第六百四十一話:雑談配信
「妖精の皆さん、こんハクです。今日は雑談をしていくよ」
(コメント)
・こんハクー
・こんハク!
・待ってた
・新鮮な雑談だー!
・姉妹コラボはまだですか?
夕食を食べ終え、一夜の手を借りながら配信をスタートさせる。
昨日に引き続き、カンペは一応用意したが、あんまり見ないことにしている。
あんまりスムーズにいきすぎると時間が余ることがわかったからね。
まあ、とは言っても今回はそんなに長くする予定もないし、別に問題はない。
ゲーム配信となればそれなりに時間は取るかもしれないけど、雑談ならそこまで時間も取らないだろう。
そう考えると、時間をずらせば同じ日に一夜も配信は可能か。
そこまで深刻に考えなくてもいいのかもしれない。
「お姉ちゃんはそこにいるのでやろうと思えばコラボできるけど、流石に許可が下りないと思うのでやらないよ。ごめんね」
(コメント)
・一緒にいるんかい!
・夜、同じ部屋に二人きり、何も起きないはずがなく
・一緒に寝てるんですか?
・確かにアカリちゃんと同じ背景だね
・Vファンタジーなら早々に許可出しそうだが
・二期生の時も一期生が突撃してなかったっけ?
・まどかちゃん暴走事件か
「そうなの? 意外と緩いんだね」
コメントを見る限り、そのまどかと言う人が当時の新人であった二期生の配信に悉く出現し、コラボの誘いをしまくって、実際にコラボする事件があったらしい。
初配信の次の日には先輩とコラボと言う新人からしたら恐れ多いことこの上ない配信だったことだろう。
ちらりと一夜の方に目を向けると、あははと苦笑いしていた。
どうやら一夜も餌食になっていたらしい。
「それなら、後で聞いてみようか」
(コメント)
・姉妹コラボ待ってます!
・個人的にはアケミちゃんとかチトセちゃんとコラボしてほしいけどな
・勇者、魔王、国王は何となく繋がりがわかるけど、妖精ってあんまり繋がりなさそうだよな
・アカリちゃんと姉妹設定にしたせいでちょっと歪になってるな
まあ、それは何となくわかる。
本来であれば、キャラ的に私は妖精ではなく勇者パーティの魔法使いの立ち位置だったはずなのだ。
それを、一夜と姉妹設定を作るために強引に変えてしまったからこうなってしまった。
おかげで、三期生と絡むのが少々難しくなっている。
まあ、仕方ないっちゃ仕方ないけども。
「さて、何を話そうか。直近ではお姉ちゃんと一緒に服を買いに行ったんだけど、聞きたい?」
(コメント)
・聞きたい聞きたい
・ほんとにリアルで一緒なんだね
・どんな服買ったん?
・ハクちゃんに着せるんだったらやっぱりメイド服かな
・それだったらナース服だろjk
・お? やるか?
・あ?
「いや、どっちも着ないから。まあ、聞きたい人もいるようだから話すね」
私は今日の出来事をかいつまんで説明する。
本当は転移の痕跡を調べるためだったのに、気が付いたら大部分がショッピングになっていたのは今考えても納得いかない。
まあ、完全に私が損をしたわけでもないから別にいいんだけど、今度から調べに行くときは一人で行くとしよう。
「それで、買ったのがこの服だね。私はもうちょっと地味目のが良かったんだけど、お姉ちゃんが聞かなくて」
スマホのカメラを使って服を映す。
多分これで映ってるよね?
「可愛いからいいでしょ」
(コメント)
・おい、今アカリちゃんの声がしたぞw
・抑えられない主張
・ハクちゃんはそれくらいの方が可愛いよ
・普段はどんな服着てるの?
・普通にいいと思う
「お姉ちゃん……えっと、普段の服はこれだね。基本的には古着が多いけど、これはちゃんと新品で買った奴だよ」
(コメント)
・なんというか、普通?
