第六百七十六話:最初の仕事
しばらく待っていたが、特に何か起こることもなく時間は過ぎ、夕食の時間となった。
いつもだったら、私が作るんだけど、今回は城の料理人が作ってくれるらしい。
なんだか悪いように思うけど、あらかじめ連絡されていたようで、特に嫌な顔をすることなく普通に用意してくれた。
料理のラインナップだけど、流石元の世界を模しているだけあって、懐かしい料理が並んでいた。
私も料理の知識はそれなりにあるから普通に作るけど、手間がかかるものはあまり作っていない。
いや、お姉ちゃん達が喜ぶから別に作ってもいいんだけど、それを作ろうとすると割と高くつくことが多いのだ。
もちろん、今の経済状況ならそれくらいの贅沢しても問題はないけれど、いつお金が無くなるかもわからないし、あんまりそれが普通だと思いたくないんだよね。
いや、わかってる。宝石なんて例のダンジョンに行けばいくらでも手に入るんだし、お金の心配をする必要は全くないことはわかってる。
だけど、どうしても貧乏性というか、庶民の心が染みついているせいであんまり高いものを食べるのに抵抗があるのだ。
ああいうのはたまに食べるからいいのであってそれが普通になってしまったらありがたみも薄れてしまう。
現状の料理がまずいというわけでもないのだし、別にいいかなぁって。
だから、今出されている料理がとても豪華に見えてちょっと引いてしまった。
「おお、たくさんあるわね」
「ハクの手料理が食べられないのは残念だが、これはこれでうまそうだな」
「さすがに城の料理人は違うね」
「リュミナリア様の料理をそのまま多くした感じでしょうか」
それぞれ料理に対して感想を述べる。
見るからに、私のよりおいしそうな料理。これ絶対前世で料理関係のことやってたでしょ。
あるいは、素材がいいのかもしれない。【鑑定】を使わなきゃ目利きはそこまででもないけれど、この肉とか見るからに脂がのっておいしそうだし。
ローリスさんはいつもこんな料理を食べてるんだろうか。
皇帝という立場を考えるとまあわからなくはないけど、よくここまでのものを用意できたものだ。
畜産もやってるのかな? この町以外にもいくつかの町があるみたいだし。
「た、食べたい……けど、ラルド様の前ではしたない姿を見せるわけには……」
姿は見えないけど、なんだかミホさんの声が聞こえてきた。
ミホさんは精霊なわけだけど、食べられるんだろうか。
いや、食べられないことはないだろうけど、食べる必要はないよね。
でも、転生者だし、この料理は魅力的に見えるんだろう。
さすがに精霊の分は作られていないので食べるとしたら分けてあげるしかないけど、お兄ちゃんは気づくかな?
『なんだミホ、お前も食べたいのか?』
『えっ!? い、いや、別にそういうわけじゃ……』
『声に出てたぞ。ほれ、分けてやるから一緒に食おうぜ』
『は、はい! ありがとうございます!』
うん、声は聞こえないけど、お兄ちゃんの視線を見る限り大丈夫そうだ。
気づかないようなら私が分けてあげようと思ったけど、これはアリアにでも分けてあげるとしよう。
『はい、アリアどうぞ』
『それじゃ、貰うね』
普段はあまり料理を食べないアリアもこの料理は気になるらしい。流石は和食だね。
さて、それじゃあ食べるとしよう。
みんなでいただきますをして食事にありつく。
「うん、おいしい」
味のほうもかなり再現されており、普通においしかった。
というか、これはお店レベルでは? 家庭料理のレベルを超えている気がする。
そりゃ、宮廷料理人なんだからある意味当然ではあるけど、転生者が作っていると考えると普通に凄いよね。
後で作り方教えてもらおうかな。これは素材の味だけでは再現できないと思うし、何か工夫があるんだろうし。
「ハクさん、少しよろしいですか?」
仲良く食事を終え、一休みしていると、不意に話しかけられた。
振り返ってみると、犬耳の獣人の女性の姿。
この人は確か……ミコトさんだっけ? 確か、最初にヒノモト帝国を訪れた時に街を案内してくれた人だった気がする。
「はい、大丈夫ですよ。どうしましたか?」
「ありがとうございます。実は、ちょっと問題がありまして……」
そう言って、困ったように耳を伏せるミコトさん。
話によると、ウィーネさんは今日旅立つ前に魔力溜まりに人々を住まわせ、神力を取得する計画を進めていたらしい。
住む前に、彼らが住む住居が必要ということで、この一週間で簡易的な小屋を作ったらしいのだが、その小屋に問題が発覚したようだ。
それが、小屋に使用した木が急成長し、小屋を飲み込んで大木になってしまうという事態。
これにより、作った数軒の小屋はすべて住めるような状態ではなくなってしまい、どうしたものかと思って代理の私に判断を仰ぎに来たらしい。
「それってつまり、丸太が成長して木になったってことですか?」
「そういうことです」
それは、いったいどういう理屈なんだろうか。
あれか? 接ぎ木みたいに成長していったってこと?
完全に水分を抜いて皮も剥いたただの丸太が木に成長するってどう考えてもおかしいけど、まあ魔力溜まりなら何が起こっても不思議ではないか。
「ウィーネ様は帰ってきたらすぐに住めるようにと言っていきました。ですから、このままだと住むことができなくて帰ってきた時に怒られてしまいます……」
「なるほど……」
多分、丸太が周囲の魔力を吸収してそれを成長に回した結果なんだろうけど、そうなると木で家を建てることはできないね。
そうなると、やっぱり石か。いっそのこと、私がやったみたいに土魔法で作ったほうが楽かもしれない。
「わかりました。明日何とかしてみます」
「お願いします。ハクさんだけが頼りです」
私の時はほんとにただの簡易的な風除けくらいだったから気にならなかったけど、いざ本格的に住もうとなると色々と問題が出てくるもんだね。
とりあえず、家の形だけは土魔法で何とかなるだろうけど、そのほかの生活必需品はどうするべきか。
丸太が成長する以上、木を使った品物はだめかもしれない。
紙とかはどうなんだろう。あれは木の繊維を加工して作っているわけだけど、成長してしまうんだろうか。
もし成長してしまうなら、羊皮紙を使う必要があるかもね。あるいは、それも石とか。
料理に関しても工夫が必要かも。野菜系が育ってしまったら怖いし。
いっそのこと、どれがどの程度成長するのか試すのもいいかもしれないね。
「後ででいいので、運び込む物資のリストを見せてください。もしかしたら、同じように成長してしまうものがあるかも」
「そ、そうですね。後ほどお持ちします」
検証に関してはまあ、時間がある時にすればいいだろう。
時間は有り余ってるしね。一か月だけだけど。
「さて、ようやく仕事だね」
今日一日はぶっちゃけ暇だったので仕事があるのは嬉しい。
まあ、暇なら暇で新しい魔法ができるからいいんだけど、すでに十分すぎるくらい魔法の種類はあるしね。
私は明日は頑張ろうと思いながらお風呂に入って眠りにつくのだった。
感想ありがとうございます。




