第六百六十六話:ゴーレムの特性
遺跡のダンジョンで出現したゴーレム。
ウィーネさんですら貫けない装甲を持つのに、なぜか私とアリアの攻撃だけは素通ししたよくわからない奴。
最初こそ、たまたま弱点だったからと思ったが、その後の実験でそういうわけでもないことが判明し、結局あれは何だったんだろうと地味に気になっていた。
その解析結果だが、どうやらあのゴーレムもまた、特殊な魔力を元に動いているらしい。
通常のゴーレムは生成された時の身体の魔力を糧に生きているが、原理はそれと似たようなもので、違いはその消費量が著しく低いということらしい。
つまり、稼働できる時間が長いということだ。
その時間、およそ1000年と推定されているようだ。錬金術で生成されるゴーレムの寿命がだいたい10年とされているから、約100倍である。
途中の補給なしにそれだけ稼働できるのは相当凄くて、そこは古代人の技術力の高さが窺えるところだ。
しかし、通常のゴーレムと違うところはそれだけではないらしい。
「どうやら、ゴーレムと同じ特殊な魔力を持つ者からの攻撃しか受け付けないようになっていたようです」
「なんですって?」
ウィーネさんの報告に私も驚く。
だって、もしそれが本当だとしたら、私はその特殊な魔力を持っているということになるからだ。
私の見立てでは、この特殊な魔力は神力だと睨んでいる。すなわち、私は神力を持っているということになってしまう。
それはどう考えてもおかしい。
だって、私は生まれこそ特殊だけど、特殊な魔力なんて持っていない。お父さんもお母さんも魔力こそ膨大だけど別に妙な魔力なんて持っていなかった。
ではどこかで神力を手に入れる機会があったのかと言われても、全く心当たりがない。
一体どういうことだ?
「確か、ハクとアリアの攻撃は通ったのよね? 二人とも、そんな魔力を持ってるの?」
「いや、全然心当たりがないですけど……」
「私も」
アリアも姿を現して否定する。
試しに自分の魔力を見てみるが、特に違和感のようなものは感じない。
いや、自分の魔力って客観的に見づらいから本当にそうかはわからないけど、同じ性質を持っているであろうアリアを見ても、特に違和感は感じない。
まあ、なんか前に比べて魔力多いなぁとちょっと思ったけど、それは多分成長したからだろうし。
「あの時同行していた中で攻撃が比較的通ったのはハクとアリアのみです。共通点としてはどちらも精霊ということですが、他の精霊の攻撃はそこまで通らなかったので、精霊だからと言いうわけではないかと」
「そうなると、別の共通点があるのかしらね。ハクとアリア、二人に共通するものは何かわかる?」
「私とアリアに、ですか。うーん……」
同じ精霊、ということを除くと、私とアリアの共通点はそんなにないように思える。
そもそも、アリアは今でこそ精霊だけど、最初は妖精だったし、髪の色も瞳の色も違う。得意な魔法は一応同じ水だけど、それだったら他の精霊も引っ掛かりそうな気がするし多分関係ないだろう。
強いて言うなら、お互いに契約していることだが、それだったら同じく契約しているお兄ちゃんとミホさんの攻撃が通らないのはおかしい。
精霊同士で契約しているから、とか? 確かにそれなら他にはあんまりいなさそうだけど、精霊同士で契約したら神力が得られるっていうのもおかしな話である。
神力って、神様の持つ魔力じゃないの? よくわからない。
「特に思いつかないですね……」
「そう……。そもそも、あのゴーレムは何なの? 人工? それとも自然生成?」
「恐らく人工で作られたものだと思います。当時の人々は当たり前のように特殊な魔力、神力を扱えたようですから、それ以外の敵、すなわち魔物に対する防衛機構だったと思われます」
「魔法陣の護衛かなにかだったってわけね。本来ならとっくに風化して動かなくなってるでしょうけど、ダンジョンになった影響で改めて動く個体が生成されたってところかしら」
本来であれば、とっくに稼働時間は超えているはずである。にも拘らず今でも動いていたのは、ダンジョン化による影響だ。
ダンジョンの魔物は通常の魔物とは異なり、ダンジョンの魔力から生成される。倒されたら倒されただけ補充され、一定の数以上に増えることはない。
そんな謎仕様のダンジョンだからこそ、1万年前のゴーレムが動き出したんだろう。
ある意味で大発見ではあるが、私とアリアの攻撃しか通さないゴーレムなんて普通に危険である。
まあ、おかげで侵入者によってあの魔法陣が崩されることはなさそうだが。
「当時の人は神力を普通に扱えていたようですから、魔物に対しては無敵、もし暴走した際は人の手で止めることができる、という設計だったのではないでしょうか」
「なるほどね。まあ、それだと悪意を持った人を防げない気もするけど」
「その辺りは何とも。認証機能でもあったのでは?」
「まあ、昔から地球と貿易してるような奴らなんだからありそうよね」
警備ロボなんて今の地球でもそうそうないと思うけど、変なところでハイテクだよね、古代人って。
まあ、それはさておき、やはり神力を使える者だけが攻撃を通すことができるという仕様のようだ。
となると、やはり私とアリアはどこかしらで神力を入手したということになる。
一体どこで?
「ハク、アリアと出会ってからの事を詳しく話してくれないか? もしかしたら、そこにヒントがあるかもしれん」
「はぁ、わかりました」
私はアリアと出会った時の事を思い出す。
あれは確か、6年ほど前だっただろうか。あの頃は人間として暮らしており、誕生日の日に偽りの両親に森に捨てられ、彷徨っているうちに崖から転落し、その拍子に前世の記憶を思い出した、というのが始まりである。
落ちた先は魔力溜まりであり、足も骨折していて私は動けない状態にあった。
怪我と飢餓によって意識を朦朧とさせていた私の前に現れたのが、アリアである。
アリアはその場所で取れる木の実、後に神星樹の実と判明するそれを食べさせ、私の命を繋いでくれた。
そうして一年ほど魔力溜まりで生活し、魔法の扱いを覚え、ようやく脱出して街道へと出て、心優しい行商人に拾われて町へと繰り出していったのである。
「ちょっと待て」
「はい?」
懐かしい思い出に浸っていると、不意にウィーネさんから待ったが入った。
「魔力溜まりで一年もの間過ごしていたというのは本当か?」
「は、はい、アリアに看病されながらなんとか暮らしていました」
「原因はそれじゃないか?」
「え?」
魔力溜まりで暮らしていたことが原因?
確かに私とアリアは常に一緒だったから、あの魔力溜まりに一年ほど滞在していたという共通点はあるけど、それが原因とはどういうことだろうか。
「魔力溜まりの魔力は人には合わない特殊な魔力だ。そして、ゴーレムから見つかった魔力も同じく嫌な雰囲気のする特殊な魔力だった」
「……あっ」
「気が付いたか? つまり、魔力溜まりの魔力は神力である可能性が高い」
確かに、最初にウィーネさんが歯車の残骸を持ってきた時もまるで魔力溜まりのような魔力だと感じたことがあった気がする。
なぜ気が付かなかったんだろう。ついさっきだって、魔力溜まりの魔力のようだと感じていたはずなのに。
私は目を丸くしてその事実を受け止めていた。
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