・服のサイズ的にホントにちっちゃいんだなと思う
・縫製が甘いな
・これ手縫い?
・ごわごわしてそう
「一応手縫いかな? と言うか、向こうの世界の服は全部手縫いだと思う。ミシンとかないし」
あちらの世界では針子は結構重要な立ち位置にいる。
基本的に、貴族はパーティの度に服を変える。同じ服を着ていくと、服を仕立てるお金すらない貧乏貴族なのかと馬鹿にされるからだ。
で、貴族がパーティに着ていくような服なのだから、中途半端なものは許されない。だから、貴族御用達の針子と言うのが存在するし、その人達の裁縫技術はとても高い。
さっき縫製が甘いと言っていたけど、それは平民用に作られた服だからだ。
平民にとっては、着られるだけで十分であり、お洒落さよりも丈夫さの方を重要視する。
そういう意味では、平民用に作られた雑なものより貴族が使わなくなった古着を着た方がいいのだが、それは少し値が張る。
だから、大抵は平民には平民用の服が売れることになるのだ。
「一応、叙爵した時に着た剣爵の正装があるけど、そっちも見る?」
(コメント)
・お前貴族だったんか!?
・見たい見たい!
・精霊にも貴族制があるのかぁ
・剣爵ってどれくらい偉いの?
・多分士爵の事だろうから、一番下かな?
・厳密に言うと貴族ではなく準貴族。騎士を意味する称号だな。ナイトと呼ばれることもある
・はえー、立派な騎士なんすね
「まあ、色々あってね。えっと、これがそうだよ」
(コメント)
・さっきと比べてだいぶ立派になったな
・胸についてるのは勲章か? かなりリアルだな
・普通にレベルの高いコスプレだと思う
・綺麗じゃん
・でもやっぱりちっちゃい
剣爵って騎士って意味だったのか。
と言うことは、騎士団の人達はみんなこの爵位を持ってるのかな?
爵位は複数持つことも認められているはずだから剣爵プラス何かっていう可能性もありそうだけど。
そうなると、アリシアのお父さんも騎士団所属ってことなのかな。
全然見たことないけど、実は忙しい人なのかもしれない。
しかし、コスプレか。本物なんだけどなぁ……。
まあ、異世界から来た妖精っていう設定を本当に信じてる人なんていないだろうし、当然と言えば当然か。
その気になれば【ストレージ】を披露することもできるけど、それは流石にまずそうだから自重してるっていうのもある。
あ、でも、何もないところから服を取り出してもマジックかなにかだと思ってくれるかな?
どうせ説明できないだろうし、やっても問題はなさそう。
……いや、止めとこ。面倒なことになる予感がする。
「……と、そろそろいい時間だからこの辺にしておこうかな。妖精さん達、お疲れ様でした」
(コメント)
・お疲れ様でした
・お疲れ様でした
・おつかれー
・お疲れ様
「あ、待って、お姉ちゃんが何か言うことあるみたい」
終わりにしようと思っていたら、お姉ちゃんがジェスチャーで私に合図をしてきた。
片手にはスマホを持っているけど、何してたんだろうか。
とりあえず発言を許可すると、お姉ちゃんは満面の笑みでこう言った。
「明日、はっちゃんとコラボすることになりました! みんな見に来てね」
(コメント)
・コラボマジか!
・いえーい
・姉妹コラボきちゃ!
・早くね?
・まあ、Vファンタジーだし
・許可取ったの?
一夜の発言に沸くコメント欄。
いや、私も初耳なんですけど? 表情こそ動かないが、内心ではドキドキしてる。
もしかして、配信してる間に運営に許可でも取ってたか?
「そ、そういうことらしいです。詳細は多分SNSで告知すると思う……うん、そうらしいので、皆さんお楽しみに」
とにかく、期待を裏切るわけにもいかないのでひとまず取り繕い、配信を終えた。
目の前には、未だに収まらないコメント欄と、笑顔の一夜がいる。
さて、どういうことか説明してもらおうか?
感想ありがとうございます。




