第六百九十話:色々報告
ローリスさん達の報告も終わり、今度はこちらの報告の番である。
と言っても、ほとんどはミコトさんが報告書にまとめてくれたので私から話して伝えることはほとんどないが。
報告書を読んだウィーネさんは、ふむ、と呟きながら静かに頷いた。
「特に大きな問題は起こっていないようで何よりだ。まあ、魔力溜まりの家の件は少々予想外だが」
「こちらで勝手に建てちゃいましたけど、よかったですか?」
「後で確認する必要はあるだろうが、まあ問題はないだろう」
一応、あの後も魔力溜まりの家は確認していたが、特に変化が訪れることはなく、きちんと家として機能することがわかった。
他にも、置いていた物資に関してもそれ以上変化することはなく、無事に安全が確認されたので運び込むことができるだろう。
まあ、ここの建物に比べたら住みにくいだろうけど、それは仕方ないよね。
ある意味修行のようなものだし、環境が悪いのは仕方がない。
「それと、新しく転生者を連れてきたようだな?」
「はい。偶然見つけたらしくて、今は城の客間で保護しています」
「まずはそれを何とかした方がいいか。陛下、お願いできますか?」
「はいはい。ちゃんと話せるようにしてあげないとね」
ヒノモト帝国に来た転生者達は皆ローリスさんと対面することになる。
今考えると、ローリスさんの能力って色々ぶっ飛んでるよね。
スキルを奪ったり付与したりできるってかなりのチートだと思うんだけど、なんでそんな能力を持ってるんだろうか。
まあ、だからこそヒノモト帝国が成り立ってるわけだからそれでいいのかもしれないけどね。
「ここですね」
そういうわけで、まずは客間へとやってくる。
一応ノックしてから中に入ると、ベッドの上でくつろいでいるボーパルバニーの姿があった。
普段はメイドさんが世話をしているらしいんだけど、いきなり入ってきた見知らぬ人物に驚いたのか、飛び起きて二本足で立っている。
前足に魔力の塊を感じるから、多分武器を生成しているのかな?
ボーパルバニーは不可視の刃で首を切り裂くらしいから、多分それだろう。
ボーパルバニーとしての本能かもしれない。
[落ち着いて。私はローリス、あなたと同じ転生者よ。今からあなたを喋れるようにしてあげるから、ちょっとだけ触らせてくれる?]
ゆっくりと近づきながら日本語で語りかけるローリスさん。
聞きなれた言葉に少し安心したのか、ボーパルバニーも警戒を解き、手にした不可視の刃を消滅させる。
ただ、やはりまだ少し怖いようで、依然として警戒した視線のままだ。
ローリスさんはそっと手を伸ばして体に触れると、すぐに離す。
本当に一瞬だったので何をしたのかわからないが、あの時と一緒ならおそらくこれで喋れるようになるんだろう。
「さて、これで言葉はわかるかしら?」
『え、あ、わ、わかる! 何言ってるのかわかるわ!』
「それはよかった。さっそく質問なんだけれど、あなたは野生として暮らしたい? それともこの国に人として暮らしたい?」
『そんなの決まっているわ。このままの暮らしがいいです』
「オッケー。それじゃあ、人の姿になりたい? 望むなら、人の姿に近づけることはできるけど?」
『えっと……ひ、人の姿がいいかな。でも、できればこの姿にもなりたいけど』
「ああ、それなら大丈夫よ。どっちの姿にもなれるわ」
『ならお願いします』
てきぱきと質問を処理していくローリスさん。
この辺りは流石皇帝というべきか、全く動じることなく、相手の心を掴んでいる。
まあ、喋れるようにしてあげた上に人の姿にもしてくれるというなら転生者ならと飛び付くのは当たり前かもしれないけどね。
質問が終わり、再びローリスさんがボーパルバニーの体に触れると、その瞬間ボーパルバニーの体がむくむくと大きくなり、やがて人型を成した。
元が兎なせいか、真っ白な髪の毛に頭の上には兎の耳が生えている。
小さかった割には意外と身長が高く、160センチメートルくらいはあるだろうか。女性にしては高い気がする。
「え、ちょ、きゃあ!?」
ボーパルバニーだった女性は自分の体を見るなり、腕で体を隠してその場で蹲る。
まあ、裸だしね。どこぞの変態皇帝とは違うのだ。
幸い、ベッドの上にいたのですぐ近くにシーツがあったので隠すことは容易だったが、ちゃんと服を用意してあげないといけないね。
「はい、これであなたは我が国の国民です。とりあえずはこの部屋を使っていればいいわ。後ほど家は用意するから、それまでは待っていてね」
「そ、それよりも服が欲しいんですが……!」
「ああ、それならクローゼットに入っているから、好きなのを使うといいわ。男女兼用の服で申し訳ないけど、まあそれも後であなた用の服を用意するから」
「お、お願いしますよ?」
ちょっとしたトラブルはあったが、これでボーパルバニーの件は問題ないだろう。
後は、うまく馴染めるといいんだけどね。
「さて、次は魔力溜まりだな。ハク、一緒に来てくれるか?」
「わかりました」
客間を後にし、次は魔力溜まりの場所へと向かう。
もう休みに余裕がないので私がいるうちに確認できるところはしておかないといけない。
できることなら、明日にはオルフェス王国に戻りたいところだね。
「こうなってるんですけど、どうでしょう?」
「ふむ、なるほど」
ウィーネさんの転移魔法で転移し、魔力溜まりの崖の上から見下ろす。
土魔法で作った住居は問題なくその場で鎮座しており、内装も特に変化した様子はなかったので大丈夫のはずである。
ひとしきり上から見下ろした後、実際に降り立って中も見てもらったが、ウィーネさんは特に文句を言うことはなかった。
「これだけしっかりできているなら問題はないはないだろう。後は物資を運びこめば今からでも住めそうだな」
「よかった。ちょっといびつになってしまったので心配していたんですよ」
「それが少し気になっていたんだが、なんでこんなにいびつなんだ?」
「魔力溜まりの木は伐ってもそのうち再生しますから」
魔力溜まりは植物にとってはまさに天国のような場所である。
神星樹の実も取っても次の日にはまた生えてくるように、伐ったとしても時間をかければまた再生してしまう。
なにせ、丸太に加工した木すらも再生して木になってしまうのだ。その再生力は尋常ではない。
だから、木の隙間を縫うようにして作るしかなかったわけである。
まあ、根っこから全部取り払ってしまえば再生しなくなるかもしれないけど、深く根付いた根っこを撤去するのは相当骨が折れるからね。やりたくないです。
「そういうことなら仕方ないか。いい仕事をしてくれたな」
「ありがとうございます」
「帰ったら報酬を渡そう。留守の間よくヒノモト帝国を守ってくれた」
そういう言葉は皇帝であるローリスさんがかけるべきだと思うけど、ウィーネさんの方が皇帝らしいし別にいいか。
報酬に関してはどうでもいいけど、これでようやく皇帝代理という責務から解放されると思うと少し肩の荷が下りた気分である。
後は、帰って残り少なくなった学園生活を満喫するだけだね。
私は結局あまり進まなかった卒業研究のことを気にしながら、帰ってからのことを考えていた。
感想ありがとうございます。
今回で第二十章は終了です。幕間を数話挟んだ後、第二十一章に続きます。




