの世界の時間の流れが違うとはいえ、それなりに経っただろうし。
「ハク、お客さんだよ」
「あ、うん、今行くよ」
ふと、ユーリが部屋に入ってきた。
あれからユーリはほとんどの時間を男の子モードで過ごしている。
正式に結婚したこともあり、その方が自然と言えば自然なんだけど、そのせいか最近は女性らしさが薄れてきたような気もする。
だからと言ってがさつになったとか言うわけではないけど、定期的に戻った方がいいんじゃないかなとは思う。
それはさておき、お客さんか。サリアかな?
最近はいろんな人が訪れるようになった。以前はせいぜいサリアとか、カムイとかくらいだったけど、卒業して離れ離れになってしまったからか、学園の時の友達がたくさん遊びに来るようになった。
私としても、みんなとはいつまでも仲良くしていたいし、遊びに来てくれるのは嬉しい。ただ、シルヴィアとアーシェは大丈夫なのか少し心配になる。
今は出版社が軌道に乗って来たところで忙しいだろうに。今のところ目の下に隈があるというわけではないから寝ていないってわけではないだろうけど、そのうちそうなってもおかしくなさそうだけどな。
「ハク、調子はどう?」
「カムイ。うん、いつも通りだよ」
応接室で迎えると、その相手はカムイだった。
カムイは聖教勇者連盟に所属したままではあるが、正式に私との連絡役に任命されて王都に住んでいる。
まあ、その役割は形だけで、ただ単に私と一緒にいたいというのが本音のようだけど。
なにやら怪しい商売をしているようだし、今私の近くにいる人物の中で一番謎が多そうな気がする。
ちょっと気になるけど、まあそこはカムイの方から話してくれるまで待っておこうか。
「今日はどうしたの? 定期連絡には早いと思うけど」
「それはそうなんだけど、本部の方からハクに相談したいことがあるって連絡が来てね。それを伝えに来たの」
「相談したいこと?」
聖教勇者連盟での私の立ち位置は、竜に対する連絡役だ。
聖教勇者連盟は現在、各地に出現した、現地では対応できない強力な魔物を狩ることを目的としている。そして、そんな強力な魔物の中でも、聖教勇者連盟の転生者達でも対処できないような大物が現れた時、竜に支援を要請するための連絡役が私だ。
と言っても、そもそも聖教勇者連盟の転生者は強者揃い。竜に手を借りなくとも、大体は何とか出来る。移動に関しても転移魔法を使える転生者がいるし、特に問題はない。
あるとしたら、転移魔法が使える転生者が手いっぱいで、移動が困難な時だろうか? あるいは場所が秘境過ぎて容易に立ち入れないとか。
だから、最近は定期的に様子を見に行く以外はそこまで関与もしていなかったんだけど、ここにきて相談したいことがあるとは。一体何があったんだろう?
「とりあえず、見た方が早いから来て欲しいってことだったわ。どうする?」
「まあ、見た方が早いっていうなら行って見ようかな」
強力な魔物が現れたというならそう言うはずだし、そう言うわけではないだろう。
となると、重病人でも現れたか、あるいは神具がなくなったとか?
神具は今も厳重に保管されているけど、以前ほどではない。神代さんの許可があれば、比較的簡単に見ることはできる。
転生者の誰かが欲に目がくらんで取っていっちゃった、とかありえそうだ。
まあ、神具は使い手を選ぶから、そう言う事故はそこまで起こらなそうではあるけど。
「ありがと、カムイ。ちょっと留守にするから、お姉ちゃん達が戻ってきたら伝えてくれる?」
「わかったわ。ユーリは一緒に行くのよね?」
「うん。一緒に行かないと怒られそうだし……」
まあ、ちゃんと理由を説明すれば待っててくれるとは思うけど、ユーリも転移魔法を使えるようになってしまったので一緒についてくることが可能になってしまった。
あんまり危険なところには連れて行きたくないけど、まあ今回はそこまで危険はないだろう。聖庭には行き慣れているし、今更あそこが陥落するとも思えない。竜の加護だってあるしね。
だから、わざわざ説得するよりは連れて行った方が早い。
「ユーリ、いるよね?」
「いるよ。今回は聖教勇者連盟?」
「うん、一緒に行く?」
「もちろん。準備するからちょっと待っててね」
少し大きな声で呼ぶと、すぐにユーリが入ってきた。
聞き耳を立てていた、と言うわけではないと思うけど、私の声が聞こえる位置には常にいると思う。
あるいは、私の声だけ聞こえるような魔法を使っているのかもしれない。ソーサラス公爵家でかなり研究に没頭していたようだし。
おかげで今では自分で隠蔽魔法をかけて翼や尻尾を隠せている。
手がかからなくなったのはいいけど、ちょっと寂しかったり。
「相変わらずユーリはハクにべったりみたいね」
「まあ、夫婦だし」
「もう4年も経ってるのに未だに熱々なのはちょっと妬けるわ」
「そんなつもりはないんだけど」
熱々と言われるほどではないと思うんだけどなぁ。
確かにユーリはことあるごとに私のそばにいようとするけど、逆に言えばそれだけだ。
たまに頭を撫でたり、手を繋いだり、キスをしたりすることくらいはあるけど、それくらいは夫婦なら普通だし、そこまで変ではないと思う。
まあ、冷めてるわけでもないと思うけど、王族の夫婦とかじゃない限りこれが普通なんじゃないかなぁ。
「自覚ないのがハクらしいわよね」
「?」
なんかカムイがため息をついてるけど、なんでだろうか。
まあ、とにかく、ユーリも一緒に行くのだし、私も準備を整えよう。
私はカムイに一時的に留守番を任せると、ユーリがいる部屋へと向かった。
また改めて、よろしくお願いします。




