第六百六十二話:友達と再会
翌日。私とエルは家から学園に向かった。
学園側にはすでに王様から学園長に連絡が行っているらしく、すんなりと教室に通されると、今日から復帰するという旨を告げられて無事Bクラスの一員として授業を受けることになった。
ちなみに、いつものメンバーの中で欠けている人は誰もいない。どうやら、みんな私がいない間も頑張って勉強していたらしい。
最後まで一緒のクラスで入れたことは本当に喜ばしい。
Aクラスに行けなかったことだけが残念だけどね。
「ハク、お久しぶりですわ」
「休学と聞きましたけど、いったいなにがあったんですの?」
「ハク、心配したんだぞ」
ホームルームが終わるなり、シルヴィアとアーシェ、そしてサリアが近づいてくる。
もうこの二人が真っ先に話しかけてくるのはデフォルトになっているよね。
私は軽く挨拶をした後、今まで来れなくて申し訳なかったと謝罪をした。
「ちょっと色々ありまして……でも、もう大丈夫です」
「そうですの? ならいいんですが」
二人は心配そうに見つめてくるが、別に身体自体に問題はない。
戦闘らしい戦闘なんてダンジョンでゴーレムを倒したくらいだしね。それも無傷だったし、体は問題ない。
問題あるとしたら精神の方。
お父さんやお母さん、お兄ちゃんにお姉ちゃんなど、この世界で得たかけがえのない人達に会ったことによって多少なりとも寂しさは軽減されたが、それでもまだ一夜の事が頭から離れない。
きっと一夜も同じように思っているだろう。なんとなく、一夜が寂しそうにしているのが契約の繋がりからわかった。
これから、一夜に会いに行くために行動することは決まっている。しかし、それは決してこの世界の人達との交流を妨げる形ではなく、自然な形で両立できるようにしたいところだ。
ちょっと課題は多いけど……。
「ハク! どこへ行ってたのよ!」
「スクープの匂いがします! 洗いざらい吐いてもらいましょうか!」
「二人ともー、落ち着いてー?」
そこに突っ込むようにやってきたのはカムイ、キーリエさん、そしてミスティアさんだ。
特にカムイは途中で止まることなく、そのまま私にタックルしてきた。
普段なら避けるけど、カムイも心配していただろうなと考えて、あえて受ける。
だが、思いの外衝撃は少なく、椅子から転げ落ちることもなかった。
「本部と連絡とってもわからないっていうし、ホントに心配したんだからね!」
「う、うん、ごめんね、カムイ」
カムイが学園に通う理由の中には私の存在も大きく関わっていると思う。
だから、私がいなくなるということは学園にいる意味はないとも言えるわけで、だからこそ、私がいなくなっていても立ってもいられなかったことだろう。
それでも安易に探しに行かずに聖教勇者連盟の面々を頼ったのは成長したと言える。
とにかく、心配かけてしまったのは事実なので特に反論することなく謝罪した。
「ハクさん、休学と言っていましたけど、寮にも家にもいなかったことは確認済みです! さあ、どこへ行っていたのか吐いてもらいましょうか!」
「キーリエさん、なんかテンションおかしくないですか?」
「キーリエはキーリエなりにー、心配していたんだよー」
ちょっと暴走気味のキーリエさんをミスティアさんが宥める。
キーリエさんは以前にも私が聖教勇者連盟に攫われた時に聖教勇者連盟の不当性を主張して王様に抗議したこともあるくらいの行動派だ。
今回も私の捜索のために方々に手を伸ばしていたらしい。そのせいか、その目の下には若干隈ができているように見える。
ミスティアさんはミスティアさんで言葉のわりに私の身体を触って色々と確かめているし、どちらも心配していたことは確かなようだ。
「みんなもごめんなさい。ちょっと、トラブルがあって遠方に飛ばされていたんです」
「ほうほう、遠方って言うと、どのくらい?」
「えっと……ルナルガ大陸まで?」
「大陸一つ挟んだ場所じゃないですか! 一体何があったんですか!?」
本当は大陸どころか世界すら跨いでいるわけだけど、この世界に限るならルナルガ大陸まで行ったが正しいだろう。
時間的にも、ルナルガ大陸からここまで戻ってきたと考えれば10か月という膨大な時間にも説明がつくんじゃないだろうか?
