第六百七十八話:野菜は危ない
翌日、私は再び魔力溜まりへと赴いた。
一応、昨日ですべての家は建て終えたけど、何か不具合が出ている可能性もある。
まあ、私が暮らしていた頃は土魔法で作った風除けは特に何も変化がなかったから大丈夫だとは思うけど、一応ね。
念のため、今日だけでなく毎日確認に来たほうがいいかもしれない。
実験のために置いてきた物資も一日では変化が出ないかもしれないしね。
「さて、どうなってるかな?」
上空から見下ろしてみた限り、明らかに変化しているものが一つ。
それは実験のために置いていた野菜類だ。
家の中に置いておいたはずだが、今やその家を飲み込み、周辺の家にまで蔦を伸ばして結構酷い状況である。
まあ、わかっていたことではあるけど、流石に成長が早いね。
「野菜系は全滅かな?」
野菜は色々持ってきてはいたが、すべてダメそうである。
いや、たった一日で成長するという意味ではある意味食べ放題なのかもしれないけど、多分神力の影響で成長したんだろうから味はかなり悪そうだ。
ただでさえ神星樹の実という苦行を強いられるのに普段の食事までまずかったら可哀そうだろう、
これは野菜系は持ち込んだとしてもその日のうちに食べなきゃダメそうだね。
「他の奴は割と平気そう?」
急成長を遂げた野菜類と違い、その他に置いたものは特に変化は見られなかった。
まあ、一日しか経っていないからまだ変化していないのかもしれないけど、野菜の成長ぶりを考えるとこの時点でも少しくらいは変化していてもおかしくなさそうではある。
意外だったのは、ベッドの枠組みが無事だったことだ。
丸太と同じく明らかに木だと思うんだけど、いったいなんで大丈夫だったんだろうか。
加工してあったから? それは丸太も同じな気がするけど……。
加工の度合いによって変わるのかもしれない。
とにかく、寝ていたら木に取り込まれるなんてことはなさそうである。
「とりあえず、野菜はその日のうちに食べる。その他の木製品はある程度加工してあれば大丈夫、ってところかな」
一応、今日もこのまま放置して経過を見ることにしようと思うが、多分大丈夫だろう。
報告書を作っておかないとだね。口頭で伝えようとしたら忘れそうだし、ウィーネさんも大変だろう。
それは帰ってから作るとして、問題なのは……。
「これ、どうしよう」
この成長しきった野菜類である。
試しに引き抜いて一口食べてみたが、まあ、まずい。神星樹の実ほどではないが、かなり辛みが増している。
しばらく放置したらさらに辛くなっていくことだろう。神力は手に入るかもしれないけど、あんまり食べたいとは思わないね。
「うーん、焼き払う?」
味の問題もそうだが、どう撤去するという問題もある。
なにせ家を丸々飲み込むほど成長しているのだ。ちまちまと手で抜いていったのではその間にまた成長してしまいそうである。
葉を撤去するだけなら燃やせばまだ楽だけど、埋まっている根っこをどうにかしない限りはまた成長してしまうことだろう。
あれ、これ結構面倒くさいことをやってしまったのでは?
