幕間:首狩り兎の経歴
ヒノモト帝国で保護した転生者、ボーパルバニーの視点です。
私は転生者である。名前はアオイ。何の因果か、前世の記憶を持ったまま魔物の兎になってしまったのだ。
転生すること自体は、まあ悪くはない。前世の記憶を持ったまま転生したのは予想外だったけど、それはそれで二度目の人生ということで楽しめると思ったし、こういう展開はラノベではよくある展開だからそれなりに期待もしていた。
しかし、蓋を開けてみれば兎の魔物。確か、ボーパルバニーだっけ? に転生していた。
いや、おかしいでしょ!
確かに、強くなりたいとは思ってたよ? 私の前世は自慢じゃないけどモデルをやってるくらいには整った容姿をしていたけど、その代わりもの凄く不愉快な視線を向けられた。
特に、男性からのいやらしい目線は嫌で嫌で仕方なかったし、変態ともなると触ってこようとすらするから、いつか襲われるんじゃないかとひやひやしていた。
だからせめて、自衛できるくらいには力が欲しいとは思っていた。
だけど、だからと言って兎に転生するのは納得がいかない。
最初はそれこそか弱い動物に生まれ変わってしまったと思った。だけど、実際に野生で暮らしてみるとこの体のスペックはかなり高いようで、自然と相手の急所が見え、どこを攻撃すれば効果的に相手を殺せるかが瞬時にわかった。
その上、なんか意識すれば見えない刃みたいなものを作り出せたし、さらに前世では到底できなかったであろうアクロバットな動きもお手の物。
正直強いなんてものじゃない。まさに無双だった。
強いのはまあいいよ? 強くて困ることはあんまりないだろうし。だけど、やはりここでネックになるのは兎という見た目だった。
この世界の人達も前世と同じくこの姿は可愛いと思われるようで、村なんかに近寄っても特に警戒されることもなく、すんなり入り込むことができた。
なんなら、餌なのか食べ物を恵んでくれたりもして、おかげで飢えに苦しむことはなかった。
だけど、やっぱりそこは兎。扱いは完全にペットだし、人間が食べているような食事にありつくことなどできはしなかった。
魔物として転生したおかげか、味に関しては特に何も思わなかったけど、やっぱりまともな食事がとれないというのは苦痛だった。
それに何より、私が魔物だとわかった瞬間、村の人達が突き放してきたのがとても悲しかった。
それはたまたま起こった悲劇だった。村に盗賊が押し入ってきて、食料と女をよこせと要求してきた。抵抗した男達は殺されていき、村は阿鼻叫喚の地獄と化した。
だから私は、村人を助けるために盗賊を殺して回った。
ボーパルバニー、首狩り兎と称されるだけあって、人を殺すのなんて簡単だった。
こっそり近寄って不可視の刃で首をすっぱり。
もちろん、人を殺すことに葛藤はあったけど、森は食うか食われるかの弱肉強食の世界。それほど殺すことにためらいは生まれなかった。
私は盗賊達の首を持って村人の下に行った。これで脅威は取り除かれた。もう怯える必要はないんだよって。
でも、村人は私のことを魔物だとして追い出した。
その目に浮かんでいたのは怯え。人を簡単に殺せるような魔物を近くに置いておくなどできなかったのだろう。私は居場所を失い、森をさまよう羽目になった。
その後も、何度か村を転々としたが、やはり結果は同じ。何かしらの理由で私の正体がばれ、その度に追い出されたり殺されかけたりした。
だから、私はもう村に近づくのをやめた。
食事の供給が断たれるのは嫌だったけど、それ以上に人から怯えられることに耐えられなかった。
私はただ、仲良くしたいだけなのに……。
私は森の奥でひっそりと暮らすことにした。
しかし、その頃には私の名は広く知れ渡ってしまっていたようで、どうやら討伐対象にされてしまったらしい。
生憎と、この世界の言葉はわからないので状況証拠でしかなかったが、わざわざ森の中に分け入ってきて私を見つけるや否や、殺そうとしてきたのだから恐らくそうなのだろう。
私は逃げた。殺すこともできたけど、ここで殺せば余計に人が来ると思ったから。
そうして逃げ続ける日々が続き、私もそろそろそういう生活に慣れ始めた頃、その人はやってきた。
その人は、馬の耳と尻尾が生えたいわゆる獣人だった。
と言っても、今まで行った村も獣人ばかりだったからここには獣人が普通にいる世界だとは知っていたけど、その人は今まで襲ってきた人達とは色々違った。
なぜなら、私に会うなり日本語で話しかけてきたのだから。
転生者、私はすぐにこの馬の獣人の正体に合点がいった。
話を聞く限り、私のように魔物に転生してしまった人達を保護する国があるらしい。
私にとっては渡りに船な話だった。
私はジェスチャーでなんとか意思を伝え、一緒に行きたいという旨を伝えることに成功し、見事その国に行くことができた。
これが一番の私の幸運だったのだろう。その後、私を襲う奴が馬の獣人、イオさんというらしい、もろとも殺そうとしてきたのは計算外だったけど、その後ちっこい銀髪少女と青髪の美少女が助けに入ってくれて事なきを得た。
そして今、私はヒノモト帝国という場所にて部屋を与えられ、のんびりと過ごすことができている。
『温かい食事に柔らかいベッド、おまけに毎日ブラッシングまでしてもらって、こんな幸せな日々があっていいのかしら』
魔物となった転生者を保護しているというからどんな国かと思ったら、予想以上のVIP待遇にびっくりである。
諦めかけていた人の食事も普通に出してくれたし、ジェスチャーでやりたいことを伝えれば、伝われば色々やってくれる。
金持ちのペットってこんな気持ちなんだろうか。今までは森で魔物を狩ってそれを食べる生活をしていたから、何もしないでも食事が出てくるっていうのはまさに天国のようである。
唯一悩みがあるとすれば、世話をしてくれるメイドさん達の間で私の世話を誰がするかでもめているのを見せられることだけど。
どうやら、この愛らしい容姿はこの国の人達でも愛でる対象になっているらしい。
みんなメイドとは思えないほど身体能力が高いので見る度に空中戦やらアクロバットな動きを見せつけられるけど、今じゃ私もああいうことできるんだよね……。
ペット扱いなのは納得いかないが、それはもめる時だけで、ちゃんと私の前では人間として扱ってくれているのは好ポイントである。
後はこれで人間になれれば大満足なんだけどね。
でも、それにも希望がある。なぜなら、イオさんなんかを初めとして、この国の人達は皇帝から【擬人化】なるスキルを貰って人の姿になっているらしい。
つまり、私もそのスキルを貰えば人型になれるということだ。
生憎と、その皇帝は今所用で出かけていていないが、帰ってきたらすぐにでも掛け合ってくれるらしい。
人型になれさえすれば、また前世と同じように人らしい暮らしができるかもしれない。
この国は前世のことを凄く研究して、町でも日本を再現しているようだからかなり期待が持てる。
私は普通の生活を夢見ながら、その日もベッドの上で眠りこけるのだった。
その後、帰ってきた皇帝、ローリスさんというらしい、に【擬人化】のスキルを与えてもらった結果、私は人型になることができた。
兎が元だからか、兎の獣人っぽくなってしまったが、まあ、これはこれで可愛いしいいだろう。
ここから私の華々しい第二の人生が始まるのだ!
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