第六百七十話:神様のいる場所
翌日。私は再び魔力溜まりを訪れていた。
神星樹の実を採取するという目的もあったが、昨日中途半端だった魔力溜まりの調査をする予定もある。
昨日と同じく、当てもなく探し回ってみるが、あるのは魔力溜まり特有の木々や石ばかり。特に目ぼしいものは見つからない。
ただ、一つ気になることがあった。
「ここ、竜脈が通ってないね」
竜脈とは、星を流れる魔力の道であり、土地の豊饒をもたらす重要な魔力の流れである。
竜脈の近くは魔力が安定しており、土地も豊かなことから人が暮らす場所の近くにあることが多いが、きちんと調整しないと魔力が多すぎて魔物が大量に出現したり、魔力が少なすぎて土地が痩せてしまうということもある。
だから、魔力溜まりの近くもまた、竜脈が通っていることが多いのだが、ここは特にそういったものが見つからない。
竜脈には本流と支流があるが、そのどちらも近くにない珍しい場所である。
本来であれば、そんな場所に魔力溜まりはできないはずなのだが、実際にはできてしまっている。
まあ、これは神力であって魔力でないから、ということなのかもしれないが、これは少しヒントになるかもしれない。
「これ、いろんな場所の魔力溜まりを調べてみた方がいいかも?」
この場所だけがたまたまそうだったという可能性もあるが、恐らく他の魔力溜まりもこういった竜脈が近くにない場所の可能性が高い。
調べてみる価値はあるんじゃないかと思う。
「アリア、魔力溜まりの場所とかわかる?」
「近くにあればわかるけど、そこまで詳しくはわからないかなぁ。行ったことある場所でよければ教えられるけど」
「それじゃあ、そこをお願い」
ひとまず、アリアの記憶を頼りに魔力溜まりを巡ってみることにした。
まあ、流石に一日で調べるには場所が離れすぎていたので、アリアの記憶にある場所を探すだけでも一週間ほどかかってしまったが、一応結果は出た。
「竜脈が流れていない場所にある魔力溜まりは神力が、そうでない場所は普通の魔力が充満しているみたいだね」
同じ魔力溜まりでも、神力の場所と普通の魔力の場所で分かれているらしい。その理由が、竜脈が近くにあるかどうかのようだ。
まあ確かに、魔力溜まりには魔物が近づけないはずなのに、魔物は魔力の濃い場所から生まれるっておかしな話だもんね。
普通の魔力が濃い場所で魔物は生まれ、神力が満ちている場所では魔物は生まれないということらしい。
面白い結果ではあるが、結局なぜ神力が集まっているかはわからなかったね。
「神力を効率よく入手できる方法もわからないし、なかなか進展しないなぁ」
一応、あれからもヒノモト帝国に通って遺跡の資料を漁っているのだが、特にこれと言ったものは見つからない。
やはり、神様から直接与えられるとかしない限り無理なんじゃないなぁ。
「神様って、今はどうしてるんだろう」
資料では、神様は1万年前に仲間割れを起こし、その被害によって地上がめちゃくちゃにされてしまうのを防ぐために天界へと移動したと書かれていた。
これ、神様が仲間割れしたっていうのはまだわかるんだけど、その後どうしたんだろうって話になるよね。
だって、それまで地上は神様によって統治されていたわけでしょ? それなのに、その神様が地上からいなくなってしまったら、一体誰が地上を統治したんだってことになる。
普通に考えれば残された人だろうけど、普通の人に統治できるものなんだろうか?
いやまあ、今でこそいくつもの国ができ、そこの王様とかが国を統治しているわけだけど、神様もそんな感じで一定の地域を統治していたんだろうか。
仮にそうだとしても、いきなり指導者を失ったら人は混乱しただろう。今まで住んでいた場所もめちゃくちゃになって住めなくなって、新天地で過ごさなければならなくなっていたようだし、どう考えても長続きはしなかったように思える。
神様がいるってことは、多分この世界って神様が作ったんだよね? 自分で作って自分で統治していたのに、それを今更投げ出してしまうのは明らかにおかしい。
いやまあ、神様の考えることだから、一回リセットしてやり直し、とか考えていたのかもしれないけど、だったらわざわざ移動しなくてもよかったような気はする。
すべての神々が争っていたわけでもないのかな? 何柱かは地上に残って、統治していたりしたのかもしれない。
争いに加担した神様は地上へ降りることを禁じられたとあったし、そうでない神様もいたと考えてもよさそう。
「あれ、そうなると神様ってまだ地上にいたりする?」
もし、この理屈が正しいのであれば、大半の神様が去った後も統治していた神様がいたことになり、そのまま地上に残っているのだとしたら現在も地上にいる可能性はなくはない。
だとしたら、まだ神力を手に入れるチャンスはあるかもしれないね。
まあ、神様に会えたとして、ポンと渡してくれるかわからないけども。
「すでに神は地上にはおられませんよ」
「え?」
そう考えていたら、意外にもエルが否定してきた。
なんだか確信めいたいい方だったけど、もしかしてエルは何か知ってる?
「どういうこと?」
「神は例の騒動の後、しばらくの間は残った神で地上を統治していました。しかし、やはり数が足りず、神は地上の管理を私達竜に任せて天界へと去っていったのです」
「え、それホント?」
「はい」
いきなりとんでもない事実が判明した。
まさか、統治を任されたのが竜だったとは。いや確かに、竜は竜脈の整備というこの星の管理を任される立場ではあったけど、まさか神様直々に任されているとは思わなかった。
でも、確かに以前は竜を信奉する人々もいたようだし、人の言葉を理解し、人を守る立場にある竜ならば管理を任されたと言われても納得できる。
「それと、神力は神の身体から発せられる余剰魔力という認識で合ってます。ですから、神がいない現在の地上では入手できる機会はそうそうありません」
「そうなんだ。でも、それならもっと早く教えてくれたらよかったのに」
「申し訳ありません。魔力溜まりというイレギュラーもありましたし、ハクお嬢様があまりにも真剣だったので……」
「エルでも魔力溜まりの神力についてはわからないってこと?」
「はい。申し訳ありませんが……」
なるほど。まあ、一切手に入らないとされていた神力がなぜかあるのだから、その可能性に縋って調べていたらあるいは奇跡が起きるかもしれないしね。
しかし、現在地上に神様はいないのか。天界で仲良くなってるのかな?
まあ、喧嘩していたようだからどうなってるかわからないけど。
「そうなると、やっぱり地道に神星樹の実を食べていくしかないかなぁ」
少量とはいえ、確実に神力が身につく方法である。
何年か続けていればいずれは神力が身につくかもしれない。
まあ、ポンと手に入るとは思っていなかったけど、いざその手段がないと言われると少し落ち込んでしまう。
私は魔力溜まりの捜索を打ち切ると、家に帰るのだった。
感想ありがとうございます。