「……とりあえず、頑張って撤去しよう」
ため息をつきつつも、私は作業を開始した。
ただまあ、わかっていたことだけど、その作業はかなりの時間を要した。
葉を焼き払うだけといっても、ここは森の中。周りには普通に木も生えていたし、下手に燃やすと全焼してしまう可能性もあったので下手に大火力で燃やし尽くすということができなかった。
なので、燃え広がらないように近くにある木を一本一本結界で保護し、その後抑えめに設定した範囲魔法で焼き払うことになった。
これだけでも相当疲れたが、その後は土に埋まった根っこの除去作業。
試しに一か所掘り起こしてみたが、まあ深く根付いていた。
そりゃ、他の木々だってここまでの巨木に成長しているのだから根っこが深いのは当然のことだけど、これを全部除去しなくてはならないと考えると憂鬱だった。
とりあえず、根を食べる野菜は一つでも残すとそこからどんどん増えそうなので、範囲内を土魔法で片っ端から掘り起こして【ストレージ】に放り込んでいった。
本当なら探知魔法が使えたらまだ楽なんだけど、ここだと探知魔法が使えないから探すのは全部勘である。
正直、これで全部見つけられるとは思ってないけど、広めの範囲を片っ端から探したので多分取り切ったと思いたい。
その後、他の木の根っこを巻き込まないように再び結界を張り、火魔法で根っこを燃やし尽くす。
これをすべての野菜の区画でやった結果、終わる頃には日が暮れていた。
「も、もう絶対やらない……」
神力が馴染んでいるおかげか、魔力溜まりの魔力でも割とすぐに自分のものにすることができたため、魔力切れの心配はしなくてもよかったが、流石にこの作業を一人でやるのは骨が折れた。
安易に野菜なんて置くもんじゃないね。こんなの予想できたことだろうに……。
もしかしたらまだ根っこが残っているかもしれないが、もうそうなったら全部除去なんて不可能である。放置するしかない。
これから住む人には申し訳ないけど、野菜に囲まれて過ごしてくれ。
「……帰ろ」
私は重い足を引きずりながら、転移魔法で城へと帰った。
今回は昨日の反省を生かしてちゃんと昼食はいらないことを連絡していたので特に咎められることはなく、普通にみんなで夕食をとることができた。
これは絶対皇帝の仕事じゃないと思うんだけど、でもウィーネさんならやってそうだよね。
あの人は本当に優秀だと思う。転生特典なんてなくても元から優秀だったんだろうな。
「明日は休みたい……」
竜の力があるおかげで筋肉痛になることはないだろうけど、今日は精神的に疲れた。
魔法の研究とかだったらそこまで苦でもないけど、やっぱり興味のないことを延々とやらされるのは堪える。
でも、ウィーネさんはこういうことを毎日やってるんだよね。そういうところは尊敬するわ。
「ハク、お疲れ様」
お風呂に入り、まったりしていると、ユーリが入ってきた。
お風呂だけど、最初はメイドさん達が洗いますって一緒に入ろうとしてきたんだよね。
私としては一人でまったり入りたかったからお断りしたけど、やっぱり貴族とか王族って洗ってもらうのが普通なのかな。
私は慣れそうにないけど。
まあ、それはさておき、ユーリはお風呂でぐでーっとなっている私に近づくと、そっと額に触れる。
すると、体から疲れがふっと抜けてかなり楽になった。
「ユーリ、また能力使った?」
「うん。ハクがここまで疲れるなんて大変な作業だったんだね」
私の代わりに若干疲れたような表情を見せるユーリ。
ユーリは怪我や病気のみならず、精神的な疲労なども引き受けることができる。だから、その能力を使って私の疲れをとったんだろう。
正直、そんなことのために使ってほしくはないけど、こればかりは言ってもやめてくれないんだよね。
まあ、死ぬような怪我を引き受けるよりはよっぽどましだけども。
「ありがたいけど、この程度のことで使わなくてもいいんだよ?」
「私が好きでやっていることだから気にしないで。それに、ハクはしばらく皇帝代理なんだし、疲れていられないでしょ?」
「それはそうだけど……」
まあ、代理の仕事があるなら大変かもしれないけど、私の場合は特に仕事を割り当てられているわけではない。
今回はたまたま頼られたけど、普通だったらそうそう問題は起こらないだろうし、そこまで忙しいというわけではない。
明日一日くらい休めば何とかなっただろう。そう考えると、ちょっと過保護じゃないかなと思う。
まあ、私も人のこと言えないかもしれないけどね。
「あんまり無理しないでね?」
「わかってるよ」
まあ、おかげで肩が軽くなったので、その日はぐっすりと眠ることができた。
これで明日もしっかり戦えるね。
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