まあ、つかなかったとしても勝手に想像してくれそうだけど。
「転移魔法陣に巻き込まれて、ですかね……」
「え、でも転移魔法陣は大陸内でしか使えないじゃ……」
「ダンジョンのトラップみたいなものじゃない?」
「あー、たまにそういうのあるらしいねー」
「それにしては時間がかかりすぎてるような……」
キーリエさんの答えにカムイが可能性のあるものを挙げる。
本来なら、転移魔法陣は大陸間を移動するには魔力が足りなくて不可能だが、ダンジョンに存在する転移トラップにはたまにその距離を無視するものが存在するらしい。
と言っても、それが出てくるのはAランクの冒険者が挑むようなダンジョンらしいのでそうお目にかかることはないらしいが。
実際には違うが、カムイの言葉にミスティアさんが賛同したことによってキーリエさんも納得したらしい。サリアは違和感を覚えているようだけど、その言葉は聞かれなかったようだ。
「よく帰ってこれましたね……」
「一瞬帰れないんじゃないかと思いましたけどね」
ルナルガ大陸からここまで戻ってくるためには船を使う必要がある。
けれど、船での長距離移動は結構危ないのだ。
大陸間に存在する孤島はほとんどが未発見扱いの島で、誰もその実態を知らない。しかし、中にはそれを利用してその島に拠点を作り、海賊行為をする奴らもいるらしい。
まあ、船の性能はまちまちなのでそれはそこまで多くないのだが、海に長期間留まれば留まるほど嵐に巻き込まれる可能性が上がる。
それに、海にだって魔物はいるし、地上の魔物と違って駆除も難しいとくれば船旅はかなり命がけのものとなる。
まあ、多少の魔物だったら結界魔道具の普及によってどうにかできているらしいけどね。
ヒノモト帝国は地味なところでも成果を上げてくれる。
まあ、そんなわけで、船で大陸間を移動するのは商魂たくましい商人とか新天地を求めて旅をする旅人とかだ。だから、無事に帰ってこられただけで幸運なのである。
そう考えると、カムイってよくここまでこれたよね。
一応、隣のトラム大陸とは陸で繋がっている部分もあるから時間をかければ安全に来れないこともないけど。
「転移トラップからの奇跡の生還、ってタイトルで記事書きましょうかね」
「……まあ、今回は止めませんよ」
どうせ、私がいなくなっていたことは学園中の誰もが知っていることだ。
いつまでも理由を知らせずにいるよりも、こうしてそれらしい情報を流してもらった方が受け入れてもらいやすいだろう。
私が地球に行っていたなんて言うのは絶対に言えないことだしね。
「とにかく、無事で何よりですわ」
「ええ、これはお祝いしなくてはならないのではなくて?」
「いや、そこまでしなくていいですから!」
これだけ迷惑かけておいて、しかも嘘まで付いているのにお祝いなんてされたら私の良心が大ダメージを受けてしまう。
いや、これは伝えるべきではないと割り切っているからそこまででもないか?
とにかく、そんな大々的なことはしなくても大丈夫だ。
こうしてみんなで笑って話し合える、それが重要なことだと改めて気づかされた。
一夜を無視することはできないけど、結局私にはどちらかを選ぶなんてことはできないのだ。
どちらも欲しいと思うのは強欲なのだろうか? でも、いつかは必ず実現したいと思う自分がいる。
問題は山積みだけど、どこかに奇跡でも転がっていないだろうか。
そんな事を思いながら、これからの授業に臨むのだった。
感想ありがとうございます。
これにて第十九章は終了です。幕間を数話挟んだ後、第二十章に続きます。
 




