幕間:男になる決意2
主人公の恋人、ユーリの視点です。
リュミナリアさんが語る方法はこのようなものだった。
まず、この世界には数多くの精霊がいるらしい。
水の精霊や光の精霊、花の精霊や暗闇の精霊など多種多様なものが存在する。
その中で、性別を逆転させる、言うなれば『反転』の属性を持つ精霊ならば、あるいは可能かもしれないということだった。
しかも、ただその精霊に性別を反転させてもらうわけではない。いくら精霊とて、性別をすべて反転させることなどできず、仮にやろうとしても皮膚が反転するとか関節が反転するとかそういうむごたらしい状況になるのがおちだという。
むしろ、そんなことができる精霊がいる方が驚きだが、うまく力を使えば性別を反転させることも可能らしい。
ではどうするかと言うと、まず契約。
契約精霊となれば、その人物に対して魔力を通しやすくなるし、色々と融通が利きやすい。だから、これは必須とのこと。
続いて魂の同化。
精霊の魂とも呼べる精霊光の輝きの一部を私の魂に取り込むことによって、契約よりもより深い繋がりになり、より反転の力を使いやすくするのが目的らしい。
なんだか途中からよくわからない話になってしまったけど、リュミナリアさんは「ユーリと言う魂の器に男の人の魂を混ぜて男の特徴を発現させるようなもの」と言っていた。
なるほど、確かに魂から性別が変われば体の性別も変わる、のかな?
まあ、そんな手順を踏むことによって、反転の力を最大限使えるようにし、その状態で私にその力を使えば、性転換できるということのようだ。
「ただし、これには当然リスクが伴ってくるわよ」
まず一つ、一度男になったら二度と元には戻れないということ。
これは、あまりにも無茶な方法で反転の力を使うことになるため、精霊の方も力を使いつくしてしまい、再度使用できるほど魔力を溜めるには数百年の時が必要になるということだ。
まあ、1000年を生きるとも言われている竜人である。著しく低い頻度ではあるが、二度と戻れないことはなさそうだけど、仮にもう一度魔力が溜まったとしても、精霊の方が嫌がってもうやらないだろうとのこと。
まあ、力を使いつくした精霊は魔法を使うこともできず、下手をすれば動くこともできないらしいので、活発的な精霊的には何物にも代えがたい苦痛なのだろう。
それなら確かに再びやってくれと言ってもやらなそうだ。
第二に、精霊光を取り込む関係で体が半精霊化してしまうこと。
半精霊化と言うのは、体が精霊のように変質し、人でありながら精霊のようになってしまうことを言うらしい。
例えば、エネルギーを得るためには食事よりも魔力の方が効率が良くなったり、老いるのが遅くなったり、性欲が薄れて行ったりするなどが挙げられるらしい。
逆のパターンではあるが、ハクも似たような状態らしい。
まあ、ハクは根っからの精霊なので老いることはないようだが。
これの問題は、私の容姿が幼すぎるということである。
一応これでもこの世界で20年以上生きてきているのだが、竜人は成長が遅いのか、未だに見た目は10代前半と言ったところだ。
ここに半精霊化が入ると、ただでさえ遅い成長速度に磨きがかかり、成人である15歳の見た目になるには数十年は必要だろうとの事。
ハクは幼い見た目で色々苦労していることも多いらしいので、その問題が私にも襲い掛かってくるわけだ。
そして第三に、精霊光を同化させるために魂を直接いじくることになるので、それに伴って私の自我が破壊される可能性があるということ。
魂をいじる、と言うのがどういうことかはわからないが、魂はあまりにもいじくられると霧散してしまうらしい。
魂の霧散は死と同義。つまり、死の危険があるような危険な作業と言うことである。
「これらのリスクを承知の上でやって欲しいというのならやってあげるわ。どうする?」
「私は……迷いません! やってください!」
確かに少し怖い。ただ性転換をするだけで命の危険があるだなんて思っていなかったし。
でも、だからどうしたという感じだ。
私はハクと結ばれるためだったら何でもしたい。それこそ、二度と女に戻れないのだとしても、それでハクと結婚できるのなら一生男でいい。
私の覚悟を感じたのか、リュミナリアさんはにやりと頷くと、私の頭を撫でてくれた。
「いい目をしているわ。これならば、あの人も納得してくれるかもね」
「あの人……?」
「いずれわかるわ。さて、それじゃあ早速始めましょうか」
そうして、私の性転換計画が始まった。
まず反転の性質を持つ精霊だが、レストナーデと言う精霊が選ばれた。
上級精霊という精霊の中でも力の強い個体らしく、混沌の精霊とも呼ばれているらしい。
なんだかすごい肩書だなぁと思いながらも、挨拶を済ませ、リュミナリアさん指導の下契約を行った。
本来、精霊の契約は精霊がよほど気に入った人にしかやらないようなのだが、今回は精霊の女王であるリュミナリアさんが直々にご指名と言うこともあって、特にそういう審査はなかった。
だが、レストナーデさんは大層な面倒くさがり屋のようで、「リュミナリア様の命令じゃなかったら絶対受けない」とけだるげに言っていた。
私がレストナーデさんに気に入られているかどうかはともかく、契約は無事に終わり、続いて魂の同化の作業に入った。
この、魂の同化と言う作業、かなり繊細なもののようで、リュミナリアさんが私の体の中に手を入れてきたかと思うと、何とも言えない感覚が全身を駆け巡った。
痛いとも違うし、くすぐったいとも違う。強いて挙げるなら気持ちいいだろうか。
その感覚が断続的に続き、私は何度も絶頂を迎えた。
もういっそのこと壊れてしまってこの快楽に身をゆだねたいとも思ったが、ハクと結婚するんだという目標を思い出し、気合で自我を保ち続けた。
その甲斐あってか、魂の同化の作業は無事に終わり、私は胸の中に奇妙な違和感を感じながらもこれで男になれるんだと実感した。
「これでいいわね。後はレストナーデの力で性別を変えるだけ。覚悟はいいかしら?」
「はい。一思いにやってください」
「そう。それじゃあ、レストナーデ?」
「はいはい。ああ、面倒くさい」
渋々と言った体でレストナーデさんが手を振るうと、私の身体に変化が訪れた。
骨格が軋むように音を立て、全身に痛みが走る。
まるで体の中が全部溶けてしまったかのように力が入らず、その場にへたり込んでしまう。
その間にも変化は進み、身長が伸び、胸が縮み、股の間に異物が姿を現した。
しばらくして変化が終わる。肩で息をする私に、リュミナリアさんは鏡のようなものを見せてくれた。
そこに写っていたのは、中性的な顔立ちをした男の子。
髪と瞳の色は変わらないし、顔だちも私の面影があるけれど、それは確かに男と言っていい姿だった。
「これが、私……?」
声すらも少し低くなり、それがより一層自分が男になったのだということを告げてくる。
ついにやった。私は性別の壁を乗り越えたのだ。
自然に緩んでいく顔を止められない。
今はただ、男になれたことを喜ぼう。
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