幕間:卒業旅行2
主人公の親友、シルヴィアの視点です。
翌日。私達は朝早くから学園の前に集まっていた。
今回参加するメンバーは、私とアーシェ、ローズマリーさんにマーテルさん、ミスティアさん、キーリエさん、カムイさん、エルさん、サリアさん、ハク、そして、ハクのお兄さんとお姉さん、ユーリさんの13人だ。
他にも誘いたいメンバーはいたけど、流石にこれ以上多くなってしまうと馬車代も馬鹿にならないのでこれが精一杯である。
まあ、ハクのお兄さんとお姉さんはAランクの冒険者で、ハク自身もBランクの冒険者だから護衛を必要以上に雇う必要がないという点では節約になりましたけどね。
「皆さん、おはようございます。これから出発ですけど、忘れ物はありませんか?」
「大丈夫だよー」
「問題ないわ」
朝早くだというのに、みんな眠気で目をこすっているなどということはなく、しっかりと起きているようである。
むしろ、一番眠気に負けそうなのは私だろう。私だけでなく、私と同室だった三人は楽しみすぎて結局夜遅くまで起きていたわけですからね。
「それでは、これから星降りの丘に向けて出発したいと思います。長旅になりますが、そこも含めてこの卒業旅行を目いっぱい楽しみましょう」
「「「おー!」」」
軽く挨拶をして、馬車に乗り込む。
今回の馬車は学園のものではなく、馬車の貸出屋から借りたものである。
一応、学園の方が安く馬車を借りられるのだが、学園の馬車は行事などで使うもの以外はそこまで性能がよくないので、長旅には向かない。
短時間ならともかく、長時間がたがた揺られてしまうとお尻が痛くなってしまうので、そこを快適にするためにも多少割高でもちゃんとした馬車を借りたのだ。
まあ、それでも揺れる時は揺れるので、各自クッションなどを持ってくるように言っていましたけどね。
ちなみに、御者も借りたので目的地に着くまで私達は特に何もしなくていい。
一応、私も御者はできるけれど、流石に長旅で御者を一人でやるのは難しいし、交代しながらやるにしても大変ですからね。
人数が人数なので馬車は二台ということもあり、御者はしっかりと雇うことにした。
「では、あらかじめ決めておいた座席表に従って馬車に乗り込んでくださいね」
人数を見て、馬車は二台必要になると思っていたが、そこで問題になったのはどういう分け方をするかだった。
というのも、大半の人がハクと一緒に乗りたがったからである。
お兄さんとお姉さんはもちろん、サリアも当然一緒にいたがったし、エルさんも同様、そして、ローズマリーさんとマーテルさんもせっかくの生ハクなのだからと一緒に乗りたがった。
遠慮したのはミスティアさんとキーリエさん、後ユーリさんくらい。カムイさんは別の馬車でいいとは言っていたけど、明らかにハクと一緒に乗りたいのが見え見えだった。
私達も当然ながらハクとは一緒にいたかったけれど、流石にそれをやるとバランスが悪すぎる。だから、先に挙げた六人とハクで一つの馬車に乗ることになった。
ただ、それだと不公平なので、帰りは残った人達と交代する形をとった。
行きと帰り、どっちが楽しいかはわからないけど、ハクと一緒ならそれだけで楽しいので帰りが楽しみだ。
「では、お願いします」
「わかりました」
全員乗り込んだことを確認し、御者に指示を出して出発する。
乗ってみるとわかるが、荷物のせいもあって案外狭い。
一応8人乗りの馬車なんですけどね。こればかりはちょっと見誤ったかもしれない。
「いよいよですわね」
「ええ。と言っても、まだ出発したばかりですが」
「日程的にはどうなってるのー?」
「あ、はい。予定では……」
ミスティアさんの質問に頭の中で予定を確認する。
今回の目的地である星降りの丘に行くまでには約五日かかる。
道中では基本的に町や村で宿をとることになっているけど、うまくいったとしても一日は野宿をする必要がある。
というのも、星降りの丘がある場所に行くためには、一番近い町からでも一日ほどかかるため、朝に出発したとしても星降りの丘に着く頃には夜になってしまうのである。
まあ、星降りの丘に行く目的は星降りを見るためであって、そのためには夜にならなければならないからそれは別にいいのだけど、特に道が整備されているわけでもないから魔物も普通に出るし、盗賊だっているようだ。
それだけが少し心配ではあるけど、こちらにはハクがいると考えるとそこまで脅威とは思わない。
なにせ、ハクの正体は竜なのだから。たとえ不意打ちを受けたとしても、ハクならばたとえ盗賊が出ようが魔物が出ようがすぐさま対処してしまいそうである。
さらに言うなら、ハクのお兄さんやお姉さんもかなりの実力者だし、サリアさんもエルさんもかなり強い。ミスティアさんも成績は優秀で、特に光魔法に関しては相当な技術があるし、カムイさんの火魔法はまさに自由自在と言っていいくらい縦横無尽に操ることができる操作性を持っている。
多分、学園の中でも有数の大戦力じゃないだろうか。戦いが苦手なのはキーリエさんとローズマリーさんくらいかしら? なんだかんだ、マーテルさんは割と好戦的ですし。
もちろん、だからと言って完全に気を抜いていいというわけではないけれど、そこまで気張る必要もないと思う。
「まあ、このメンバーに勝負を挑んでくるのは無謀かもねー」
「大丈夫ですよ。もし盗賊が来ても私が焼き払ってあげますから」
「頼りにしてますよ」
まあ、そもそもの話、そこまで危険なルートを通ることもないんですけどね。
いや、星降りの丘周辺は観光客を狙った盗賊なんかは出るかもしれないけど、それ以外の道はそこまで危険というわけでもない。ちゃんとした街道だ。
だから、よほどのことがなければ襲われることはないだろう。特に、凶暴な魔物は冬はあまり活動しないらしいし。
「ところで、ユーリさんはちょっと雰囲気変わりましたか?」
ふと気になったのは、ユーリさんのことだった。
ユーリさんとは以前ハクの家で勉強会を行った時に会ったことがあるのだけど、その時に比べて何となく雰囲気が変わった気がする。
装いもなんだかシンプルで、どちらかというと男性が着るような服を着ているようだ。
イメチェンでもしたんだろうか?
「ああ、これはそのうちわかると思いますよ」
「そのうち?」
「はい。卒業後を楽しみにしておいてください」
「?」
なんだかよくわからないけど、卒業後にわかるらしい。
かなり気になるけど、あまり触れてほしそうではないので突っ込みすぎるのも可哀そうか。
「ふわ……ちょっと、眠いので寝ててもいいですか?」
「実は私も……昨日あんまり寝れなかったものですから」
「いいよー。町に着いたら起こすねー」
しばらくすると、寝不足のつけが回ってきたのか眠気にあらがえなくなってきた。
移動中も話に花を咲かせたかったが、まだ五日もあるのだし、今日くらいは寝てもいいだろう。
それに、宿でだって話す機会はあるでしょうしね。
私は荷物を抱えながら目を閉じる。
馬車の揺れを感じていたら、気が付けば私は夢の世界に旅立っていた。
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