第六百六十話:帰還の報告
その後、私は各所に自らの無事を知らせるために飛び回った。
まずは私が帰るまでの間、ずっと私の帰りを待つためにヒノモト帝国に滞在していたお姉ちゃんとお兄ちゃん、そしてエル。
私がいなくなった責任はウィーネさんが取ったらしく、ローリスさんからは私を何としても見つけ出すことと、お姉ちゃん達の世話を申し付けられていたらしい。
そのおかげか、みんな城で賓客として扱われており、再会したのも城の一室だった。
私が姿を見せると、お兄ちゃんは雄たけびを上げなかがら私に抱き着いてきて、お姉ちゃんはその場に座り込んで大泣きした。
エルにいたっては、私の目の前に跪いて今度こそこの命を捧げますと迫ってくるというぶっ飛んだ再会を果たすことになった。
どうやら、エルは私を守り切れなかった罰として、お父さんに処分を言い渡されていたらしい。
まあ、その内容は私が帰ってきた暁には私が下す処分に従えと言う物だったけど。
本来であれば、竜王の娘を守れなかったという時点で極刑もいいところらしんだけど、そこはちゃんと私が帰ってきた時の事を考えてくれていたらしい。安易にエルを処刑とかしないでくれて本当によかった。
当然、エルはおとがめなし。というか、悪いのは不用意に歯車をはめた私だし、エルは全然悪くない。
今回の再会で一番冷静だったのはミホさんだったけど、私がいなくなったことによってお兄ちゃんが目に見えて落ち込んでしまい、宥めるのが大変だったとお叱りを受けた。
まあ、そりゃ当然だよね。その通りなのできちんと謝りました。
そして、みんなとの再会の次はローリスさんとの対面。
流石に、今回は苦手だからと会いたくないというわけにはいかない。ウィーネさんの方から誘ってきたとはいえ、いなくなったのは私の責任なのだから、国を騒がせた謝罪はしないといけないだろう。
しかし、実際に会ってみると、ローリスさんにしては珍しく素直に謝罪をされた。
私がいなくなったのはウィーネさんが誘ったからであり、転移魔法陣が起動したのはこちらの注意不足のせいだということらしい。
なので、謝罪として白金貨での賠償金の支払いや、竜に対する優遇措置など様々な案を出された。
欲望のためなら国の賓客すら襲ってきた変態とは思えないほどの真摯な対応である。
まあ、流石にそんなものを貰うわけにはいかないので、もし何かあった時には力を貸してほしいという曖昧な約束だけして折れてもらった。
今回の事には相当心を痛めているらしく、その時は国を挙げて全力でフォローしようという言葉をいただき、さらには契約書まで書くという徹底ぶり。
なんかこちらの方が申し訳なくなってくる。
その後、一日休息を取った後、今度は竜の谷へと向かった。
お父さんとお母さんに会いに行くためだったが、どういうわけか着いた先ではエンシェントドラゴン達が集合しており、皆一様に私の帰りを祝福してくれた。
どうやら、私が帰還したことはお母さんが精霊を介してすでに知らせていたらしく、私はみんなに割れ物でも扱うように丁重に扱われながらお父さんとお母さんの前まで連れてこさせられた。
会うなり、お母さんは私の事を優しく抱きしめ、よくぞ戻ってきてくれたと頭を撫でてくれた。
対するお父さんは、静かに私の事を見下ろすと、「あまり心配させるな」と言った後、お母さんと同じようによく戻ってきてくれたと控えめに言ってきた。
もっと取り乱すかと思っていたけど、流石お父さんというべきだろうか、威厳が全く崩れない。
まあ、もしかしたら内心めちゃくちゃ心配していたのかもしれないけど。心底安堵していたようだしね。
無事に両親にも報告を済ませた後、今度は聖教勇者連盟に顔を出した。
まあ、聖教勇者連盟に関してはたまに行われる強力な魔物の討伐の手伝いだけなので、顔を出す必要性は薄いが、流石に10か月もいなかったのだから生存確認くらいしないとまずいだろう。
多分、カムイの方から私がいなくなったという連絡はいってるだろうし、安心させてあげないといけない。
