第六百三十六話:質問タイム
その後、私は質問攻めにあった。
どこから来たのかだとか、好きな食べ物は何だとか、お姉ちゃんのことをどう思ってるのかだとか、とにかくいろんなことを聞かれた。
私はそれらに対してほとんど本当のことを話した。
もちろん、一夜との関係に関しては多少ははぐらかしたけど、異世界から来たことも話したし、自分が竜の血を引く精霊であるということも話した。
この世界で私の事を語ったところで、それはただの妄想でしかない。どうせこの後ヴァーチャライバーとしてそういう設定でデビューするのだから、今からそういう話をしたところで特に問題はないだろう。
案の定、三人には役に入り込んでいる真面目なこと言う評価を貰った。
「ハクちゃん、真面目なのはいいけど、あんまりそういうことを普段から話してると身バレしちゃうよ?」
「でも、事実ですし」
「うーん、凄い徹底ぶり。僕も見習わないとだめかなぁ」
まあ、普通だったら仕事の時とオフの時は分けた方がいいと思うけどね。
私はまだ普通の口調だけど、例えば凄い尊大な話し方のキャラの人が普段からも同じような話し方してたらやばい人になってしまうだろう。
あれはキャラとしての口調だから面白いのであって、普通はそんな話し方されたら不快な思いをする人が多いはずである。
まあ、一部の人はそれで喜ぶ人もいそうだけど。
「あ、そうだ、勇者なんだし、妖精に加護を貰うとかってありだと思う?」
「確かに、回復してくれたり何かしらの力を与えてくれたりする展開は王道ですね」
「ハクちゃんは妖精……精霊? なんでしょ? その辺りはどう思う?」
私の無表情にも全く怯まずに話を振り続けてくる柳瀬さん。
でも、確かにそういう王道な展開とあちらの世界の事を比べるのは少し面白いかもしれない。
あちらでは、別に勇者に妖精が力を貸すとかないしね。
「妖精はみんな気まぐれですから、よほど気に入られない限りは無理だと思います。それにこの世界でよくゲームで登場する回復してくれる妖精はそう多くはないと思いますよ。少なくとも、光属性の適性を持つ妖精じゃないと」
「へぇ、妖精なら誰でも回復できるわけじゃないんだね」
「それなら、ハクさんはどうなんです?」
「私は回復できますよ。すべての属性に適正があるので」
「おお、流石竜の血をひくだけはあるね」
一応、勇者の選ばれ方が違えば可能性はあるかもね。
例えば、王様の命を受けて魔王を倒しに行くみたいな勇者なら、その道中でサブクエスト的なものをこなして人々を助けていくような展開があると思うけど、そういう心優しい人材なら精霊も手を貸すかもしれない。
あるいは単純に、魔力量が多ければそれだけで精霊の気をひくことはできる。
だから、優れた人を勇者に選ぶ方式であれば加護が与えられる可能性もなくはないかな。
「私からも質問していいですか?」
「なあに?」
「柳瀬さんと五十嵐さんは勇者と魔王ですけど、結局どっちが勝ったんですか?」
まあ、設定なのだからどちらが勝ったというわけではないのかもしれないけど、勇者と魔王なんてどう考えても因縁の相手である。
それが同期でいるってどう絡んでいくつもりなんだろうか。
それがふと気になった。
「ああ、それに関しては色々考えててね」
「私達はまだ決着をつけていないんです」
「決着をつけていない?」
「勇者は幾度となく魔王に挑むけど、その実力は互角。いくら戦っても勝負がつかないんだ」
「なるほど」
つまり、ライバルのような関係ってことかな?
まあ、完全にどちらかが強いって決めちゃうとリスナーもそういう目で見てしまうだろうし、どちらが上でも下でもないっていうのは重要なのもかもしれない。
「まあ、今後の展開次第で決着がつくかもしれないけどね」
「コラボもしたいですしね」
行く末はリスナー次第か。
設定は決めるけど、実際に見て決めるのはリスナーだし、思った通りに行かない可能性もある。
なんだか不安だけど、それがヴァーチャライバーってものなのかな?
「ハクちゃんともコラボしたいな」
「私も、とっても興味があります」
「私も私も」
コラボかぁ……まあ、同期だしいずれはしなきゃならないだろうけど、私なんかがコラボして何か話せるんだろうか。
挨拶に関してはそこそこ固めてきたけど、それだってリスナー次第で変わる可能性があるし、私自身まだヴァーチャライバーとしての自覚はない。
まずはコラボよりもちゃんと配信できるようになるのが先決な気がするけどな。
「もし、そうなったらよろしくお願いします」
「うん、任せといて!」
とりあえず、みんないい人そうでよかった。
うまくできるかはまだわからないけど、この三人となら頑張れそうな気がする。
もちろん、一夜の存在も大きいけどね。
一夜がいなかったら絶対にこんなことやらないだろうし。
「さて、お喋りはそのくらいにして、明日の配信の事を考えましょうか」
しばらくお互いのことを話していると有野さんがパンパンと手を叩いた。
確かに、よく考えたら明日にはデビューと言う鬼スケジュールなのである。順番とかちゃんと決めておかないと。
「一時間ずつだっけ?」
「そのはずですね。夜8時から一人ずつ」
となると、終わるのは12時かな?
と言うか一時間もあるのか。一夜はタグとかを決めている間にあっという間に過ぎるとは言っていたけど、そんなにうまくいくんだろうか。
いや、むしろうまくいかないから時間が過ぎるのか。
配信、と言うかパワーポイントを使った発表は何回もしてきたから人前で話すこと自体はできるけど、やっぱり少し不安だなぁ。
「さっきの順番でいいんじゃない? 勇者、魔王、国王ときて、最後に天使のハクちゃん!」
「ハクさんは天使じゃなくて妖精ですよ?」
「だって、こんなに可愛いんだもん」
「天使と言っても過言ではないよねぇ」
「まあ、確かに」
まあ、よくお姉ちゃんとかが言ってるから別に不快ではないけど、そこまで可愛いかなぁと思わなくもない。
いや、確かにお母さんが作っただけあって顔は整っているけど、表情が動かないからなぁ。
端から見たら人形である。人形と天使じゃ天と地ほど差があるでしょうよ。
「トリは私ですか」
「うん、お願いできる?」
「うーん……まあ、頑張ってみます」
最後となると、最も印象に残る配信となるだろう。
リレー形式なのだから人だってどんどん増えていくだろうし、トップバッターと同じくらいプレッシャーがかかりそうである。
でも、私の役から言って、途中のどこかに挟まるのはちょっと憚られる。
勇者やら魔王やらいる中にいきなり妖精設定が出てきたら困惑するだろう。
いくらお約束とは言っても、妖精はそこまで重要なポジションでもないし。
いや、作品によっては重要かな? まあでも、ちょっと浮きそうではある。
だからやるなら最初か最後だが、決まった時期も遅く、SNSのアカウントすら今日作ったばかりの奴を最初にするよりは最後に回した方がいいだろう。
「それじゃあ明日、頑張っていこう!」
「「「おおー」」」
そういうわけで、私はトリを飾ることとなった。
これだとあんまり人が来ないんじゃないかと言う予測は外れることになりそうである。
いやまあ、他の企業に比べたら少なそうだけど、大勢の人に見られるということに変わりはない。
せめて無難に終わりますように……。
感想ありがとうございます。
 




