第六百二十一話:ダンジョン探索の誘い
「とまあ、いくつか機械技術の片鱗を感じさせるものが見つかっているわけだが、それ以上の調査は進んでいないのが現状だ」
興味深い結果ではあるものの、そのダンジョンはやたらと敵が強く、調査が難航しているとのこと。
ヒノモト帝国の人達は大半が転生者な上、強力な魔物であるにもかかわらず苦戦しているらしい。
転生者ですらきついってどんだけ強いんだろう。少なくともAランクは超えてるよね。
「本来であれば、収穫が期待できる薬草や鉱石などもほとんどない外れダンジョン。ここは放棄して別の場所を開拓しようと思っていたのだが、そこでローリス様があることに気が付いてな」
「あることとは?」
「ああ、これだ」
そう言って、ウィーネさんは再び虚空からあるものを取り出す。
錆びだらけの星型のようにも見える鉄の塊。以前にも見せてもらったものだ。
「この部分、よく見て欲しい」
「えっと……?」
促されて目を凝らしてよく見てみると、そこにはどうやら文字のようなものが書かれているようだった。
古代文字かとも思ったが、どうやらそういうわけではないらしい。
と言うのも、それはどう見ても私のよく知るアルファベットと数字だったからだ。
もちろん、この世界にもアルファベットに相当する文字はあるけれど、これはどちらかと言うと前世で使われていたものである。
かなりかすれていて読みづらく、もしかしたら別の文字だった可能性も否めないけど、私にはもうこれがアルファベットにしか見えなかった。
「どうしてアルファベットが?」
「そう、それが気が付いたところだ。一応調べてみたが、この世界で使われるアルファベットはこの世界の文字が使われている。もちろん、転生者の誰かが伝えた可能性もあるが、転生者の年代は大体30代。とてもじゃないが、1万年前の遺跡から出てくるとは思えない」
「それって……」
「ああ。つまりは、1万年前にも転生者がいた可能性があるわけだ」
遥か昔にも転生者が存在した可能性。それは確かに興味深いことだった。
私は700年前にお父さんによって連れてこられた形ではあるけれど、それ以外の転生者は大体10代から30代の人が多い。
時たま例外はあるけれど、大体はその年代に安定している。
それが、1万年と言う遥か昔の時代にいたかもしれないと思うと驚きが強い。
もちろん、この文字がアルファベットなんかではなく、偶然的にこういう形になったという可能性もあるけど、歯車と言う機械部品がある以上はそれを伝えた人がいるはずだ。
それが転生者だと考えれば一応辻褄は合う。
「興味深いですね」
「興味を持ってくれて何よりだ。そこで、ハクに提案がある」
ウィーネさんはずいっと前に出て言う。
どうでもいいけど、ウィーネさんの耳って柔らかそうだよね。
触りたいけど、後が怖いからやめておこう。
まあ、それはともかく、そんな転生者の手がかりともなる遺跡が見つかった。しかし、その遺跡は未だに上層の最初の方しか調査できていない。
だが、もっと奥まで調べることができれば、より詳細な情報が入手できるかもしれない。
そのためには、敵を倒せるだけの戦力が必要になる。
「そこで、ハク、そしてエルには遺跡の調査を手伝ってもらいたい」
「なるほど……」
まあ、確かにそんな遺跡ならば私としても興味があるし、調べてみるというのは吝かではない。
戦力と言う意味でも、私やエルは竜だし、これ以上の戦力はないだろう。
いや、ウィーネさんやローリスさんなら上回る可能性もありそうだけど……。
というか、ウィーネさん達はいかないんだろうか? いくら敵が強いとは言っても、ウィーネさんが負けるとは思えないんだけど。
「今回の件は陛下も重要視されている。今回の調査には私も同行するつもりだ」
「それ、私達いります?」
「いる。調査が目的なのだ、調査隊の護衛が必要だろう」
どうやら、ウィーネさんの他に遺跡に詳しい専門家を何人か連れていくつもりらしい。
戦力的にはウィーネさんだけでも敵を蹴散らせるとはいえ、流石にすべてを守りながらと言うのは無理があるらしい。
だから、少なくとも敵を蹴散らせるだけの力を持ち、且つ知り合いである私に声をかけたのだとか。
「もちろん、報酬は出す。引き受けてくれるか?」
「うーん……」
まあ、別に受けてもいいかなぁ。
どうせ夏休みで暇だし、特にやりたいことも思いつかずにぼーっとしていたわけだからちょうどいいと言えばちょうどいい。
昔の転生者が何をやっていたかにも少し興味があるしね。
「わかりました。お引き受けします」
「そう来なくてはな。調査は5日後、また迎えに来るから準備をしておいてくれ」
そういうわけで、遺跡調査をすることが決まった。
遺跡調査と言うかダンジョン探索だけど、久しぶりだから少し腕がなる。
敵が強いとのことだからしっかり準備しておかないとだね。
「へぇ、遺跡のダンジョンねぇ」
ウィーネさんが帰った後、家に帰ってきたお姉ちゃん達にそのことを話したら、興味を惹かれた様子だった。
二人はダンジョンにはあまり潜らないようだけど、たまに運試し感覚で潜ることがあるらしい。
ダンジョンにもよるけど、運が良ければ魔法の武器とかそう言うものが見つかる可能性もあるらしいからね。
魔法の武器は簡単に言えば刻印魔法を施された武器なんだけど、刻印魔法と違って魔法陣を彫り込んであるのではなく、武器そのものが魔法陣の役割を果たしているらしい。
だから、刻印魔法のように魔法陣が傷ついたら使えない、なんてことにはならないようだ。
まあ、こういう天然の魔法の武器は効果がランダムなものばかりなので使えるものを見つけるのは相当難しいらしいが。
「私も行ってみたいけど、足手纏いかしら?」
「うーん、多分大丈夫だとは思うけど……」
ウィーネさんの話では、敵はアイアンゴーレムとのことだった。
まあ、異様に硬くてミスリルゴーレムではないかと言われているらしいけど。
仮にミスリルゴーレムだとすると、お姉ちゃんやお兄ちゃんは相性が悪い。
ゴーレム系は基本的に物理防御はめちゃくちゃ高いからね。魔法が使えなきゃほぼ詰みだ。
二人とも魔法は使えるけど、どこまで通用するものか。
そう考えると連れていくのは少し怖い気もする。
「後でウィーネさんに聞いてみるよ」
「お願いね。ダメでも怒らないから安心して」
私としては、お姉ちゃん達が一緒にいてくれるのは嬉しいし、連れていきたいところではある。
仮にお姉ちゃんが手も足も出ないような相手だったとしたら私が守ればいいし、最悪ミホさんの転移魔法で脱出させてもらえばいい。
まあ、危ないことに変わりはないのでウィーネさんがだめと言うなら諦めよう。
せめてやられることだけはないように色々準備しておこうと思い、各所を回って準備を済ませるのだった。
感想ありがとうございます。
 




