幕間:実家に帰ろう3
ヒノモト帝国の皇帝、ローリスの視点です。
前話名前が挙がったウィーネの本名、明美ですが、以前登場したヴァーチャライバー、柳瀬明美と漢字が一緒だったので、明海に変更しました。
そこから、私は本来の目的である拠点を提供してほしいという話に移った。
あちらの世界からこちらの世界に来た人々には拠点と呼べるものが一つもない。転生者であれば言葉の問題は何とかなるとしても、お金もなければ仕事もない、住む場所すらないので寝るのも難しい。そして、警察の厄介になるようなことになれば戸籍すらないので面倒なことになる。
そういうわけで、こちらに来た時にその人達が安全に生活できる拠点を提供してほしいというわけだ。
当然、拠点ということは家というわけだから、かなりのお金がかかる。しかし、お父さんは表向きは様々な企業を手掛ける大商人だし、裏の世界でも相当稼いでいるから家一つ用意することくらいたやすい。
なんなら、この無駄に広い家に住まわせるのだっていいだろう。
転移した場所からこの家は結構離れているから移動は大変だけど、それさえなんとかできればこの家だけでも数十人は暮らせる気がする。
とにかく、後から来る転生者達のためにも、どんな形でもいいから住む場所が欲しいのだ。
もちろん、転生者の中には魔物が【擬人化】した姿の人もいるし、こちらの世界とあちらの世界では時間の流れが違うということも話した。
こちらの世界では圧倒的な力を持つ人達を受け入れるかどうかという話になるが、お父さんは許可してくれるだろうか?
「なるほど、話はわかった。規模は大体どれくらいなんだ?」
「わからない。一応、今のところは10人くらいを予定しているけど、もっと増えるかもしれないし、減るかもしれない。まだ試験段階中だから……」
転移魔法陣を起動するには神力が必要となる。
行きではあの遺跡が神力を供給してくれているのか特に必要はないけれど、帰りには必要になってくる。
どうやら神力は魔力の元となった要素のようで、魔力はいわば神力の劣化版。そのおかげか、神力でなくても魔力で代用することができる。
ただし、効率がかなり悪いので、魔力で補う場合にはかなりの量が必要となり、とても個人で賄える量ではないため、魔石が大量に必要になってくる。
現在、その条件で自由に行き来ができそうなのは【ストレージ】を持つウィーネかハクくらいなものだろう。
一応、【ストレージ】の機能を持たせたバッグを開発しているので、それを使えば誰でも行けるかもしれないけど、バッグだと万が一の場合盗まれる可能性があるから怖い。
魔力がなければ開けられないだろうけど、奪われてしまっては意味がないのだ。
そういうわけで、魔石に頼ることなく移動できるようになるためにも、神力の取得が必須なわけである。
現在は、神力だとわかった魔力溜まりに一定期間人を住まわせ、神星樹の実という神力が詰まった木の実を定期的に食べることによって神力の取得を目指すという計画を進めている最中である。
あれでうまく神力を取得してくれたらいいのだけど、ハクが特殊だっただけでうまくいかない可能性もある。だから、正確な人数はまだ言えないのだ。
「なら、アパートを一つ用意しよう。立地に関してもいい場所を知っている。そこならば、すぐにでも住むことはできるだろう」
「おお、流石お父さん」
「だが、家賃として色々と徴収させてもらうぞ。別に金でなくてもいい。異世界というなら、こちらの世界にはない珍しいものがあるはずだろう? それを提供してくれないか?」
「まあ、対価は必要よね。うーん、いくつかあると思うけど……ウィーネ?」
「はい。ではこちらなどいかがでしょうか」
そう言って、ウィーネは【ストレージ】からいくつかのアイテムを取り出す。
基本的に、あちらの世界はこちらの世界と比べて技術力的には劣っている。
しかし、代わりに魔法という文化があるので、それに関連したことなら多少なりとも珍しいものはあるだろう。
ミスリルなどのあの世界にしかない金属や、あちらにしかない植物、それに魔石や魔物の素材などなど、交渉材料として使えそうなものはいくつもある。
