幕間:実家に帰ろう4
ヒノモト帝国の皇帝、ローリスの視点です。
遅くなって申し訳ありません。
前世では、お父さんの見繕った服を着る機会は結構あった。
というのも、お父さんは私のことをたいそう可愛がっていたが、それと同時にいろんな服を着せて楽しんでいたのだ。
それは年齢相応の子供らしい服はもちろん、雑誌に載っているような大人っぽい服や、イベントとかでしか見られないようなコスプレまがいな服まで様々。
私としても、いろんな服を着れるのは楽しかったし、その行動に異論はなかった。
恐らく、ようやく戻ってきてくれた娘を見てその欲求が爆発したのだろう。
明日には帰ってしまうという娘に対してやりたいことがそれなのかと思わないこともないが、まあ、それがお父さんの望みというのなら服を着るくらいは何でもない。
今は服を着るのは嫌いだけど、お父さんの頼みだからね。気持ちもわかるし。
そう思って引き受けたのだが、ちょっと早まったかもしれない。
「おお、素晴らしい! おい、ちゃんと写真に収めているか?」
「ちゃんと撮ってるっすよ! いやぁ、わかってたけど流石お嬢、何着ても似合うっすね!」
服が用意されている部屋に行くや否や、お父さんは次々と私に服を着せていった。しかも、子分を呼んできて撮影までする始末である。
私が普段着ていたようなものはもちろん、どこから持ってきたんだっていうのまで本当に様々。
お父さん自身が買っているんじゃないとは思うけど、女児服を持ちながら鼻息荒くしているのは見られたら警察呼ばれそうでちょっと怖い。
「ねぇ、まだ着なくちゃダメ?」
「もちろん! まだまだあるぞ!」
それはさておき、私はすでに嫌気がさしていた。
さっきも言ったかもしれないけど、今の私は服を着るのが苦手である。
だけど、別にずっと着ていられないというわけではないし、我慢すれば着ていること自体はできる。
お父さんのためならば、それくらい我慢しようと思い、こうして着せ替え人形にされているわけだ。
だけど、うん、年を考えろって話だよね。
お父さんが私に着せてくるのは女児服ばかり。まあ、私の身長は140センチメートルちょっとしかないから当然と言えば当然だけど、生前であれば何の問題もなく着れた服も、今だとちょっときついものがある。
なにせ、私はすでにあちらの世界で30年近く過ごしているのだ。しかも、猫だったせいか成長速度が速く、また前世の記憶も持っていたので、私はかなり早熟だったと思う。
前世と合わせればすでに40年も生きているおばさんなのに、今更女児服を着せられるとか普通に羞恥プレイである。
だから、早く終わってほしいと切に願っていた。
こんな時、ウィーネがいればそれとなく注意してくれるかもしれないけど、ウィーネはウィーネで朝倉と一緒にいったん家に帰っている。
まあ、朝倉だって死んだ妻が目の前に現れたわけだし、色々話したいこともあるだろう。
ウィーネは私に許可を求めたが、流石に私もそこまで鬼じゃない。だから許可を出したのだ。
まあ、そのおかげで止める人がいなくて延々と撮影会が続いているんだけどね。
ふとを外を見てみれば、すでに暗くなってきている。ということは、3、4時間くらいは経っただろうか。
私は頑丈だからいいとして、よくお父さん達は疲れないものだ。
「……ん?」
そんなことを思っていると、ふと自分の手に目が行った。
今は変身魔法のおかげで人間の手をしているが、その手がだんだんと毛深くなっていっているような気がする。
これってもしかして、変身魔法が切れかけてる?
「お、お父さん、あの……」
「ん? どうした? 疲れたか?」
「あ、うん、それもあるんだけど……」
そう言っている間にもだんだんと体が毛で覆われていく。
これはもはや隠しきることはできないだろう。そして、今気づいたが私はまだ自分の正体を明かしていなかった。
もはや説明している時間もないし、ウィーネもこの場にはいない。
つまり、もう詰んでいる。
「えっと、驚かないでね?」
その言葉と共に、私の体は全身が青い毛で覆われてしまった。
足は逆間接になってしまったし、尻尾も生えている。完全にワーキャットの姿だ。
お父さん達はぽかんと口を開けていたが、やがて子分の方がカメラを取り落とすと、慌てた様子で部屋に飾られている日本刀を手に取った。
「ば、化け物! お嬢に化けてやがったのか!」
「え、いや、ちがっ……」
「お嬢の姿を真似て取り入るとは何たる不遜! 今すぐ叩き斬ってやる!」
やはり、この姿は受け入れられないらしい。
そりゃまあ、いきなり人間が猫の化け物になったら驚くよね……。
みんな優しいから忘れていたけど、みんなが敬愛するのはあくまで茜であって、ローリスではない。
この姿になった以上は、もはやこの場にいることはできないだろう。
もう少し、慎重に行動していればこんなことにはならなかったかもしれないのに……。
「静まれ!」
その時、お父さんが咆哮と言わんばかりの声を上げた。
子分はその声に委縮し、日本刀を取り落とした。
「貴様、茜に刃を向けるとは何事だ!」
「い、いや、でも、どう見ても化け物にしか……」
「何を言う。偽物があんな風に話せるものか。それに、俺が自分の娘を見間違えるとでも?」
「そ、そんな! 滅相もありません!」
お父さんは私の前に立つと、そっと抱きしめてくれた。
いきなりの出来事に反応できず、そのまま棒立ちになってしまう。
お父さんは、私のこの姿を見ても味方でいてくれるの?
「お、お父さん……?」
「ああ、俺はお前の父さんだ。そしてお前は俺の娘の茜だ。それ以外の何物でもない。それより、気づいてやれなくてすまなかった」
「お父さん……」
涙が溢れてくる。ああ、お父さんはいつだって私の欲しい言葉を言ってくれる。
猫の姿となり、言葉も話せないまま放り出された過去。今でこそ、それを乗り越えて国のトップになるまでに至ったけど、その道のりは遠く険しかった。
その結果が、化け物として家族に見捨てられるという結果に終わらなくて本当に良かったと思う。
私はしばらくの間、お父さんの胸で泣き続けた。
撮影会はお開きとなり、私はお父さんと膝を突き合わせて話すことになった。
途中でウィーネも帰ってきて、軽く事情を説明してくれたおかげもあって、それ以上私が化け物として扱われることはなく、お父さんも朝倉も普通に接してくれた。
「ローリス様、遅れてしまい申し訳ありません……」
「いいの。ちゃんとわかってくれたから」
あの時、本来であればお父さんだって子分と同じように攻撃してきてもおかしくなかった。
娘がいきなり猫の化け物になったのだから、少なくとも放心していてもおかしくなかったはずである。
それなのに、私のために声を張ってくれた。
お父さんがいなかったら、私は逃げていただろう。本当に、お父さんには感謝してもしきれない。
「まあ、話を聞いてある程度予想していたからな。魔物に転生した者達をまとめる国の頭が可憐な少女ってだけじゃ格好がつかないだろうしな」
魔物に転生した転生者を保護しているという話は普通に話していた。でも、私がただ転生者を助けるはずもない。同じような境遇にあったからこそ、助けたいと思ったんだろうと予測していたようだ。
だから、私が本当は人間ではないことにも気づいていたらしい。私の口から言うまでは特に言及しないことにしていたようだ。
お父さんはその見た目から能筋と思われがちだけど、意外と頭が回る。
流石は私のお父さんだね。
私は自分の境遇も含めて、改めて話をすることにした。
感想ありがとうございます。




