第七百十三話:一足遅く
その後、追いつくことはできたが、ちょっとばかし遅かったようだ。
四人は終着点まで到達し、そこにあった扉を開けて先に進んでしまっていた。
探知魔法で見る限り、どうやらそこは城の地下らしい。どういう部屋かまではわからないけど、多分倉庫か何かに偽装しているんじゃないだろうか。
それはそれとして、それを目にした四人はきょろきょろと辺りを見回して首を傾げている。
どうやら、異界にしては現実に寄りすぎていると気づいたらしい。
だが、ここが城かどうかまではわかっていないらしく、ここはどこなんだと疑問に思っているようだった。
「あ、ハク、無事だったのね。ついてこないから心配していたわ」
「怪我はないか? 襲われなかったか?」
「いや、まあ、大丈夫ではありますけど……」
とりあえず危機は去ったとして、一息ついている四人。
適当にそのあたりにある箱に腰かけて休んでいるようだった。
さて、これはどう説明したものか……。
「あのー……皆さんに一つ言っておきたいことがあります」
「なんだ? やっぱり怪我してるのか?」
「いえ、それは大丈夫です。そうではなくて、ここは城の地下で、今まで進んできた道は城の隠し通路だということです」
何とか気づかれないまま穏便に帰ることができればよかったけど、こうなってしまった以上はもう真実を伝えるしかないだろう。
私の言葉に四人はきょとんとした様子をしていたが、ウェルさんは少し納得しているのか、少し頷いていた。
「え、ここ城なの? それにしてはだいぶ薄汚いけど」
「ここは地下ですから。恐らく、隠し通路を隠すための偽装だと思いますよ」
倉庫と言っても、大したものは置いていない。恐らく、敵が上で迷っている間にここにきて、逃げるためなんだろう。
隠し通路が一つとも思えないから多分もっとあるだろうけど、これはその一つだと思う。
「もしそれが本当だとしたら、この状況はかなりまずくないか?」
「はい、とてもまずいです。理由はどうあれ、隠し通路を暴いて、あまつさえ城に無断で侵入しちゃったんですから」
城への無断侵入はそれなりに重い罪になる。
まあ、そうは言っても、許可さえとれば平民でも入れる場所ではあるし、わざわざ無断で侵入する輩はほとんどいないが、だからこそ無断で侵入した際は罪が重くなるのだ。
一応、昼間に誤って侵入してしまったというだけならば、その人物に明らかに悪意がなければ見逃される可能性もなくはないけど、現在は夜、しかもほとんどの人物が眠りについた深夜である。
こんな時間に侵入していることが見つかれば、問答無用で殺されても文句言えない。それほどまでにまずい状況なのだ。
「で、でも、王族の使う隠し通路なのに、なんで通れたの?」
「それは多分、フェルマータさんが王族の血を引いているからでしょう。確か、フェルマータさんって学園長の娘さんですよね?」
「う、うん。そっか、だから反応したんだ」
これがただの生徒だったならば、こうして見つかることもなく、諦めて帰ることになっていたことだろう。
フェルマータさんがいたからこそこんな事態になってしまったわけだ。
ここに来た理由もフェルマータさんが王子のことを目撃したからだし、こうなった原因はフェルマータさんと言えなくもないけど、それを止められなかった時点で私も同罪である。
さて、どうしたものかな。
「ど、どうすれば……」
「選択肢としては二つあります」
一つはこのまま引き返すこと。
今ならば誰にも気づかれていない。このまま隠し通路を引き返し、誰にも言わないまま帰れば問題も起こらないだろう。
明日王子が登校してくれば四人の憂いも晴れるだろうし、このまま見なかったことにして帰り、ずっと黙っていればこれまで通り過ごすことができると思う。
もう一つは、王子に打ち明けること。
このまま隠し通路のことを知っているということは今は問題はなくても、いずれ問題になる可能性がある。
もしこの国が攻められて、王様達が逃げなければならないという時に、隠し通路の存在を知っている私達は脅威になる可能性がある。敵に寝返るとかね。
まあ、こんなのはほとんどない可能性ではあるだろうけど、隠し通路の存在を知っている人は少ない方がいいに決まっている。そう考えると、正直に打ち明けて判断を仰いだ方がいい気はする。
「どうしますか?」
「うーん、あんまり隠し事はしたくないけど……」
「でも、流石に隠し通路を見つけたなんて言ったらやばいんじゃないか?」
「確かに、これは流石に……」
「お前らはまだいいかもしれないけど、俺はばれたらかなりやばいぞ」
みんなとしては、隠し事はしたくないけど、事が事だけにあんまり話したくないという感じ。
まあ、それはそうだろう。公爵家であるフェルマータさんとかならば、安易に口封じなんてできないだろうけど、マックスさんとかはそこまで位が高いというわけでもないし、普通に罰が下る可能性がある。
いくら王様が寛大とはいっても、何かしらの処置は受けるだろうし、話したくないのも納得だ。
「……ここは、秘密にしておきましょう。私達は何も見なかった、そういうことでいいわね?」
「そうだな……」
「それがいいと思う」
「異議なし」
「では決まりですね」
しばらく話し合った結果、このまま何も見なかったことにして引き返すことが決まった。
まあ、これが妥当なところだろう。幸い、私達以外に隠し通路の存在を知った人はいないし、それを見た人も深夜だったためいないだろう。
であれば、私達が黙ってさえいればこの隠し通路の秘密は守られる。
あんまり隠し事をするのは感心しないが、これは仕方のないことだと思う。
「結局、七不思議なんてただの噂なのね……」
「だから言ったろ。所詮はただの噂だって」
通路を引き返し、学園まで戻ってきた私達。
扉を出ると、再び隠蔽魔法がかかったので、これで見つかる心配はないだろう。
ちょっと予想外ではあったが、何事もなく済んでよかった。
「でも、だったら通路で聞こえてきたあの声は何だったんだろう?」
「あ、それは私です」
「え?」
私の言葉に、みんなの視線が私に集中する。
「ど、どういうこと?」
「元からあの通路が隠し通路だってことはわかってましたから、何とか引き返してくれないかと芝居を打ったんです」
「そ、それなら最初から言ってくれたらよかったじゃない! なんであんな回りくどいことを!」
「いや、できれば皆さんには隠し通路だということすら気づかないでほしかったので」
もし、あのまま引き返させることに成功していれば、みんなはあの通路のことを異界に繋がる通路だと勘違いしたままだっただろうし、あれだけ怖い思いをすれば二度と近づくこともないだろうと思ったのだ。
まあ、結果は惨敗だったわけだけど。
「ハクちゃんって器用なんだね」
「まあ、魔法にはそれなりに自信がありますから」
私のやり方に不満を示す人もいたけど、みんなを諦めさせるために仕方なくということを話したら納得してくれた。
ひとまず、これで問題は解決しただろう。
私達は奇妙な高揚感を感じながら、帰路につくことになった。
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