エピローグ
遂に完結です。
卒業式。それは学園において最後に行われる行事である。
この六年間の集大成であり、自分が一人前の魔術師になれたという証を貰える場として、ある意味でとても神聖な行事だ。
「ハク・フォン・アルジェイラ。前へ」
司会を任されている先生の言葉を聞き、体育館のステージに用意された段の上へと昇っていく。
そこには学園長の姿があり、その手には硬質な紙が握られていた。
「ハク・フォン・アルジェイラ。あなたは本学園の課程を修了し、魔術師の卵として立派な成績を収めました。よってここに、その証である卒業証書を授与したいと思います」
朗々と読み上げられる文章を厳かな態度で受け入れる。
そして、学園長は持っていた紙を反転させると、私に差し出してきた。
「おめでとう、ハク。これで生徒でなくなると思うと寂しいですが、どうか卒業後も健やかに」
「はい、ありがとうございます」
私が卒業証書を受け取ると、集まっている生徒達から拍手が上がる。
卒業証書授与。本来であれば、私はこれを受け取ることはできないはずだった。
私が学園に編入したのはサリアのお目付け役という役目があったからであり、そのせいもあって、クラスは常にサリアを同じクラスとなるという優遇措置が取られていた。
つまり、私は何の努力もせずとも、サリアさえ好成績を収めていれば簡単に卒業できてしまったわけだ。
しかし、私のこれまでの授業態度や挙げてきた功績、そして何より、サリアがきちんと更生してまっとうな人間になってくれたということを加味して、こうして私も卒業証書を受け取ることを許可されたのである。
この国において、オルフェス魔法学園の卒業証書というのは就職においてかなり重要な意味を持つ。
なにせ、国随一の学園なのだ。その卒業生は魔術師の卵、いや、原石と言っていい。
当然ながら、そこらの一般人を採用するのとはわけが違うので、就職においてとても有利に働くのである。
だから、これさえあれば、私はほとんど就職には困らないというわけだ。
まあ、私に就職する気はないけれど、そんな重要なものをくれたというのは私への信頼の表れでもある。
何よりも、こうしてみんなと一緒に卒業できることが嬉しかった。
「学園長もどうか壮健で」
「ああ、君もな」
そうして卒業証書を受け取った私は、晴れて学園を去るのであった。
「……あれからもう4年かぁ」
しまっていた卒業証書を引っ張り出して眺めていると、卒業式の日のことを思い出す。
なんだかんだ言って、学園はとても楽しかった。
友達だってたくさんできたし、魔法の新たな方向性も学ぶことができた。
まあ、半分くらいは学園関係なかった気もするけど、今思い返せばどれもいい思い出である。
「みんな、立派になっちゃって」
卒業後、友達のみんなはそれぞれの道を歩んでいった。
シルヴィアとアーシェは宣言通り出版社を開くと宣言し、去年見事に起業に成功したと聞いた。
従業員こそいるものの、資金集めに苦労したらしく、卒業してから三年は国の研究員として働きながら資金を集めていたらしい。
ぶっちゃけ、そっちの方が安定した職場だし、給金もいいんだからと思ったけど、二人には譲れないものがあったらしい。
まあ、それが私とサリアの絡みを書いた本を売り出すことっていうのがちょっと複雑だけど……。
まだ売り出してから一年ちょっとしか経ってないが、一部の層ではそれなりに人気らしく、無事に経営も軌道に乗っているらしい。
私にもお布施としていくらかのお金と本が送られてくるが、お金はともかく、本はいらない。
自分が主人公のエッチな本とか読みたくないし。……読みたくないし。
ミスティアさんはヴィクトール先輩の工房に就職し、忙しい日々を送っている。
あれから4年も経ち、素材の安定供給ができるようになってきたらしい。
相変わらず神星樹の種を用いた装置は供給が少ないが、たまにミスティアさんが私にとって来てほしいと頼んでくるので、ついでに渡している。
その気になればもっと量産できるらしいけど、流石に貴重過ぎてそれが大量に出回るのはいろんなところから口出しされる可能性があるのであまり数は作れないらしい。
ヴィクトール先輩はそのことを嘆いていたようだが、プロトタイプの方でも十分に人を救っているので気に病む必要はないと思う。
今ではよほど小さな村でもなければ教会に装置が置いてあり、格安で利用できるようになっているみたいだしね。
最近では、他国にも売り出すかどうかを検討しているようだ。
まあ、流石にそこまでやると一工房では扱いきれないので国を挟む必要があるだろうけどね。あるいは行商人に頼むか。
そうそう、行商人と言えば、ロニールさんはヴィクトール先輩が作った装置をいち早く売り歩き、多大な利益を上げたらしい。
