幕間:相応しい男になりたい
主人公が助けた獣人の青年、ヒックの視点です。
ハクは俺の命の恩人であり、将来の結婚を誓い合った仲だった。
だが、実際はそう思っていたのは俺だけで、ハクは俺の村の風習を知らず、だからブレスレットの意味も理解していなかったのだという。
それを聞いた時、俺は地面がなくなって奈落に落ちていくような錯覚を覚えた。
なにせ、この4年間、俺はハクのためにずっと修行を続けていた。
ハクに並び立てるような男になるために必死で剣術を学び、今では師匠と並んで村で一番と言われるくらいには強くなったと思う。
だけど、ハクにはその気はなくて、張り切って贈った新しいブレスレットも無駄に終わってしまった。
あのブレスレット、俺が初めて狩った魔物の魔石を使って作ったんだけどな。流石にあれを右腕に着けられた時は正直堪えた。
結局、ハクとは友達という関係になり、それ以上進展することはなくなってしまった。
まあ、でも、今ではそれでよかったんじゃないかと思っている。
なぜなら、ハクと俺の実力差は圧倒的だったからだ。
ハクは竜人で、見た目以上に年を重ねている。最初に出会った頃は、俺より年下かと思っていたが、実際はハクの方が圧倒的に年上だった。
元々強い竜人な上に、700年も生きているなら、実力差があるのも当然かと思うが、それは間違いだと思う。
なぜなら、ハクは最初に出会った時以上に強くなっていたのだから。
俺だって、修行しているうちに何となく相手の実力を測ることくらいはできるようになったと思っている。
と言っても、本当に何となくなので実際は間違っていることもあるかもしれないが、俺がハクに感じたのは、圧倒的なプレッシャーだった。
竜人は竜の子供だから、ハクには竜の血が流れているのだろう。それを感じ取って、本能的にプレッシャーを感じただけかもしれない。
けれど、ハクの場合はそれを完全に制御しているように感じた。
圧倒的なプレッシャーを感じるはずなのに、見た目にはそれがわからない。師匠も言っていた、魔力が駄々洩れになっている奴は三流、魔力を制御し、コントロールしている者こそが一流なのだと。
獣人はあまり魔力を使わないから駄々洩れにしている奴も多いけど、ハクは完全に制御していた。
それはすなわち、ハクが相当な強者だということ。それも、今の俺では到底かなわないような高い実力者である。
元から、竜を従えるようなやばい人だったのに、それがさらに強化された。それだけで、俺は二度とハクには追い付けないだろうなとわかってしまった。
それはすなわち、俺がハクと結ばれるようなことがあれば、ハクに頼りきりになってしまうであろうということ。
もちろん、男性が女性をリードするという考え方は獣人だけで、人間はあまりこだわりはないようだけど、俺が獣人である以上、そうまでしてハクと結ばれるのはハクに失礼だと思った。
せいぜいあって友達、あるいは従者といったところだろう。
だから、友達という関係に留まったのはある意味運がよかったのだ。
「ハク姉ちゃんって過保護だよねぇ」
「そんなに俺は頼りなく見えたかな?」
「それもあるだろうけど、元からそういう性格なんだと思うよ」
妹のアンリが部屋に置かれている数々のアイテムを見ながらそう言う。
ランタンやテントなど、冒険に役立つ数々のアイテム。これらはすべてハクが去り際に残していったものだ。
俺が冒険者を目指していると知ったから、そのためには必要だろうということでくれたのである。
どれもこれも新品同然で、恐らくこれ全部買ったら金貨を使わなければならないんじゃないだろうか。
特にテントはかなり高いものも多いので、どう考えても俺には過ぎた代物である。
「結局ハク姉ちゃんってどこかの王女様とかだったの?」
「いや、なんか学園に通ってるとか言ってたが」
「へぇ。なんか意外だね」
「でも、これを見ろ」
俺は真っ先に渡された一枚のメモを見せる。
そこにはハクが俺のことを冒険者として推薦する旨が書かれていた。
それだけなら、ハクは冒険者だったのかと思うところだが、最後に書かれている名前には、一緒に肩書が書かれていた。
Bランク冒険者。それは特別な依頼をクリアした者だけがなれるランクであり、いわゆる上級冒険者と言われるランクだった。
以前少し調べたが、Bランクは一人で町を制圧できるほどの力を持つ者もいるらしい。
上級冒険者はギルドでも丁重に扱われており、その発言力は並の下級貴族よりも高いと言われている。
つまり、それだけ偉いということだ。
「やっぱり偉いんじゃん」
「そうだ。流石はハクだな」
上級冒険者は下級冒険者達の憧れの的である。そんな人から推薦状を貰えるなんて相当な幸運だろう。
俺なんかのためにこんなものを残してくれたハクには感謝しかない。
「これは、ちゃんと冒険者にならないと申し訳が立たないんじゃない?」
「そうだな……」
正直、冒険者を目指したのはそれが一番簡単に強くなれるからだと思ったからだし、そんなに冒険者に対して執着のようなものはなかった。
10歳以上であれば誰でもなれるものだし、ハクを探すまでの間の資金稼ぎ目的で利用できればいいな程度の認識だったのだ。
しかし、ここまでされた以上はきちんと冒険者にならなければハクに申し訳ない。
実際、冒険者は村を出るいい口実ではある。
この村は狩りで生計を立てているが、当然それだけでは暮らしていけない。
一部の村人は出稼ぎに出かけることもあるし、若者が村を去るのは珍しいことではない。
だから、冒険者になって一旗揚げ、村に還元するんだと言えば引き止める者はいないだろう。
どのみち、修行目的で村は出る予定だったしな。
「ハク姉ちゃんの友達名乗るんならさ、やっぱり同じランク、せめて一個下くらいにはならないといけないでしょ」
「てことは、Cランクってことか?」
「そういうこと。それもその中でもBランクにもうすぐなれるくらい上位になるんだよ」
確かに、仮に冒険者としてハクと一緒に依頼を受けるとかなった場合、ハクがBランクでこちらがFランクとかだったらハクに寄生していると思われてもおかしくない。
というか、そもそもあまりランクが離れすぎていたら一緒に依頼を受けることすらできないのではないだろうか。
もちろん、ハクと一緒に依頼を受けることがあるかなんてわからないけど、冒険者を目指す以上はありうるシチュエーションである。
ハクに少しでも近づくためにも、ランクを上げるのは結構重要かもしれない。
「そうだな。冒険者ができるのは若い頃だけだっていうし、冒険者としての寿命を使いつくすまでにはハクと同じランクになりたいな」
「その意気だよ。お金稼げたらちゃんと仕送りしてね」
「わかってるよ」
目標が決まれば後は頑張るのみである。
と言っても、俺はまだ旅に出るには実力不足だと師匠から言われているし、もう少し修業が必要になるかとは思うが、いつか必ず旅に出て冒険者になり、ハクと並んでいても恥ずかしくない男になる。
これが俺の、ハクに対する恩返しだ。
「よーし、やるぞー!」
その日以降、俺は今まで以上に真剣に修行に取り組むのだった。
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