こういうことを見越してウィーネはいくつかのアイテムを【ストレージ】に入れていたので、スムーズに事を運ぶことができた。
後はお父さんが気に入るものがあればいいんだけど……。
「ほう、これが魔石とやらか。魔力を込めると火やら水やらが出ると」
「うん。でも、この世界には魔力がないからあんまり使い物にならないかも……」
あちらの世界では、たとえ魔法が使えない人であっても最低限の魔力は持っているから、魔石を起動させることはできる。
しかし、こちらの世界では魔力を持っている人がいないから、いくら魔力を込めようとしても変化が起こることはない。
だから、魔石を利用した魔道具も多分使えないだろう。
帰りに必要だから一応持ってきたけど、これはあんまり役に立たないかな。
「いや、魔力とやらに反応して現象が起こるということは、それだけこの石にはエネルギーが詰まっているということだろう。しかも、手のひらほどの大きさで水を沸騰させるほどの火力が出るような膨大なエネルギーが。どうにかエネルギーを抽出することができれば新たな事業を築けるかもしれん」
「そ、そうなの?」
「ああ。ミスリルとやらも気になるが、こっちの方がかなりのお宝だと思うぞ」
意外にも、お父さんは魔石に興味を示した。
確かに、魔石には魔力が込められていて、その魔力が別の魔力に触れることによって何かしらの現象を引き起こす。それはすなわち、魔力というエネルギーを秘めているということに他ならない。
魔力のないこの世界でそれをエネルギーとして引き出すのは難しいと思うけど、お父さんなら確かにできるかもしれない。
エネルギー産業はお父さんの主要ビジネスだしね。
「ひとまず、サンプルとしていくつか貰ってもいいか? 色々調べてみたい」
「ええ、もちろん。役に立つかわからないけど、元からいくつかは置いていくつもりだったしね」
こちらの世界に来た以上は何かしら持って帰りたいと思っていたが、それと同時にお父さんに受け入れられた暁には何かお土産を残していきたいと思っていた。
まあ、ぱっと思いつかなかったからこんなありきたりなものしか持ってこれなかったけど、今度来ることがあったらまともな贈り物をしたいわね。
「茜、お前、ちょっと大人っぽくなったか?」
「そう?」
「ああ。まあ、それはそれで可愛いが」
確かに、私はすでにあちらの世界で30年近く過ごしているからね。前世の三倍くらい生きてしまっている。
だから、大人の余裕だって出てくるというものだ。
まあ、これはスキルという力を手に入れたからっていうのもあるだろうけど。
「……よし、ひとまず、異世界から来客があることはわかったし、そいつらのための住居を用意することも了承した。次は茜、お前の番だ」
「私の番?」
「お前、この後その異世界に帰るつもりだろう?」
鋭い目を向けてくるお父さん。
確かに、私はこの後あちらの世界に帰るつもりである。
だって、こちらの世界での一日はあちらの世界での一か月。皇帝代理の座はハクに任せたとはいえ、ハクはまだ学生の身だ。
今は夏休みらしいけど、それも一か月程度で終わるのだから、少なくとも明日の昼頃までには帰らなければならない。
でも、お父さんからしたら、それはあまり受け入れたくない事実だよね。
なにせ、死んだと思っていた娘がようやく帰ってきたのだ。私がお父さんのことを大好きなように、お父さんも私のことが大好きである。
せっかく会えたのに、また長い間会えなくなるのは嫌だろう。
まあ、時間差があるから私は長い間会えないかもしれないけど、お父さんは短い期間で会えるかもしれないけどね。
でも、そうであってもやはり離れたくないというものだ。
「お前が異世界で皇帝という立場についたことは聞いた。国の頭がいつまでも国を空けるのはだめだろう。だから、引き止めはしない。だが、まだ帰るまでに時間はあるな?」
「ま、まあ、明日の昼くらいまでは……」
「だったら、頼みたいことがある」
「頼みたいこと?」
改まった顔でこちらを見てくるお父さん。
私はごくりとつばを飲み込んでその言葉を待った。
「頼む、俺が選んだ服を着てくれ!」
「……は?」
唐突にできた服の話題に私はぽかんと口を開けてしまった。
感想ありがとうございます。




