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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二十一章:学園卒業編
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第七百八話:それぞれ報告

 王都に戻って、私は真っ先にシュリさんにシュナさんのことを報告した。

 シュリさんとしては、姉は呪いによって目が覚めなくなってしまい、それを解くためにずっとインリーズ家に預けられていると思っていた。しかし、今回の件でそれが間違いだと気づき、とてもショックを受けたようである。

 シュリさんがシュナさんのことをどう思っているかはわからないけど、シュナさんのために呪いについて調べるくらいには慕っているようだったし、シュナさんを騙し取ったに等しいインリーズ家に深い憎悪を抱いたようだ。

 しかし、その後のシュナさんの行動を聞くと目を丸くし、スレイマンさんの末路を聞くと少し笑顔が戻っていたから多少は溜飲も下がったことだろう。

 それでも、14年もの間、家族と引き離されていたという事実は変わらないので、インリーズ家を完全に許すわけにはいかないと思うが、シュナさんが帰ってくればそれも少しは落ち着くと思う。

 まあ、当主を失ったインリーズ家はこれから先存続していくのは難しいだろうし、最低限の仕返しはできただろう。

 全部シュナさんの策略だけどね。


「ハクさん、私のために、姉を助けてくれてありがとうございます」


「いえいえ、私が勝手にやったことですから」


 シュリさんとしては、私の手を煩わせることはあまり望んでいなかったようだが、これは私でなければ解決は時間がかかっただろう。

 領主邸にすんなり侵入できる人なんて限られているだろうしね。

 シュナさんはある程度自由を与えられていたとはいえ、領主邸がある町の中心部からは出ることはできなかったらしい。だから、会うためには町の中心部に入れるような人物、つまりは貴族とか商人とかでなければだめだったはずだ。

 しかも、それらはほとんどがスレイマンさんに協力的な人ばかり。これでは外に助けを求めるのも難しかっただろう。

 いや、シュナさんのことだからもしかしたらできたかもしれないけど、私が行った方が早かったよね。


「なんとお礼を言っていいか……私に返せるものなんて何も……」


「何もいりませんよ。さっきも言いましたが、これは私が勝手にやったことです。もし何かお礼がしたいというならそうですね、シュナさんをきちんと受け入れてあげてください」


「そ、それはもちろんですけど、そんなことでいいんですか?」


「はい。それが一番、シュナさんの望んでいることでしょうしね」


 シュナさんは両親に捨てられたと思っていた。だから、家族に拒絶されるのはとても心に来ることだろう。

 もちろん、ずっと心配していたであろうシュナさんの両親が拒絶するとも思えないが、それでも14年という年月の溝がある。

 それをどうか埋めてあげてほしい。私がシュリさんに求めるとしたらそのくらいだ。


「……わかりました。しっかりと受け入れますね」


「はい。そうしてあげてください」


 とは言っても、シュナさんが戻ってくるのはしばらく先になることだろう。

 今後のインリーズ家の処遇についても王様に報告しなければならないし、シュナさんが完全に自由の身になるにはしばらく時間がかかるはずである。

 だから、それまでの間に色々と整えてあげたらいいんじゃないかな。

 シュリさんは涙を流しながら何度もお礼を言ってくれたけど、しばらくしてやるべきことを思い出したのか、早退していった。

 シュリさんの家は王都にあるから、多分両親に報告しに行ったんだろう。

 これでシュリさんの方は大丈夫かな。


「さて、後は王様だね」


 王様からは、インリーズ家は重要な家だから殺すなと言われた。でも、殺さなかったとはいえ、事実上の空席になったインリーズ家の当主の座をどうにかしない限りはインリーズ家は潰れたも同然である。

 本来であれば、子供が後を継ぐべきなんだろうけど、シュナさんはその辺うまく回避したのか子供はいないようだった。

 一応、後釜に育成していた人を置いているようだけど、その人はインリーズ家の人間ではないし、養子にでもならなければ継ぐことはできない。

 となると、インリーズ家をどうにかする役目は多分、前当主のノイマンさんってことになるんじゃないかな。

 まあ、シュナさんが当主となり、育てた人を代官に立てるとかすれば行けるかもしれないけど。


「とりあえず、報告しに行こう」


 とやかく言っても、それを決めるのは王様である。

 私は放課後まで待ってから、城へと赴いた。


 城に行くと、すぐさま応接室へと通された。

 この対応も当たり前になってきた気がする。後から入ってきた王様は私の姿を認めると、ふぅと息を吐いてソファに腰を下ろした。


「その様子だと、事は済んだようだな。それで、どうなった?」


「はい、実は……」


 私はスレイマンさんの末路を王様に報告する。

 それを聞いて、王様は顎に手を当てて少し考え込むような仕草を取った。

 やっぱり、失脚させたのはやりすぎだっただろうか?

