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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第三章:ぬいぐるみの魔女編
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第六十四話:王様に会う

 第三章開始です。

「王城に来て欲しい、ですか?」


 オーガ騒動から数日。目ぼしい依頼もなく、時折ギルドマスターに呼び出しを受ける程度で特に何をするでもない日常。

 宿で休んでいると、唐突に現れた兵士にそう告げられた。


「はい。陛下はぜひともハク様の姿を見たいと仰せです」


「王様がわざわざねぇ」


 一緒にいたお姉ちゃんもこれは流石に予想外だったようで、目を丸くして事の成り行きを見守っていた。

 事の発端は先日起きたオーガ騒動。

 大量の魔石によって王都の壁が破壊され、ダンジョンから溢れ出たオーガの大軍によって危うく王都が攻め落とされそうになった事件。

 その際、私はオーガの大軍を倒すために大規模な魔法を発動し、無事にその大半を倒すことに成功した。

 その光景はその時討伐に参加していた冒険者や騎士達のみならず、野次馬根性で見に来ていた多数の市民にも目撃されていたらしい。

 そこから王にもそのことが知られ、それほどの功労者ならぜひ一度目にしたいと呼び出しがかかったらしい。

 建前としては国を脅かす事件を見事解決に導いた立役者に対する労いとして報酬を出すというもの。まあ、兵士がぶっちゃけてくれたのでただ単に見たいだけというのはわかってるんだけど。


「行ってきたら? 王様の褒美なら何か凄いもの貰えるかもよ?」


「別に褒美とかいらないんだけど……」


 私からしたらこの町の人々を助けたかったから戦っただけであって、別に褒美が欲しかったからというわけではない。というか褒美ならギルドから金貨をたくさん貰っているし。

 とはいえ、王様からの招待を断るわけにもいかないだろう。下手に断って不敬とか言われても困る。一応、私はこの国の国民だしね。


「まあ、わかりました。行きます」


「ありがとうございます。では、外に馬車をご用意してますのでこちらへどうぞ」


 随分と用意がいい。断られたらどうする気だったんだろう。それとも断られないと思っていたのかな。

 お姉ちゃんが一緒じゃないのが残念だけど、アリアもいるし、きっと大丈夫だろう。

 促されるままに馬車へと乗り込み、王城へと向かった。


 王城の馬車というだけあってその乗り心地はかなり良かった。揺れも少ないし、クッションもあってお尻も痛くない。

 窓から見える町の景色を眺めながら走ること数十分。ついに王城へとやってきた。

 王城は中央部の中心部にある。周囲を堀で囲まれていて、入り口には大きな橋が架かっている。

 追随する兵士が門番に一声かけると、巨大な門がギギギと音を立てて開かれて行った。

 王城というだけあって内部はかなり広い。門を抜けた先にも道が続いており、屋内に入るにはまだ時間がかかりそうだった。

 馬車が止まり、扉が開かれる。促されるままに降りると、別の兵士が案内を引き継ぐそうだった。

 屋内に入ると広い廊下が続く。王城というだけあってそこかしこに装飾の施された彫像などが置かれ、なかなかに贅が凝らされているのがわかった。

 しばらく進み、巨大な扉の前までやってくる。

 案内の兵士は緊張した面持ちで背筋を立たせると、声を張り上げた。


「ハク様をお連れしました!」


「通せ」


 ややあって、厳かな声が聞こえてくる。それと同時に、目の前の扉が開かれて行った。

 奥に見えるのは玉座だろうか。そこには初老の男性が座っている。玉座までの道には赤い絨毯が敷かれ、その両端には兵士と思われる人やローブを纏った人物がずらりと並んでいた。

