幕間:卒業旅行4
主人公の親友、シルヴィアの視点です。
お互いの主張はこうだ。
ローズマリーさん達の方は、ここに来た際にいくつかのシートが敷かれているのを見て、開いている場所を探したらしい。
そこで見つけたのが木から多少離れているものの、そこそこの広さがあり、みんなで見ることができるこの場所だったようだ。
もちろん、シートなどは敷かれておらず、周りに誰もいなかったので、ここはまだ誰も取っていない場所だと思い、シートを広げたのだとか。
そして、その後しばらくして現れたのがこの男性達であり、ここは俺達の場所だと主張し始めて困っていたところにカムイさんが来て、言い合いに発展したのだとか。
対する男性達の主張としては、彼らは私達が来るよりも前にここに来て、この場所を取ったらしい。ただ、シートとなるものがなかったため、人を一人置いて、その他の人達はテントの設営などをしていたようだ。
その後、ふと空を見てみると、星降りを見たらしい。これは早く知らせなければと場所を取っていた人は他の人達が待つテントへと移動、あれこれ準備をして戻ってきたら、ローズマリーさん達がいて場所を取られていた、というわけらしい。
この話を聞く限り、悪いのは持ち場を放棄してここを離れたその人なんじゃないだろうか? というか、そもそも場所取り用のシートを持ってくるのは当然のことなのだし、それを持ってこなかった時点で取られても文句言えないと思う。
元々シートが置いてあって、それをこちらが強引にどかして場所を取ったというならともかく、これは完全に私達に非はない。
彼らはこちらを非難する前に、その場所取りをしていた人を叱責するべきだろう。
「なるほど、話はわかりました」
「わかったか? ならさっさとどいてくれ。こうしている間にも星降りが始まっちまうかもしれないんだから」
「んー、流石にそのまま退くわけにはいきませんね」
「なんでだよ!」
冷静に返すハクに食って掛かる男性。
いずれも背が高く、ハクの倍くらいある人もいる中、それでもハクが動じることはない。
これが本当に子供なら怖くて動けないだけかもしれないけど、ハクはすでに数百年を生きた竜である。この程度で動じるわけもない。
デフォルトである無表情がその冷静さをさらに引き立てていた。
「場所取りというのはその場所を取ったという証が必要となります。あなた達はその証となるものを何も用意せず、ただその場にいたからという理由だけでここを取り返そうとしている。対して、こちらはしっかりとシートを用意して、人がいなくてもここは私達の場所だと示しています。取られたくなかったのなら、初めから場所取りの人が移動しなければよかっただけの話ですよね?」
「うぐっ……」
「それにそもそも、シートがないってことは立って見るってことですよね? これから数時間、いつ流れるかもわからない星降りを待つのはかなり大変だと思うんですけど、そのあたりはどう考えてるんですか?」
「そ、そんなの、ただ待ってるだけなんだから別に問題ないだろ」
「いえ、ずっと上を見上げているとなれば首も痛くなりますし、何より近くに休める場所がないというのは苦痛になるでしょう。それに、これから深夜になればもっと寒くなります。そんな軽装では風邪をひきますよ?」
男性達の格好はよくある布の服に、申し訳程度にローブを纏っている状態だ。
この格好を見る限り、その辺の町人が物珍しさからやってきたけど、準備が全く足りなくてどうしようか迷っている、って感じを受ける。
魔道具を持っているというならともかく、見た感じそんなものを持っているわけでもなさそうだし、このまま外で突っ立っているというなら確実に風邪をひくだろう。
核心を突かれて怯んだのか、男性達は顔を見合わせてどうしようかと戸惑った表情をしている。
「もしそれ以上の準備がないのであれば、無理をせずにテントで寝袋にくるまりながら見ることをお勧めします」
「そ、そんなわけにいくか! せっかくここまで来たのに!」
「そうは言っても、そのままだと本当に体調を崩しますよ? ただ星を見るだけ、なんて甘く見ないことです。野宿するというのは、きちんと準備をしなければ命を脅かすことだってあるんですよ?」
ハクの言葉はとても重い。
確かに、私も今まで野宿をしたことはあったけど、その時は護衛の冒険者がたくさんいたし、食事だってテントだって全部用意してもらっていた。
私はただ用意された食事を食べて、見張りもせずに寝ればいいだけで何不自由なく過ごすことができていたのである。
でも、もしそれらがなかったら、私は多分一夜を超すことはできないだろう。
火魔法があるとは言っても、繊細な魔力制御ができるようになったのはここ最近だし、以前の私では魔道具がなければ火すらつけられないだろうしね。
明らかにその場のノリできたような人達だし、野宿なんてしたことがないのだろう。最低限、テントがあればいいと思っていたんだと思う。
そんな覚悟では、仮に盗賊や魔物に襲われなかったとしても、いつか死ぬでしょうね。
「……とはいえ、せっかくここまで来たんですから、このまま帰るのは嫌でしょう。あなた達さえよければ、一緒に星降りを見ませんか?」
「一緒に?」
「はい。シートも貸しますし、食事もふるまいましょう。どちらも余っていますしね」
こんな奴ら、テントで見ればいいと思っていたけど、ハクは予想に反して一緒に見ようと提案した。
こんな奴らのためにそこまでしなくてもいいとは思うけど、でもハクの性格ならそう言うのも理解できる。
まあ、ここは結構広いし、私達全員に数人を加えてもまだ余裕はあるだろう。
「シルヴィア、アーシェ、勝手に決めちゃったけど、いいかな?」
「ええ、大丈夫でしょう」
「他の人もハクの言うことなら反対しないと思いますわ」
ハクは本当に優しい。これが世界の災厄とされている竜だというのが信じられない。
と言っても、それは間違いで、竜は世界を管理しているいい種族らしいけどね。
それを考えれば、この行動はある意味当然と言えるのかもしれない。
「そういうわけですので、いかがですか?」
「まあ、そういうことなら……」
「決まりですね。では、まだ本格的に流れるのは先でしょうから、先にご飯を頂きましょう」
そう言って、ハクは男性達を連れてテントへと戻っていく。
よくよく考えると、あのカレーという食べ物の取り分が減るのはちょっと痛手ではあるけど、その時はまたハクに作ってもらうとしよう。
「まったく、ハクは優しすぎるわ」
「流石ハクさんです……!」
「うん、感動した!」
後に残った三人がハクのことをそれぞれの目線で見ている。
私達は、それに同意しながら、共にテントに戻るのだった。
その後、食事を終えてシートの上で寝転がってみた星降りはとても綺麗だった。
ハクによると、流星群というらしい。いくつもの星が降り、思わず願い事を言うのを忘れるくらい見惚れてしまった。
カレーもかなり美味しかったし、十分いい思い出になったことだろう。
興奮も冷めやらぬまま、みんなで語らう。そうしているうちに、夜は更けていった。
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