第七百九話:深夜の学園
王様への報告も終わり、再び授業の合間に研究する日々が始まった。
と言っても、もうあまり時間はない。なので、私もエルと同じように徹夜してさっさと済ませてしまうことにした。
本当はあんまり徹夜はよくないんだけど、すでに半分くらいは終わっているし、多分そんなに徹夜しなくても終わるはずである。
そういうわけで、今日は残りの細かな部分を片付ける。
「確か、雷魔法は威力が高い分、攻撃を相殺しやすいって話だったよね」
魔法の属性にはそれぞれ特徴がある。
火属性なら威力が高い、土魔法だったら耐久力が高いなど、その属性によって得意な魔法が変わってくる。
こういった特徴があるからか、魔法騎士団で採用されやすいのは威力が高い火属性が多い傾向にある。
もちろん、属性の特徴は基本的なものなので、魔術師の実力が高ければ容易に覆せるものではあるけど、やっぱり威力が高いというのは明確な長所なので、重要視されやすいわけだ。
多分、威力順に並べると、雷と火が一番に上がり、その後ろに光、闇、さらに下に風、水、氷、そして最後に土といった感じだと思う。
エルが得意とする氷魔法はとても強力そうに見えるけど、氷属性の特徴はどちらかというと防御寄りである。
闇魔法と土魔法の間ってところだろうか。拘束と防御、その二つが得意と言ったところ。
まあ、エルがそうなように、使いこなせれば攻撃でも十分に強いので、ほんとに基本的な特徴ではあるけどね。
というか、エル以外にもウィーネさんとかはかなり氷魔法が強力だし、熟練の氷魔法使いはむしろ他の属性より強いのかもしれない。
「これを考えると、魔術師同士の実力が拮抗している時、相性が普通の場合は属性によって勝ち負けが決まるってところかな」
全く同じ条件下で、全く同じ魔力量の魔法を放った場合はさっき言ったような属性ごとの威力が重要になってくるだろう。
とは言っても、火属性と雷属性がずば抜けているだけで他の魔法はそこまで大差はないような気がする。
実際、光と風をぶつけあっても別に光が明確に勝つというわけでもなかったし。本当にわずかに光魔法の方が勝ったかな、と言ったところだ。
「やっぱり、重要なのは火属性と雷属性なのかな?」
この二つは相性がいいというわけではないけれど、同じ魔力量でぶつけ合った場合はお互いに相殺しあって消滅する。
相性がいい属性同士の場合、ボール系の魔法だったらボールが触れ合った場所からすぐに消滅していくけど、相性が関係ない場合はしばらく滞留した後に徐々に小さくなって消えていくから、火と雷が相性がいいというわけではないと思う。
特殊属性で相性に関係ありそうなのは、光と闇、そして氷と火くらいだろうか。
いや、氷と火は火の威力が高いからかもしれないけど、消滅の仕方からして多少は相性がいいのかもしれない。若干氷の方が弱いから火と水のような関係とまではいかないようだけど。
まあ、それはともかく、火と雷、この二つは似ているようで少し違う気がする。
ゲーム風に例えるなら、火の方はダメージにプラスして固定のダメージが入るから威力が高くて、雷の方は相手の防御を貫通してダメージを与えているから元々のダメージが高い、みたいな感じだろうか。
なかなか面白い関係だと思う。
「まあ、強い魔術師になれるかどうかは才能と努力次第だと思うけどね」
火と雷の威力が高いからと言って、では火と雷に適性があれば強い魔術師になれるのかと言われたらそういうわけではない。
エルやウィーネさん……は例にならないかもしれないけど、仮に威力が低い属性にしか適性がなかったとしても、鍛え方によっては十分一線級の強さになるはずである。
私も最近は雷魔法を結構使ってるけど、得意なのは水魔法だしね。
大事なのはその属性の特徴を理解して、それに見合った使い方を学ぶことかな。
何となく、魔法騎士団とかを見る限り、今の魔術師は威力こそ重要みたいな風潮があるっぽいから、できればちゃんとした使い方を考えだしてほしいところだね。
「さて、これであらかた終わったし、後はこれをまとめて……ん?」
徹夜を始めてから二日、あれほど手こずっていたのが嘘のようにあっさりと研究が進み、後はまとめに入るだけといった頃、ふと視線を向けた先になにやら明かりが揺れているのを発見した。
今、私がいるのは学園の校庭である。
本来であれば深夜にこんな場所にいることはあまり褒められたことではないし、実験なんてやっていたら音がうるさくて迷惑だろうとも思ったが、よくよく考えたら私は結界を張れるのである。それも、音はもちろん、姿すら完全に隠してくれるような万能な結界が。
最初は竜の谷にでも行ってやろうと思っていたけど、これならわざわざ移動する必要もないなと思って、とりあえず広い場所である校庭でやることにしたのだ。
校庭のど真ん中にまで深夜警備の人は来ないしね。
まあ、それはともかく、校庭から学園の方を見やってみると、なにやら明かりが見えたのだ。
一応、警備の人も明かりを使っているのでそれかなと思ったんだけど、探知魔法で見る限り、どうやらその明かりの下には四人ほどの人物がいるようである。
警備の人は一人か二人で巡回しているはずなので、とりあえず警備の人ではなさそうだ。
こんな時間に誰だろう? 私と同じように徹夜で研究しに来た人かな。
「とりあえず、確認してみようか」
本当はもう帰るつもりだったけど、ちょっと気になるので確認してみることにする。
結界を解く代わりに隠密魔法をかけ、姿を消してその明かりの下へと近づいていく。
「なあ、ほんとに行くのか? やめた方がいいと思うんだが……」
「なによ、騎士団長の息子ともあろう人が怖いの?」
「いや、そういうわけじゃないが、やっぱり夜の学園に忍び込むなんて悪いことだし……フェル、お前もそう思うだろ?」
「うーん、確かにそうだけど、私は好奇心の方が勝ってるかな」
「なあ、なんで俺まで連れてこられてるんだ?」
「いいじゃない、暇だったんでしょ?」
「いや暇じゃないが……」
近くで見てみると、見覚えのある顔触れが揃っていた。
こっそり寮から抜け出してきたのか、あるいはどこかで隠れていたのか、みんな学生服姿である。
確かアレクさん、エレーナさん、フェルマータさん、そしてウェルさんだったかな。
この人達みんなAクラスだったよね? 優等生であるはずの彼らが何でこんなところにいるんだろうか。
うーん、このまま隠れて様子を伺ってもいいけど、みんなこれから何かする気満々のようである。
今はちょこっと竜の翼を出しているから眠気はないけど、すでに二徹しているからさっさと寝たいところではある。
何か起きるまで隠れて様子を見るというのは……ちょっとないかな。
「なにしてるんですか?」
「「うわー!?」」
「「キャー!?」」
隠密を解いて話しかけると、男女それぞれ悲鳴を上げて文字通り飛び上がって驚いていた。
よくよく考えたら、こんな誰もいない時間帯にいきなり背後から話しかけられたらそりゃ驚くか。ちょっと反省。
「あ、えっと、私ですよ。修学旅行とかで会いましたよね?」
「そ、その声、もしかしてハクか?」
「はい、ハクですよ」
男子勢はいち早く冷静さを取り戻したのか、すぐに私だとわかったようだ。
よかった。あんまり騒がれると警備の人に見つかっちゃったかもしれないし、そうなっていたら面倒なことになっていだろう。
私の姿を見て女性勢も落ち着いたのか、ようやく話ができそうである。
さて、何をしていたんだろうね?
感想ありがとうございます。




