第六百六十一話:王様にも報告
ユーリに日付を確認してみると、今は年が明けてそろそろ半年経ったかというところらしい。
学園の時間に当てはめると、夏休みまであと二か月ってところだ。
私が調査に行ったのが夏休みに入った直後だったから、マジで10か月経ってるね。
学園はすでに五年生は後期が終わって、六年生になってしまっている。
つまり、私はまた学園の後期をすっ飛ばしてしまったというわけだ。
それどころか、六年の前期も半分くらい終わってしまっているのでより悪いと言える。
今、私ってどういう扱いになっているんだろう。
それを確認したくはあるが、今はひとまず王様に会いに行くとしよう。
私は急ぎ王城へと向かった。同行者はアリアとエルだね。アリアは姿を消しているけど。
「おお、ハク、そしてエル。よくぞ戻ってきてくれた」
城にいき、王様に会いたい旨を伝えると、すぐさま応接室へ通された。
私はよく王様に会うから城を訪れれば大抵はこうして通してくれるけど、今回はなんだか切羽詰まったような感じがした。
何か問題が起きているのかと思っていたけど、どうやら私が行方不明になったことによって慌てていただけらしい。
もしかしたら、この国の貴族達に愛想をつかしてどこか別の国へ行ってしまったんじゃないかと。
まあ、確かにようやく結婚騒ぎが落ち着いてきたというのに、その矢先に行方不明だからね。変な勘繰りをしてしまう気持ちはわかる。
「急にいなくなってしまってすいません。ちょっとトラブルに巻き込まれまして」
「そなたでもこれほどまでに帰還が遅れる事態とは、魔王でも現れたのか?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど……」
王様は私の力を高く買っているせいか、大抵の事は私なら何とかするだろうと思っているらしい。
まあ、実際聖教勇者連盟に攫われた時も自力で帰ってきたし、間違いではない。
ただ、今回の場合は何の前触れもなくいなくなったからかなり心配していたようだ。
いつもなら、王都を離れる時は事前に王様に伝えるんだけど、あの時は遺跡調査が楽しみだったということもあり、うっかり忘れていたんだよね。
それに本来なら日帰りで帰るつもりだったし、竜の谷に行く時もたまに伝えない時があるからうっかりしていた。
これからは気を付けるとしよう。
「ふむ、放棄された転移魔法陣で遠くへ飛ばされてしまったと?」
「はい。おかげで帰るのに時間がかかってしまいました」
「そうか……とにかく無事で何よりだ」
王様には一応真実は伏せておいた。
変に野心を持たれて国家崩壊とかしてほしくないしね。
まあ、遺跡があるのはヒノモト帝国だから、そもそも行くことすらできないだろうが。
「それで、私って今学園でどういう扱いになってますか?」
「休学という扱いになっている。本来であれば、後期を丸々受けていないから進級することはできないが、ハクはサリアのお目付け役だ。だから、強制的にサリアと同じ学年になる。エルも同様だな」
「ということは、六年生の前期の途中からってことですか?」
「そうなるな」
サリアのお目付け役のはずなのに私がいない状態でサリアを通わせていていいのかという疑問はあるけど、王様もすでにサリアが何かしでかすとは思っていないようで、このお目付け役制度はあってないようなものだ。
しかし、今は私はさっさと学園を卒業し、ユーリと結婚するという仕事がある。
だから、わざわざ進級を許さずにもう一度五年生をさせるっていうことはないようだ。
まあ、単純にサリアが私と離れるのを嫌がったからという可能性もありそうだけど。
「では、私とエルは明日からは普通に学園に通えばいいですか?」
「うむ。学園長には連絡しておこう。そなたらの友人も心配していたようだ、会って安心させてあげるといい」
「わかりました。ありがとうございます」
ひとまず、学園への通学は何とかなりそうだ。
サリアはどうしているだろう。それに、シルヴィアとアーシェ、カムイ、ミスティアさんにキーリエさんも、無事に進級できただろうか。
以前は私がいなくなった影響で降格していたけど、今回はそんなことになっていなければいいけど。
あ、でも、サリアだけはわかるか。というか、サリアと同じクラスに行かないといけないのだから知っていないと困る。
「あの、サリアはどのクラスになりましたか?」
「確か、Bクラスだったはずだな。そなたの迷惑にならぬように頑張ったようだ」
「そうですか。よかった」
どうやら今回はちゃんと勉強できたらしい。
他の人まではわからないけど、ひとまずサリアが降格せずに済んでよかった。
でも、結局Aクラスには上がれなかったなぁ。
いつかは上がると思っていたのに、気が付けば六年生という。
まあ、後半はあんまり学園生活できてなかった気もするけどね。
「それでは、私はこの辺りで失礼しますね。明日の準備をしませんと」
「ああ、帰る前に城の者にもそなたらの姿を見せてやってくれないか。皆心配していたのだ」
「それなら、挨拶してから帰りますね」
結構通っているだけあって城の人間には知り合いも多い。
町の人達やギルドの人達にも挨拶しなくちゃならないけど、まあいずれは会うつもりだったからちょうどいいだろう。
騎士団の訓練所や魔法の研究塔などに寄って挨拶をしていく。
特にルシエルさんは私の姿を見るなり、よくぞ無事で、と涙を流していた。
そんなに心配してくれていたのかと思ったけど、どうやら私というよりは私の魔法の知識を重要視していたらしい。
いやまあ、私の魔法って特殊だからね。未だにルシエルさんに教えることもあるし、それを物にするまでは私に死んでもらっては困るんだろう。
まあ、私自身の事を全く心配していなかったかと言えばそうでもないようなので、別に構わないけどね。流石に、全く相手にされないと少しへこむけど。
「学園は明日でいいとして、後はギルドとかだね」
町の人達は生活していく上で会ったらでいいだろう。
別に、知り合いと言ってもそこまで親しいってわけでもないし、家まで来られて帰ってきましたと言われても困るだろう。
だから、行くのはギルドと、後はサクさんの道場くらいでいいと思う。
まずはギルドと思い訪れてみると、冒険者達に手荒い歓迎を受けた。
私がいなくなっていた約10か月。普段ならば夏休みに入ればどこかに遊びにでも行かない限りそこそこの頻度で行っていた場所なのに、今年はなぜか現れない。
最初こそ忙しいんだろうで済んでいたが、時間が進むにつれてあらぬ噂が流れ始め、アクシデントで怪我をして療養中だとか国に秘密裏の依頼をされてどこかの国に行っているだとか実は死んだんだとか色々なことを言われていたらしい。
しかし、私がそう簡単にいなくなるはずはないと情報を集め、どこかに調査に向かったということは突き止めたようだ。
でもそれまでで、それ以降の情報は全くなく、胃を痛めながら今か今かと帰りを待っていたらしい。
そうして、ようやく帰ってきた。その喜びようはお兄ちゃん達にも匹敵するほどで、私は謝罪するとともにその場にいた人の食事を奢ることになった。
なんだかんだ、私もみんなに愛されてるんだなぁとか思いつつ、普段は飲まない酒を煽るのだった。
感想ありがとうございます。
 




