第六百三十五話:顔合わせ
約束の時間が近づき、私達は再び本社を訪れることになった。
今回、三期生としてデビューするのは私を除いて三人。
全員女性のようで、みんな学生とのことだった。
まあ、学生と言っても高校生のようだけど。
私のような見た目小学生の人は一人もいないらしい。
一応、私は15歳と言うことになっているので、ぎりぎり高校生ではあるけどね。低身長もいいところだけど。
「大丈夫かなぁ……」
「ハク兄は心配性だなぁ。きっと大丈夫だよ」
緊張でそわそわする私と違って、一夜はかなり余裕そうだ。
一応、一夜にとっても後輩と言うことになるのだから少しは緊張していいと思うんだけど、そんな様子全くない。
まあ、年上ならともかくみんな年下だし、それゆえの余裕かも知れない。
そう考えると、私も堂々としてた方がいいのかな? 本来の年齢ではみんな年下なわけだし。
「ねぇ、そういえば一夜の同期ってどんな人なの?」
「んー、簡単に言うと、ゲーマーな吸血鬼と歌好きなエルフとマシンガントークの猫耳っ子かな」
「あー、立ち絵がってこと?」
「うん。まあ、中身もあんまり変わらないけど」
エルフとか、あちらの世界では普通にいたからまさかこちらの世界にいるのかと一瞬思ったが、冷静に考えてキャラ設定の方だろう。
これに加え一夜が妖精と言う設定だからなんとなくファンタジー寄りな構成だね。
「一期生は魔法学園の生徒、二期生はファンタジーな生き物ときて、三期生はファンタジーのお約束と言う感じにしたかったって聞いたことがあるね」
「ファンタジーのお約束って、勇者と魔王とかって話?」
「うん。ファンタジー推しなんだよね」
確かに、微妙に差はあるけどみんなファンタジー関連な気がする。
普通、こういうのって幅広いジャンルの人達を集めて、視聴者層を増やすべきなんじゃないかと思うけど、ここはその中でもファンタジーに特化しているようだ。
まあ、ファンタジーはいわゆる王道なジャンルだし、子供から大人まで幅広い層が楽しんでくれそうではあるけど、何かの拍子にファンタジーが衰退することになったら一気に潰れそうだな。
まあ、私も詳しいことは知らないから本当にそうなるかはわからないけど。
と、そんなことを話している間に昨日来た部屋の前まで来ていた。
有野さんからの連絡ではここに来るように言われていたので、多分中で待っていればいいんだろう。
私は扉を開け、中へと入る。
すると、そこには有野さんと、見知らぬ三人の女性の姿があった。
「あ、ハクちゃん、それに一夜ちゃんも。よく来てくれたわね」
そう言って手招きをする有野さん。
私はてっきりこの部屋で待機してみんな集まったら呼ばれるものかと思っていたけど、どうやらそんなクッションなど挟まずに直接会わせるらしい。
だから少しは心の準備と言うものをさせろと……。
「この子がハクちゃん? めっちゃ可愛いじゃん!」
「まるで画面の中から出てきたみたいに綺麗ですね。ほんとにファンタジーの住人だったりしません?」
「外国人? ハロー」
私の姿を認めた三人は口々に私に話しかけてくる。
一人は半そで短パンとまるで男の子のような恰好をした快活そうな女性。
一人は地味目な紺のスカートに白のシャツを着た大人しそうな女性。
一人は制服を着崩してきている少しおっとりとした口調の女性だ。
タイミングからして恐らく彼女らが私の同期達なのだろうが、みんな黒髪黒目と言うのが少し新鮮に見えてしまった。
あちらの世界だと、赤とか青とか緑とか色々あるからね。むしろ黒髪は珍しい方だ。
パッと見でわからないと思ってしまったのは私もだいぶあちらの世界に染まっているのかもしれない。
まあ、記憶を取り戻してからでももう6年くらい経つからねぇ。それに元々ハクとしての常識があったし、染まるのも仕方ないか。
「こらこら、そんないっぺんに話しかけられたら困っちゃうでしょう? 一人一人自己紹介しなさいな」
「「「はーい」」」
有野さんに窘められ、軽い返事を返す三人。
自己紹介の先陣を切ったのは男の子っぽい格好をした彼女だった。
「それじゃあ僕から。僕は柳瀬明美。魔王を倒すために国王から命を受けた勇者、勇者アケミだよ。よろしくね、ハクちゃん」
僕っ子とは、サリアの事を思い出す。
快活そうな性格はみんなを笑顔にするだろうし、勇者と言う味方サイドの希望的ポジションの役としてはまあまあ合ってるのかな?
私の勇者像は竜を問答無用で殺そうとしてきたろくでなしとどうにか国を立て直そうとする健気な勇者の二つだからファンタジーのお約束の勇者はあまり想像できない。
まあ、見る限り優しそうな人だけど。
「次は私ですね。私は五十嵐千歳。勇者を迎え撃つ魔王、魔王チトセですね。気軽にチトセちゃんとでも呼んでください」
続いてあいさつしてきたのは大人しそうな女性だった。
こっちが魔王であっちが勇者なのか。なんとなく、逆なような気がしないでもないけど、まあそれは演技次第なのかな?
一夜はほとんど素で話していたように見えたけど、魔王ともなればそれなりのキャラが求められるだろうし、多分少しは演技すると思う。
案外、こういう冷静そうな人のほうが魔王には向いているのかもしれない。
「最後は私だね。百瀬鈴鹿。勇者に命令を出した国王、国王スズカをやらせてもらうよ。よろしくね」
最後はおっとりとした口調だった女性。
勇者、魔王ときてあと一人は何になるのかと思ったら、まさかの国王である。
まあ確かに、ファンタジーのお約束ではよく登場するし、割とありなのかもしれない。
今見た限りではどう見ても国王って柄じゃないけど……。
「私はハクです。えっと、お姉ちゃんの妹の妖精、月夜ハクをやらせていただきます。よろしくお願いしますね」
「私は春野 一夜。そのお姉ちゃん役の月夜アカリをやらせてもらっているよ。一応、君達の先輩に当たるかな」
全員が自己紹介を終えたのでこちらも自己紹介をする。
聞いていたけど、みんな名前は安直なんだね。
まあ、私も人のこと言えないけど、こういうのって実名は隠すものなんじゃないのかな?
実際、一夜は隠しているわけだし。
まあ、偽名を使うと呼ばれた時にとっさに反応できない可能性があるというデメリットがあるし、こちらの方が楽ではあるけど、ちょっと心配な気もする。
私みたいに、ばれたところでそこまで問題ないと考えているんだろうか。
まあ、名前と声だけじゃ特定は難しいとは思うけども。
「有野さん、何でハクちゃんはアカリさんの妹なの?」
「ああ、それはちょっと事情があってね」
有野さんは私と一夜の関係を軽く説明する。
本来であれば、三期生のモチーフに従って、私もファンタジーのお約束である、例えば勇者パーティの聖女だとか魔王の配下である四天王とかそういう役をするべきだったのだが、私の設定、と言うか事実が、すでに固まっていたことと、一夜にとても懐いているという理由もあって、妖精も一応お約束だよねと言うこじつけもあり、月夜アカリの妹と言うポジションに収まったわけだ。
他の人と違って、面接を抜けて入ったわけではないし、ちょっとずるのような気もするけど、まあある程度は仕方ないと思う。
同期として、共に頑張っていければと思う所存だ。
感想ありがとうございます。