そのお金で、念願だった店を王都にオープンしたようだ。
護衛だったリュークさんも冒険者をやめ、ロニールさん専属の護衛となったらしい。
あの二人はいつも一緒にいたから、そういう道を選んでも不思議はないか。前に行って見たら、リュークさんもだいぶ強くなっていたし、冒険者であればAランクも夢ではないと思うんだけどね。
キーリエさんはちょっと特殊で、その情報収集能力を買われ、国の諜報機関にスカウトされたらしい。
まあ、あの行動力は称賛ものだし、諜報員としても優れているとは思っていたけど、まさかスカウトされるとは思わなかったけどね。
まあ、諜報と言っても街中で噂話を集めると言ったことに特化しているらしく、よくあるどこかに潜入して、っていうのはやったことがないようだ。
普通に王都で暮らしているので、他国の秘密を探るというよりは、自国の今の流行りを調べるような目的なのかもしれないね。
カムイは一度聖教勇者連盟の本部に戻っていったが、私との連絡役という大義名分を受けて再び王都へと戻ってきた。
元々、カムイは嫌われ者だったらしく、できることならあんまりそこにはいたくなかったらしい。
なので、王都に家を借りてそこで暮らしている。
一応仕事はしているようだけど、なんか謎な仕事なんだよね。
なんでも、人に夢を見せる仕事なのだとか。詳しくは教えてもらえないのでよくわからないけど、まあいかがわしい職業じゃなければなんでもいいかな。
まあ、よく王都にあるとてつもなく魔力量が高い場所に行っているみたいだから、そこで何かしてるんだろうけどね。
サルサーク君はアンジェリカ先生の支援を受けて、無事に跡を継ぎ、その傍らで刻印魔法をする環境を獲得したらしい。
私もあの時は必至で冒険者に呼び掛けたけど、どうやらうまくいったようで何よりだ。
評判も上々で、早いし安いし性能もいいで他の刻印師を食ってしまうほどの大活躍らしい。
今は国お抱えの工房からスカウトを受けているらしいけど、全部断っているようだ。
まあ、平民だからと馬鹿にして就職を蹴ったのに今更入ってくれなんて言っても行くわけないよね。
今やその価値は国も認めるほどで、正式に刻印師として名乗ることも許可されたみたいだし、よかったよかった。
アルトは王太子として今も忙しく勉強しているようだ。
私に騎士としての忠誠をしたことは王様にしこたま怒られたようだけど、それほどまでに私のことを思ってくれているのはとても嬉しかったし、私も思いに応えてあげられないのは心苦しく思っていたので、あの提案はありがたかった。
まあ、王様も私のことは信用しているようで、何かあった時は国を頼むと言われてしまったし、もしオルフェス王国に危機が迫るようなことがあれば私が対処して見せよう。
これでも一応貴族だし、務めを果たさないとね。
「みんな、ちゃんと自分の道を歩んでいるんだね」
みんなと比べると、私の日常など些細なことである。
ユーリと結婚した以外は特に変わりはなく、以前と同じ家でお兄ちゃんとミホさん、お姉ちゃん、そしてエルとアリアと共に悠々自適な暮らしをしている。
何もすることがなければボーっとしているだけかとも思ったけど、サリアと一緒に遊びに行くこともあるし、冒険者としてギルドに顔を出すこともあるし、王様から依頼を受けて問題を解決したりすることもある。聖教勇者連盟に呼び出されることもあるし、ローリスさんからも遊びに来いと催促がよくある。もちろん、お父さんやお母さんにもたまに会いに行くし、案外家にいる時間は少ないかもしれない。
それだとユーリが不満そうにするのだけど、最近はユーリも精霊に半分足を突っ込んだせいか、転移まがいのことができるようになったので私が転移で移動しても一緒に来れるようになった。
なんか、ユーリの性質がだいぶ変わってきたような気もするけど、まあ体に悪影響はなさそうなので良しとしよう。
「ハク、お客さんだよ」
「うん、今行くよ」
ユーリが呼びに来たので、卒業証書をしまって外へ出る。
さて、今日は誰が来たのかな?
感想ありがとうございます。
これにて『捨てられたと思ったら異世界に転生していた話』は終了となります。
終了と言っても、第一部が終了という形で、しばらくしたら第二部としてまた続きを書き始めるかと思います。
無事完結まで書き終えることができたのも、ご覧下さった皆さんのおかげです。ありがとうございます。
この小説は終了ですが、もう一つ『TRPGのゲームマスターはお助けNPCとして異世界を駆ける』という小説も投稿していますので、もしよければそちらも見ていただけたら嬉しいです。
ここまでありがとうございました。また再開する日まで。