 い、威圧感がやばい……。

 よく考えてみれば王様ってめっちゃ偉い人だよね。そんな人の前に私一人で来るとか勘弁してほしい。なんでこんな時にいないのお姉ちゃん。

 礼儀作法とか全然知らないよ? 失敗したらどうしよう……。

 案内役の兵士が小声で行ってくださいと言ってくる。随分と無茶を言ってくれる。

 とはいえ、いつまでも突っ立ってるわけにもいかない。恐る恐る足を運び、玉座の間へと入っていく。

 玉座に座る王様はもちろん、周囲の人達も私のことを注視している。そんなに見つめないで欲しい。もう心臓がバクバクだ。

 絨毯を半分ほど進んだところで足を止める。こういうのって、あんまり近づきすぎると怒られるよね。これくらいでいいだろうか。

 とりあえず、よくわからないのでそのまま膝を折り、跪く。

 せめて不敬罪とかには問われませんように……。


「顔を上げよ」


 王様が厳かな声で告げる。それに合わせ、ゆっくりと顔を上げた。


「ふむ。そなたがオーガの軍勢を討ち果たした魔術師のハクか?」


「は、はい……」


 王様はじっくりと私のことを値踏みするように眺める。

 緊張で冷や汗がやばい。表情筋が死んでるおかげで外見だけは取り繕えているけどさっさと終わってほしい。


「ふむ。ご苦労だった。そなたのおかげで我が国は救われた。礼を言おう」


「他の冒険者や騎士団の皆様の協力があってこそです。私一人の活躍ではございません」


 王様の言葉とは別にざわざわと周りが喋っているのが聞こえる。

 緊張しているせいかその辺りの感覚が敏感になっているようだ。何を話しているかまではわからないけど、きっと私のことなんだろうな。


「だが、一番の功労者はそなただと聞く。今回の件のことを讃え、何か褒美を取らせたい。何か希望はあるか?」


「い、いえ、私は当然のことをしたまでですので……」


 褒美なんていらないです。強いて言うなら早く解放してほしい。

 緊張でそれどころではないのだ。

 王様はふむ、と顎髭を撫でると再び口を開く。


「しかし、それだけの功績を残した者に何も与えないのも国の威信に関わる。何も望まぬというならそうだな……我が城の宮廷魔術師の地位を与えたいと思うのだが、どうだ?」


「へ、陛下。それは……」


「構わぬ。こやつの力は本物よ」


 宮廷魔術師という言葉に周囲の人々のざわつきも増す。

 宮廷魔術師といえば、魔術師に与えられる称号の中でもかなり上位のものだ。

 魔術師として国からの後ろ盾を得られるし、地位も向上する。掛け合えば魔法の研究などにも費用を出してくれるかもしれない。国からの信頼がある限り、職を失うこともないだろう。

 魔術師にとって、宮廷魔術師は憧れの存在だ。

 だが、本来宮廷魔術師は魔法の研鑽を重ね、その実力を認められた者がなるもの。その多くは老人であり、私のような子供がなるものではない。間違いなく、最年少だろう。

 王様はどうにも私の力を買いかぶりすぎている。どう考えても、私のような子供が何十年も魔術の研鑽を重ねた老魔術師に勝てるわけがない。

 きっと噂に尾ヒレがついて誇大表現になっているのだろう。少なくとも、私が宮廷魔術師になれる器とは到底思えない。

 それに、私はこの町をいつか離れるつもりだ。

 お兄ちゃんのことも探したいし、まだまだ色んな世界を見てみたい。

 確かに宮廷魔術師は憧れではあるけど、今受け取るべき称号ではないだろう。


「私はまだまだ未熟者です。宮廷魔術師の座に足りえるとは思えません」


「しかし、オーガの軍勢を屠ったという大魔法。あれは我が城の宮廷魔術師でも真似できぬと聞くが?」


「恐らく、噂が妙な形で伝わっているのでしょう。私など、この城の宮廷魔術師様の足元にも及びません」


「ふむ……」


 王様は顎髭を撫でながら考え込んでいるようだ。

 この問答、いつまで続くんだろう……。褒美なんていらないからほんとに早く帰らせて欲しい。

 この鉄仮面が崩れないうちに早く退席したいものだ。

 誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついに王家が動き出しました。自己評価がマイナス方向にガン振りのハクさんVS軍団規模を屠る大魔法をほぼ正確に把握している王さまのすれ違い対決開始! [気になる点] おそらく服装に頓着しないハ…
[一言] 報償はお金が良いです、と答えたら簡単に済んだような気がしてきました。
[気になる点] 国王の配下なら、王、王よ、より陛下とか使った方がいいんじゃないですかね?多分。
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