第六百六十九話:軽く捜索
魔力溜まりの広さは場所によってまちまちではあるが、いずれの場所もかなり広い。
例えるなら、小さい場所でも東京ドームくらいの広さがあるんじゃないだろうか。
ヒノモト帝国からの帰りに寄っただけなのですでに日は暮れかけている。なので、今日のところは調べるとしてもほんの一部になりそうだ。
まあ、別に野宿して行ってもいいんだけど、特に急ぎじゃなければ出来る限り家に帰りたいしね。
転移魔法もあることだし、気になる所があれば明日にでも調べに来ればいいだろう。
そういうわけで、気軽に調べ始めたのだが、改めてみてみるとここは宝の山だと思う。
一応、石は魔石になったりするとは言ったけど、正確に言うと魔石とは少し違う。
どちらかというと、魔力を帯びた石。宝石に近い気がする。
まあ、どちらも魔石として利用できるので別にどっちでもいい気はするけど、魔石でないただの石が魔石として利用できるくらい魔力を持つっていうのは結構レアなのだ。
宝石魔法と言う宝石を投げて、その宝石に秘められた魔力を使って魔法を行使するという方法があるが、その時に何の変哲もない石を投げられたら相手も困惑するだろう。
さらに言うなら、この石は属性を持っていない。だから、どんな属性にも変換することができる。その際、魔石ならば変換した属性によって色が変わるが、この石は見た目に変化がない。ただの石のままなのだ。
だから、これを宝石魔法として不意に使われたらどの属性が来るかを判断するのは難しいだろう。
しかも、この石に込められているのは神力であり、通常の魔力に比べてかなり効率がいい。
多分、普通に宝石魔法として使うだけでも上級魔法並みの威力が出せるだろう。
威力が低いことがネックの宝石魔法でそれだけの威力が出せるなら、もはや魔力の量など関係ない。誰でも一流の魔術師になれることだろう。
当然、魔道具に使用してもかなりの性能を発揮することが期待できるし、その価値は鉱山で取れる普通の魔石とは比較にならない。
だから、この石はとても貴重なのだ。
もっとも、見た目はただの石だから、魔石として利用できる、ということくらいしか価値を見出されず、売りに出しても屑魔石同然で売られる未来しか見えないが。
似たようなものとしては、木もそうだろう。
魔力溜まり内に生えている木は森に生えている木と比べて多少大きく瑞々しいのが特徴だが、種類としては森に生えている木と何ら変わりはない。
しかし、内包している神力は本物であり、もしこれで杖を作ろうものなら私が持っている世界樹の杖と同等かそれ以上の性能を引き出すことも可能だと思われる。
だが、見た目はやっぱりただの木なので、ちょっと魔力伝導率がいいな程度でしか見られないだろう。
有用と見做されているのは神星樹の実くらい。なんとも悲しい話である。
まあ、あんまり価値が高すぎたら無理にでも入ろうとする奴がいるだろうし、魔力溜まりの安寧を求める意味ではこの方がいいのかもしれないけどね。
「私、こんな貴重なもの使ってたんだね」
魔力溜まりで暮らしていた頃は、石はメモ代わりに使っていたし、木は体のいい雨宿りポイントとして使っていただけだった。
それだけならまだいいけど、魔法が使えるようになってからは的として使用することもあったし、焚火の材料として使ったこともあった気がする。
【鑑定】で調べてもも魔力の多い木、くらいしか出なかったし、ちょっと生育のいい木だなぁと思っていたくらいだった。
まあ、多少伐ったりしても次の日には復活してたりしたこともあったので、あんまり気にしなくてもいいのかもしれないが、貴重なものだったと考えるとちょっともったいないことしてたなと思った。
いや、あの時は生きるのに必死だったし仕方ないか。それに、誰も使っていないものなんだから誰に怒られるというわけでもないしね。
「まあ、それはそれとして。アリア、何か見つかった?」
「ううん、特には何も」
「エルは?」
「こちらも特には」
魔力溜まりでは神力が満ちているので、魔力に頼る探知魔法は意味をなさない。
だから調べるとしたら足で調べるしかないんだけど、広大なこともあって、特に目ぼしいものを見つけることはできなかった。
まあ、一、二時間探した程度じゃこんなもんか。
これ以上は夜になってしまうし、今日はこのくらいで終わっておこう。
私は石やら落ちていた枝やらを少しだけ貰うと、その場を後にした。
帰ってくると、お姉ちゃん達に出迎えられた。
そろそろ夕食時ということもあり、私は急いで夕食の支度をする。
私が学園に通っている間はお姉ちゃんやユーリが料理をしているようだけど、休みの間は私がやることにしている。
毎日ってわけではないけど、みんな私の料理を楽しみにしてくれているようなので、作り甲斐があるというものだ。
「ハク、またあの魔法陣を使うつもりなの?」
「うん。まあ、今のところはちょっと難しいけど」
夕食の席で、お姉ちゃんがそんなことを聞いてきた。
私としては、行先は元居た世界だから特に恐怖とかはないけど、お姉ちゃんからしたら未知の世界なわけで、私がそんな場所に行くことが心配らしい。
いや、場所がどこであろうと、私が長時間帰ってこないというだけで心配のようだ。
お兄ちゃんとは一年以上離れていても大丈夫だったのに、私だと数か月で心配になるのはなぜだろう。
いや、理由はわかってるけどね?
お兄ちゃんも同意見らしく、出来ればもうあの魔法陣は使わないでほしいと言われたほどだ。
二人とも心配性だね。
「あの時はたまたま帰る手段がなかっただけで、ちゃんと帰る手段を用意しておけばそこまで危険はないよ」
「そうはいっても、一か月とか二か月くらい帰ってこないんだろ? ただでさえ普段会えないのにそんなに会えなくなるのはちょっと……」
あちらの世界での一日はこちらの世界での一か月であることは二人とも知っている。仮に、あちらの世界で一日しか滞在しなくても、私と再び会えるのは最低でも一か月後ということを考えると、あまり乗り気にはなれないようだった。
まあ、気持ちはわかる。離れていても、いつでも会いに行けるというならともかく、その一か月の間はどこへ行こうが会えないというのはその間は死んでいるのも同然だ。
特にお兄ちゃんは私を生き返らせるために当てのない旅に出るくらいには私の事を大事に思ってくれているし、たとえ一か月でも会えないのは嫌なんだろう。
だが、これに関しては今のところどうしようもない。
仮に神力を自在に操れるようになり、気軽に行き来ができるようになったとしても、時間差の問題は解決しないからね。
時間差をなくすとしたら、それこそ時間を操る能力でもない限り無理だろう。
「まあ、そんなに頻繁に行くわけじゃないから。それか、お兄ちゃん達も一緒に行けばいいんじゃないかな」
時間差はどうしようもないけど、一緒に行けば時間差なんてなくなる。
別に転移魔法陣は一人で使わなくてはならないというわけではないのだから、複数人で使っても問題はないだろう。
行った先でどう過ごすのかが問題だけど。一夜の家では全員泊るのは難しそうだしなぁ。無理すれば行けるかもしれないけど、あんまり男性を入れたくないし。
まあ、そこらへんは後で考えればいいだろう。今すぐ行くというわけでもないしね。
その手があったかと喜ぶお兄ちゃん達を見ながら、夕食を終えるのだった。
感想、誤字報告ありがとうございます。




