第六百二十三話:奇妙な歯車
ダンジョンと言うだけあって、遺跡はかなり広かった。
一応上層は逃げながら調査を行い、ある程度のマッピングをしたようなのだが、それでも把握しきれないところがあるくらい広い。
下層に繋がる道も見つかっているが、その先まで行くと例のゴーレムが大量におり、なかなか進むのが難しいようだ。
奥に進むほど敵が強くなるのはダンジョンでは基本だが、ここは逆に上層に敵が少なすぎるらしい。
敵の強さの違いはあれど、出現頻度はそう変わらないはずなのに。
さらに言うなら、敵はゴーレムしか確認できていない。
遺跡風のダンジョンと言うことで、ガーディアン的な意味合いでゴーレムが出てくるのはわかるが、もう少しバリエーションがあってもいいところだろう。
ダンジョンに出てくる敵は大体がその土地に住まう魔物であるはずなのに、ここはその条件に当てはまらない。
色々イレギュラーなダンジョンだ。
「前方にいるな。しばらく待機、後ろをすり抜けるぞ」
ウィーネさんが指示を出し、いったん止まる。
現在いるのは下層。ゴーレムの出現頻度が激増するというエリアだ。
私の探知魔法とウィーネさんの索敵能力によって今のところ戦闘は回避できているが、まあ多いこと多いこと。
ちょっと歩いたら遭遇するのを繰り返しているので、避けるのが大変だ。
幸い、向こうは視界のみの索敵なのか、そこまで反応速度は高くない。
ちょっと死角に入ったり、時には隠密魔法を使ってやれば簡単に欺ける。
しかし、それもちょっと厳しくなりつつある。そろそろ戦闘が入りそうだね。
「それにしても、なんだかだんだん機械っぽくなってきましたね」
「そうだな」
上層では壁には色々な絵が描かれていたりしていたが、下層では絵の代わりになにやら機械的な歯車が埋め込まれ、グルグルと回転していた。
どこかの機械にでも繋がっているんだろうか。表面はだいぶ錆び付いているものの、回転は滑らかで、未だに健在であることがわかる。
「ハク、このグルグルしてるのって何なの?」
「多分歯車だと思うけど、詳しいことはよくわからないかな」
「歯車って?」
「えっと……動力を伝えるための機構かな」
「ふーん」
この世界にも歯車は一応ある。時計とかに使われてたりするね。
でも、一般人は時計がどういう仕組みで動いているかなど知らないから、歯車の事を知らないことがある。
学園でもそう言う物が動く仕組みを教わった記憶はないから、その職人とかじゃない限り知らないんじゃないかな。
まあ、職人だとしてもこんな細かい歯車見たことないだろうけど。
「アヤネ、何かわかるか?」
「うーん、周りの壁の劣化を見る限り少なくとも数千年は経っているはずなんですが、歯車はせいぜい数十年程度の劣化具合ですね。でも、明らかにこの建物を作ったと同時に埋め込まれた代物ですし、歯車の劣化性がおかしいです」
道中、そこらの壁の歯車を研究者達が調べてみたが、歯車には異常な風化耐性があることがわかった。
こうして動いているところを見ると、この歯車に繋がっているであろう装置を止めないために何らかの処置を施したということだろうか。
私もちらりと見てみたが、確かに妙な魔力を感じる。
元々ここは魔力濃度がかなり低いのだが、この歯車だけは魔力を強く感じるのだ。
まるで魔力溜まりの魔力のような異質なもの。恐らくそれが何かしら作用して風化を止めているんだろうが、理屈はよくわからない。
せめてこの歯車が繋がっているであろう装置が見られれば何かわかるかもしれないが……。
「奥まで行ってみるしかないわけか」
結局、真実を明らかにするにはそれしかない。
すでにダンジョンに潜り始めてから数時間経過しているが、もしかしたら日をまたぐことになるかもしれないね。
「ここまで長時間潜って戦利品が一つもないっていうのも凄いね」
「確かにな。本当にここはダンジョンなのか?」
歩いていると、お姉ちゃん達がそんなことを言っていた。
確かに、ダンジョンでは魔物以外にも鉱石やら薬草やらそう言ったものが道中に生えていたりするものである。
そういう資源があるからこそ、ダンジョンは重宝されているわけで、ダンジョンに潜る理由の一つでもあるのだ。
それなのに、このダンジョンは全然なにも落ちていない。
いや、一応細かい鉄の破片とかは落ちているけど、こんなの拾ったところで何の価値もない。あまりに量が少なすぎる。
見つかる宝箱の中身も錆びて使い物にならなさそうな機械部品ばかり。
ダンジョンの資源を求めるという意味では外れもいいところなダンジョンだった。
「二人を連れてきたのは失敗だったかなぁ……」
ダンジョンっていうのは魔物を軽く屠れる実力があるのならワクワクするような場所である。
潜ればタイミングが悪くない限りは一定数の報酬が約束され、それに加えて宝箱からレアなアイテムが出てくるかもしれないというワクワク感があるのが楽しみなのだ。
それが普通の感覚である二人にとっては、このダンジョンはつまらない場所だろう。
まだ敵と戦ってすらいないし、私についてきた意味もあまりない。
まあ、いるのといないのとでは私のモチベが変わるのでいてくれた方がありがたいことに違いはないけども。
「無駄口を叩くな。どうやら一勝負ありそうだぞ」
ウィーネさんの言葉にはっと振り返る。
探知魔法を見る限り、前方数十メートルの場所にゴーレムらしき反応が五つほど。
やり過ごすのであれば、一度立ち止まって待ちたいところだが、どうやら後ろからも複数来ているらしい。
ちょうど、一直線の道で挟まれた形だ。逃げ出すには、どちらか一方を突破しなくてはならない。
「前方の奴を手早く片付けて進むぞ。お前達も準備しておけ」
「了解です」
距離はまだ離れているが、このままではぶつかってしまう。
だから、そうなる前に前の奴を片付けて進むのだ。
ウィーネさんの後に続いて、私達も駆けだす。
しばらく走ると、前方にゴーレムの姿が見えてきた。
全身が鉄でできたアイアンゴーレム。今まで何度も見てきた型と同じである。
ただ、普通のゴーレムと違って若干細身であり、足も少し早いのが特徴だろうか。
人工的に作るゴーレムは何かに特化させることによってその見た目と共に性能を変えることがあるが、自然発生のゴーレムは等しく同じものだったはずである。
それが少々気がかりだが、ここが古代遺跡のダンジョンと言うことを考えると、案外本当にガーディアンがいたのかもしれない。それを模してダンジョンが作り上げたと考えれば納得がいくかな。
まあ、それは今はどうでもいい。後ろの奴が追い付く前にちゃっちゃとやってしまおう。
「凍りつけ」
先制攻撃とばかりにウィーネさんが氷魔法をぶち込んでいく。
ウィーネさんの攻撃は基本的に範囲系なのか、足元からせり上がるように絡みついた氷は、一瞬ですべてのゴーレムの体を覆ってしまった。
後は氷を砕いてしまえば氷ごと砕けてしまうはずである。
しかし、そう簡単にはいかなかった。
「むっ、効かない?」
あろうことか、ゴーレム達は少し体を振るうだけで氷を落としてしまった。
さっきの魔法、どう考えても上級魔法並みの威力があったのに、魔法耐性がないはずのゴーレムが平然としているのは明らかにおかしい。
これは、気を引き締めていかないと本当に危ないかもしれない。
私はお姉ちゃん達にかけた結界を確認すると、攻撃の体勢に入った。
感想ありがとうございます。
 