そういうわけで、顔を出したらまあ心配された。
学園で夏休みが明けても姿を見せない私の事を心配し、カムイを通じてこちらでも色々探してくれていたらしい。
コノハさんを始め、ルナさんやセシルさん、エミさんにシンシアさんも、みんな私の無事を喜んでくれた。
どこに行っていたのかと聞かれたが、転移魔法陣の誤作動によって遠い場所に飛ばされていたとだけ言っておいた。
地球に行っていたと素直に言ってしまうと、転生者としてはぜひとも利用したいと考えるだろう。私も利用したいと思っているしね。
中には元の世界に帰ってそこで暮らしたいと考えている人もいるかもしれない。
だけど、素直に伝えてしまうと、強力な能力を授かった人達が地球で大暴れする可能性がある。
良くも悪くも、転生者が持つ能力は強力すぎる。あまり地球に持ち込んでいいものではない。
だから、知らせるとしても最低限の人材に留めようと思っていた。
まあ、この辺りはまたローリスさん達と協議する予定である。聖教勇者連盟の面々にも伝えるかどうかはその後だね。
まあ、神代さんあたりには伝えてもいい気はするけど。あの人は完全に日本人だし。色々能力がぶっ飛んでいるが。
「さて、いよいよか……」
それからさらに一日、私はようやく王都へと帰ってきた。
正直、ここが一番説明が大変な場所である。
なにせ、町の人々は大体が私の存在を知っている。
学園に通っている寮暮らしとはいえ、休みに日には町にも出るし、ギルドとかにも寄る。
だから、私がいなくなっていたことはみんな気づいていることだろう。
どこから行くか迷うところだが、ひとまずはユーリだ。
ユーリはしばらくの間ソーサラス家にお世話になると言っていたが、今はどうだろうか。
とりあえず、家に帰ってみると、ユーリが仁王立ちで待ち構えていた。
「え、えっと……ただいま?」
「遅いです」
「あ、あの、ユーリ?」
「遅いです」
「あ、はい……」
私はお姉ちゃん達もろとも正座させられる羽目になった。
なんでも、ユーリは三か月ほど前に帰ってきていたらしい。
公爵家での作法を覚え、紳士としての振る舞いや魔法の扱いなんかもマスターし、これなら公爵家の養子として問題ないだろうということで帰宅を許されたのに、帰ってみれば誰もいない。
周りの人に聞いてもどこにいるかわからないし、ユーリは誰にも伝えてないならすぐに帰ってくるだろうと帰りを待ち続けていたらしい。
しかし、一か月経っても二か月経っても帰ってこず、かなりしびれを切らしていたようだ。
ようやく帰ってきた私達に対して、色々と文句を言いまくり、それでも最後は無事に帰ってきてくれてよかったと労ってくれた。
なんか、少し見ないうちにだいぶ男らしくなったような気がする。
まあ、現在の性別は男なのだから当然と言えば当然だけど、公爵家の教育の賜物らしい。
本人曰く演技らしいけどね。普通に凄いと思う。
「……それで、どこに行ってたの?」
「ちょっと、地球に行っていまして……」
「え、地球?」
私はユーリには本当のことを話すことにした。
ユーリは転生者だし、婚約するほどの仲である。隠す必要はないだろう。
案の定、とても驚いていたけど、意外なことに特に未練のようなものは感じなかった。
転生者なら一度は帰ってみたいと思うと思ったんだけどな。
「僕にはハクがいるからね」
「あ、そうですか……」
どうやらウィーネさん同様、私がいれば場所は関係ないらしい。
一途に好かれているようで嬉しいような怖いような……。
「もし、今度どこかに行くときはちゃんと知らせてね。心配するから」
「うん、わかったよ」
お土産に買ってきた漫画とかを渡しながら、謝罪し、とりあえず許しを得ることができた。
まあ、どのみちしばらくはいけないだろうけど、今度は気を付けることにしよう。
さて、ユーリはこれで大丈夫。後は、学園の面々と王様だね。
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