第六百二十八話:事情を説明
「つまり、ハク兄は死んでから精霊として転生して、しかもその体には竜の血が混ざっていて、今は異世界で人間として暮らしてるってこと?」
「そういうことだね」
「いや、わけわからないんだけど……」
ざっと説明してみたが、一夜は頭を抱えて蹲ってしまった。
うん、まあ、私からしても属性盛りすぎだなぁと思うよ。
精霊で竜で人間とか結局何なんだよってね。
まあ、優先順位を決めるとしたら人間が一番だろうか。その次が竜で、最後に精霊だと思う。
これ、私が既に婚約してるとか話したら余計に混乱しそうだし、黙っていた方がいいかな?
「百歩譲って異世界に転生したっていうのは認めよう。そういう小説いっぱいあるしね。でも、なんでそんな美少女なわけ? さっきはめっちゃ美人だったし!」
「あれだけ言って気になる所はそこなのか」
まあ、性別が変わっているのは結構重要なポイントかも知れないけどさ。
なぜ女性なのかと言われたら、お母さんがそう作ったからとしか言いようがないけど、その体に私の魂が入ったのは完全に事故だった。
お父さんが適当に魂を連れてきた結果こうなったのであって、そのことを私に言われても困る。
「そりゃ気になるでしょ! 何よそのモチモチすべすべの肌は! それにめっちゃ綺麗な銀髪だし、アニメのキャラかなにかなの? ハク兄の癖に!」
「そんなこと言われても」
「しかもさっきから表情変わらないし、無表情属性なんてなかったでしょ!? 一人称も私になっちゃってるし、何可愛くなっちゃってるの!?」
ああ、そう言えば元々の一人称は俺だったっけ。
ハクとして過ごした期間が長いせいか、すっかり私と言う一人称が定着してしまった。
まあ、この格好で俺っていうのも変だし、別にいいんじゃないかな。
「はぁはぁ……」
「ほら、落ち着いて」
「ん、ありがとう……。と言うか、さっきから使ってるのってもしかして魔法? いきなり落ち着くんだけど」
「ああ、うん。鎮静魔法だね」
「ハク兄、すっかりファンタジーの住人になっちゃって……」
本当は魔力は節約すべきだけど、まあこの程度の魔法だったらそこまで大事にはならないだろう。
でも、いつもなら、使っても多少時間が経過すれば回復していくけど、この世界ではそれがないようなので思った以上に使ってしまうことは事実。
一応、鎮静魔法くらいだったら後1万回以上使っても持つだろうけど、いつ転移魔法みたいな膨大な魔力を使う魔法を使うかわからないし、気にしすぎるくらいがちょうどいいだろうけどね。
「それで、古代の魔法陣が誤発動して、なぜか戻ってきてしまったと」
「そういうこと。だから、帰れる手段が確立するまで、ここに置いて欲しいなぁと思うんだけど」
「……帰っちゃうの?」
いきなり押しかけてきて居候させてくれと言うのは確かに無茶なお願いかなぁと思ったが、一夜が気にしたのはそこではないようだった。
不安げに揺れる瞳は泣くのを必死に我慢しているような、そんな印象を受ける。
……まあ、いきなり交通事故で消えたわけだしね。あんまり会ってなかったとはいえ、心配かけちゃったか。
「……うん。でも、今のところどうすれば戻れるのかはわからないし、しばらくはここにいるよ」
「そっか……。うん、わかった、ここにいていいよ」
「ありがとう、一夜」
何か思うところはあるようだが、あえてそれは口に出さず、私の事を受け入れてくれた。
まあ、私としても久しぶりに妹に会って何も思わないことがないわけではない。
いくら今の故郷があちらの世界とは言っても、一夜も間違いなく私の家族だから。
二度と会えないというのなら踏ん切りも付いていたけど、また会えたとなると少し心が揺らぐ気持ちもある。
いっそのこと、このまま元の世界に帰らずに過ごすのもいいのかもしれない。
「……いや、それはダメか」
一夜も大事だが、あちらの世界にはお姉ちゃんやお兄ちゃん、お父さんにお母さん、ユーリなど、大事な人がたくさんいるのだ。
大事な人の人数が多いから、と言うつもりはないけど、私はもうハクなのだ。
白夜は死んで、もうこの世界にはいない。
だから、私が帰るべきはあちらの世界だ。
一夜には悪いけどね。
「それじゃあ、とりあえずご飯にしようか。いや、その前にお風呂かな? ハク兄埃っぽいよ?」
「そう?」
「うん。さっき沸かし始めたから先に入っちゃって」
まあ、先程まで森のただ中にある遺跡に潜っていたわけだから、そりゃ少しは汚れているか。
不意に激しい運動をすることも多いし、あちらの世界は汚れやすいかもね。
その割にはお風呂が高級品だったりするけれど。いやまあ、人が入れるほどのお湯を沸かすのが大変なのはわかるけどさ、魔石があるんだからやろうと思えば毎日入れると思うんだけどな。
まあ、それはそれとして、ここは素直に従っておこうか。
ピーッという沸いたことを知らせる音が聞こえたので、ちょうどいいタイミングだ。
私は脱衣所へと向かい、服を脱いでお風呂場へと入る。
なんだかこの感じも久しぶりだな。
いつもは、寮にある大浴場だったし、家にいる時も自作のお風呂だったからお風呂自体はよく入っていたけど、このタイル張りの空間は久しぶりかもしれない。
コックをひねれば出るシャワーも、シャンプーやリンスの感じも何もかも懐かしい。
特にシャンプーはあんまりいいのは出回ってなかったからね。一応、転生者達が広めてくれたのかあるにはあるけども、オルフェス王国まではあまり伝わってこないのか大抵の場合は石鹸だったように思える。
宿屋とかならあるかもだけどね。
頭と体を洗った後、湯船に身を沈める。
あぁ、やっぱりお風呂はいいものだ。体の疲れが良く取れる。
一応、生活魔法には体を清潔にする魔法もあるけれど、こっちの方が断然好きだ。
「ふぅ、さっぱりした。……あれ?」
たっぷり堪能した後、お風呂から上がると、脱衣所に残していたはずの私の服がなくなっていた。
その代わりに、明らかに女児向けのキャラクターが印刷されたパンツにピンク色の可愛らしいパジャマが置かれている。
私の記憶が確かなら、これは一夜が子供の頃に着ていたパジャマだと思うのだが、なぜこんなものがここにあるんだろうか。
恐らく着ろと言うことなのだろうが、あいつは私の事をなんだと思ってるんだろう。仮にも兄なんですが?
「……うん、放置だな」
服を持って行けば着替えざるを得ないと思っているんだろうが、私には【ストレージ】がある。
常に何着かの服は用意されているのだ。一着くらいなくなったところでどうと言うことはない。
私はその可愛らしいパジャマを奥へと押しやり、代わりに【ストレージ】から出した寝間着に着替える。
下着は……その質感には少し心が揺らぐけど、あちらの世界のものを使用することにする。
いや、別にキャラクターに惹かれたわけではないからね? 向こうではゴムがあんまり普及してないから下着は紐止めで安定感がないからちょっと気になっただけである。
これ、戻る前に下着を買いだめしておいた方がいいのでは? ……いや、その感覚に慣れてそれしか穿けなくなったら困るしなぁ。
向こうでゴムを探した方がいいかもしれない。見つかりさえすれば、聖教勇者連盟に持ち込めば誰かしら作ってくれるだろう。うん。
そんな事を思いながら、脱衣所を後にした。
感想ありがとうございます。
 