 インリーズ家は学園創設当時からの古参貴族。現在でも資金的な意味で重要な位置にいる貴族らしいので、その当主がいなくなったのは結構な痛手だろう。

 あえて見逃すことはできたが、そこはシュナさんの要望もあったし、一応王様からも、スレイマンさんが愚かな真似をしていたら断罪していいと許可を貰っていたので、多分大丈夫だと思いたい。


「……ひとまず、ご苦労だった。まさかスレイマンがそこまで腐っていたとはな」


 一応、シュナさんが奴隷商売を勧めたということは話していない。

 多分大丈夫だとは思うけど、それを話すことによってシュナさんに不利益なことが起こっても困るからね。

 だから、王様の中ではスレイマンさんは悪事に手を染めて私腹を肥やしていた悪徳貴族という形に落ち着いたことだろう。

 まあ、ちょっと事実とは違うけど、大体合ってるからいいよね。


「ノイマンもやってくれたな。信じておったのだが」


 スレイマンさんばかりが悪く見られているけど、その父であるノイマンさんも割とあくどい。

 いや、噂を聞く限りでは違法奴隷を保護してあげたり、孤児院に寄付をしたりといい人のようだが、それでもシュナさんを攫ったのは実質ノイマンさんと言っていい。

 仮死薬なんてそうそう手に入らないだろうし、それを手に入れる伝手を持っていたのも、自分を信用させて娘を預けさせるように仕組んだのもノイマンさんだ。

 息子可愛さにそんな行動をとったんだろうが、明らかにやりすぎである。

 ノイマンさんにも、きっちり罪を償ってもらわないとね。


「一応、シュナさんが選んだ人が今のところインリーズ領をまとめているようですけど、これからあそこはどうなりますか?」


「うーむ。スレイマンの悪事は数々の証拠もあり、覆ることはないだろう。そして、ノイマンに関しても14年前に犯した罪を清算させなければならない。そして、子供はおらず、か。そうなると、しばらくの間は国で領地を運営するしかないな」


 後釜にシュナさんが選んだ人を添えるにしても、親戚などから選ぶにしても、どちらにしろしばらくの間は当主が不在となる。

 だから、次の当主が決まるまでの間、インリーズ領は国の領地となり、国が運営することになるだろうとのこと。

 本来であれば、インリーズ家はお家おとり潰しとなり、爵位剥奪の上財産没収となるところだそうだが、そこはやはり重要貴族だからなのか、そこまでの処置はせず、ノイマンさんは爵位降格、スレイマンさんは爵位剥奪の上で強制労働となり、インリーズ領の統治はシュリさんの家が代わりに行うようにするつもりらしい。

 これは、シュリさんの家が被った被害に対する賠償のようなもので、法衣貴族であるシュリさんの家が領地を持てるならそれなりの賠償にはなるだろうと考えてのことのようだった。

 これが正解なのかどうかはわからないが、まあ、賠償がされるだけいいのかな?

 とりあえず、一応は丸く収まったようで何よりである。

 私はひとまずシュナさんが悪いようにされなくてほっと息を吐いた。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 法衣貴族が急に領地貰っても困りそう
[良い点]  過激なザマァをしないハクさんとしては上限ぎりぎりのお裁きだったかなぁ(´Д` )なろうに多数潜伏するザマァ過激派は誰も人が死んでないこのザマァに「うっそー!」と思うだろうけど、この甘さが…
[一言] 古来より返せるものがないなら方法は一つあってですね…… ハク×シュリ誕生! というのは置いておいていざとなったら研究を手伝ってもらうのもアリかも
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