第六百二十四話:奇妙なゴーレム
攻撃されてこちらを敵と認識したのか、ゴーレム達は軽快な動きでこちらに殴りかかってきた。
ゴーレムにしては素早いが、それでも人から見たらまだ遅い方である。
少し意識しないと躱すことは難しいが、そこまで危険と言うわけではなさそうだ。
「くっ、硬い!」
「ミスリルが欠けるか。ほんとにアイアンゴーレムか?」
ウィーネさんの攻撃の隙間を縫ってお姉ちゃん達が仕掛けるが、ミスリル製の武器だというのに刃こぼれする始末。
本来であれば、鉄など一瞬で切り裂けるほどの切れ味があるにもかかわらずだ。
ゴーレム本来の物理耐性も健在のようである。
魔法にも強くて物理にも強いって、それ弱点ないと言っているようなものでは?
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、下がって! はっ!」
生半可な攻撃は効かないと判断し、まずは一体倒すべく収束魔法を行使する。
さっき氷が全然効いていないようだったから、属性は火を選択した。
少しでも通ってくれればいいのだけど。
そう思って炎弾を放ったがそれに当たったゴーレムは一瞬で蒸発し、跡形もなく消え去ってしまった。
「あ、あれ?」
なんだか思った以上に手ごたえがない。
いくら相性が悪かったのだとしても、ウィーネさんの魔法を軽々跳ね除けた割にはあっけなく倒せてしまった。
もしかして、火が弱点なのかな?
確かに前世でやっていたモンスター育成ゲームでは鋼タイプは炎タイプに弱いみたいなのがあったような気がする。
とにかく、火が弱点と言うなら私しかまともにダメージを出せる人がいない。片っ端から燃やし尽くしてしまおう。
「さっきので蒸発しちゃうなら……これくらいで行けるかな?」
私は今度は収束させず、そのまま範囲魔法を放った。
すると、ゴーレム達は次々と溶けて行き、数瞬後にはただの鉄の塊が四つ残るのみだった。
どうやら倒せたらしい。
何だろう。強いと聞いていた割には本当に呆気ないな。
「ハク、すまん、助かった」
「いえ、何とかなってよかったです」
「なぜ私の魔法が効かなかったのかは気になるが、今は追手がいる。まずは落ち着ける場所まで行こう」
手早く倒せたのだから追いつかれるわけにはいかない。
ウィーネさんの提案を飲み、私達はひとまず先へ進むことにした。
「さて、先程のアイアンゴーレムだが、どう考えても普通ではないな」
しばらく進み、周りに敵の反応がないことを確認してから少し休む。
話題は先程のアイアンゴーレムの話だ。
「アイアンゴーレムは、というよりゴーレムは皆土属性だ。宝石ゴーレムのような例外はいるが、あれはどう見ても土属性のゴーレムだろう」
「私もそう思います。土に対して氷は若干有利であるはず。それなのに、全く効果がないというのは解せませんね」
ウィーネさんとエルが言うように、ゴーレムは基本的に土属性。
土属性は風属性と対になっていて、お互いによく効くようになっているが、氷属性はそこまで影響を及ぼさないはずである。むしろ、エルの言うように若干有利のはずだ。
だけど、結果を見れば氷は全く効かず、火はめちゃくちゃ通った。
これは一体どういうことだろう?
「属性が違う変異種? 確かに形が少々違ったが」
「火が通ったということは、水属性と言うことなのでしょうか。あまりにも見た目と合いませんが」
宝石ゴーレムのように、それぞれの宝石に連なる属性になっているゴーレムはいるものの、さっきのはどう見てもアイアンゴーレムである。流石に、あの見た目で水属性は無理がある。
もちろん、世の中には見た目と属性が噛み合わないなんて言う魔物もいないわけではないが、ゴーレムなんて典型中の典型、そう見た目と変わるなどないはずである。
「とにかく、氷魔法が効かないのでは私は若干不利だし、エルも戦力にならん。もし戦闘になった時はハクが相手をしろ」
「まあ、それしかありませんね」
幸い、火に対しては普通のアイアンゴーレム並である。私だけでも十分対処は可能だろう。
私をあまり危険な目に遭わせたくないお兄ちゃん達は少し不満のようだけど、攻撃が通るなら大抵の敵は倒せる自信がある。
ここには同じ相手しか出てこないようだし、仮に別の属性が弱点の奴が出てきたとしても、私は全属性を使えるから何とかなるだろう。
「最深部までどのくらいでしょうか?」
「上層の広さを考えると、まだかなりかかりそうだな」
すでに結構な時間が経っているが、まだまだ先は長そうと知って少し溜息をつく。
いやまあ、奥に進むたびに色々な謎が出てくるからその点ではかなりワクワクしてるんだけど、同じ景色が続くのと同じ敵ばかりなのでちょっと飽きている。
もう隠密プレイなんてしないで蹴散らしていけばいいんじゃないだろうか。
強いとは言っても、火には弱いことは証明されたわけだし。
「そうだな。ペースを上げるためにも敵は蹴散らしていくか」
「了解です」
ウィーネさんも同じ意見なようで、敵は排除していくことが決まった。
その後、ちょうど休憩していたということもあって一度食事を挟んだ後に再び進みだす。
通常プレイが解禁されたので、ゴーレムは等しく丸焼きの刑だ。
一応、残った鉄の塊は【ストレージ】に収納しておき、後で調べる予定である。
また、一体くらいは完全な形の奴が残っていた方がいいんじゃないかと思って試しに風属性で攻撃してみたのだが、普通に通った。
それどころか、水も土も、効かないと思われていたか氷さえも通ってしまうという珍事が勃発してしまった。
どうやら、属性で効かないというよりは、私の攻撃しか受け付けないみたいなことになっているらしい。
ますます意味がわからなくなってきた。
みんなに聞いてみても首を傾げるばかりで真実は闇の中。
エルの攻撃は一応少しは通ったようだけど、私が竜だからってわけではないだろうし……。
いや待てよ? 竜じゃなくて精霊の方かな?
そう思い、アリアやミホさんに攻撃して貰ったら、問題なく攻撃は通った。
どうやら、ここのゴーレム達は精霊の攻撃しか受け付けないらしい。
一体どういうこっちゃ。
「もしかしたら、古代文明が関係してるのかもね」
謎に包まれた古代文明。確かに、そうとしか考えられない。
仮にあのゴーレム達がこの建物を守るためのガーディアン的存在だったのだとしたら、精霊は味方だったから攻撃が通る、とか?
あるいは、魔力的な問題かもしれない。
精霊の魔力は人間が持つ魔力とは若干違うようだから。
「精霊についての文献でも漁ってみるか」
帰った後の方針も決まり、精霊の攻撃しか通さないゴーレムを不審に思いつつも進む。
時折邪魔してくるゴーレムを蹴散らしながら進むことしばし、私達はようやく最深部と思われる場所まで辿り着いたのだった。
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