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第六百十八話:予想外の機能

「お帰りなさい。あら、ハクも一緒なのね」


「お姉ちゃん、ただいま」


 家に帰ると、お姉ちゃんが出迎えてくれた。

 前に帰ってきたのは社交パーティの前だったか。

 思えばそれから家に行かなかったからユーリが妙なことやっちゃったんだよね。

 パーティの事で手いっぱいだったとはいえ、もう少し気を回すべきだった。反省。


「今日は泊っていくの?」


「いや、一応帰るつもりだけど」


「そう、まあ明日も授業だしね」


 学園外で泊る時はあらかじめ寮母であるアリステリアさんに許可を取る必要がある。

 今回は突発的に帰ってきたので、当然連絡はしていないから泊るに泊まれないのだ。

 とは言っても、城で結構話し込んでいたのですでに結構な時間が経っている。

 早めに戻らないと締め出しを食らいそうだ。


「ところでお姉ちゃんは、ユーリの事は聞いてるの?」


「ああ、一応ね。まさか本当に男の子になるとは思ってなかったけど」


 苦笑しながら返すお姉ちゃん。まあ、同じ家に住んでるんだし、知ってて当然か。

 止めてくれたらいいのにとも思ったけど、それはお姉ちゃんに言っても仕方ないだろう。

 言うのなら直接竜の谷に送ったであろうミホさんか、あるいは指示を出したお兄ちゃんだ。

 だが、今はそんなこと言っている場合ではない。やることを済ませて早く帰ろう。


「ちょっと繊細な作業をするから、しばらく部屋に入らないでね」


「わかったわ。頑張ってね」


 特に何か聞くこともなく、お姉ちゃんは去っていった。

 さて、これからが本番である。

 みんなで私の部屋に移動し、ユーリに上半身を脱ぐように告げる。

 別にやましい気持ちがあるわけではない。単に、魂をいじるには直接肌に触れた方が楽そうだと思ったからだ。

 少し恥ずかしがりながらユーリは脱いでくれたが、まあ見事なまでにぺったんこという。

 いやまあ、元からそんなになかったけど、男になったからか全くと言っていいほどない。

 まあ、それは今はどうでもいいんだよ。


「それじゃあ、やるからね。ちょっと変な感じするかもしれないけど、耐えてね?」


「うん、わかった」


 みんなが見守る中、私は腕を霊体化させてユーリの胸に置く。すると、ずぶりと手が沈み込み、体の中に入っていった。


「んっ……」


 ユーリが少し声を漏らすが、気にしないようにして体の中心を目指す。

 目を閉じて集中すると、なんとなく魂がある場所へと到達したことがわかった。

 実際に見えているわけではないからどうなっているのかは想像でしかないけど、触ってみた限り、中途半端に混ざった絵具と言った感じだ。

 多分、これをこのままかき混ぜていったら完全に魂が混ざり合って、一つのちゃんとした魂になることだろう。

 しかし、安易にそれをするのは危険だ。

 今でこそユーリの自我が表に現れているが、元々は別人の魂が混ざっているのである。

 何かの拍子にそちらの人格が表に出てきてしまうかもしれないし、二人の人格が混ざったような歪なものになってしまう可能性もある。

 混ぜられた男の人には悪いけど、私はユーリが引っ込むこともユーリと混ざり合った別の人格になることも望まない。

 だから、ユーリの人格だけが前に出るように調整しなくてはならない。

 これ、相当難しいぞ……。


「んぅ……」


 私が魂に触れる度にユーリが艶っぽい声を上げる。

 慎重に調べていった限り、この状態が見事に釣り合っている状態であり、これ以上いじくることはないのではないかと言う結論が出た。

 だって、これ以上混ぜてしまったら人格がおかしくなってしまうし、かといって分離したら一つの身体に二つの魂が同時に存在することになり、二重人格のようになってしまうだろう。

 今の中途半端に混ざっている状態こそがユーリの人格を残しつつ、男の身体を維持する最高の状態であると思われる。

 まあ、それならそれで弄る所がないのだから別に構わないのだけど、それなら何でお母さんは精霊の抱擁をしろなんて指示を出したのかと言うことになる。

 私にこの状態を確認させるため?

 まあ確かに、魂の形をしっかり感じたことによって魔力の質は把握できたし、これで探知魔法で探す時に楽になったと言えばそうだけど、それくらいならこんなことしなくても可能である。

 だったらなぜ……。

 そう思っていると、ふとおかしな場所があることに気が付いた。


「これは、スイッチ?」


 ちょうどユーリと男の魂が交差している地点に何やら突起のようなものがある。

 ちょうど、部屋の電気を付けたり消したりするためのスイッチのような形だ。

 何で魂にスイッチが? と思って触っていると、少し力を入れすぎたのか、その突起がへこみ、反対方向が出っ張るようになる。

 これはまずいと思ったが、それよりも先に魂の変化に気が付いた。


「魂が動いている?」


 動いているというか、男の魂の方がまるでスポイトにでも吸われたかのようにすうっと薄くなっていき、ユーリの魂の輝きが強くなった。

 一体どういうことかと思っていると、ユーリの身体に変化が訪れる。

 短かった髪が少し伸び、体つきも細くなっていく。そして何より、私が触れている胸が膨らんでいき、女性らしい膨らみを見せるようになった。

 これは、女性化している?


「あ、私、女の子に戻っちゃう……」


 しばらくすると、そこにいたのは私のよく知るユーリの姿だった。

 まさかとは思うが……。

 私は再び突起に手を伸ばし、押し込んでみる。先程と同じように突起が沈み込み、反対側が隆起した。

 すると今度は、先程とは逆に胸が縮み、体つきががっしりとしていく。

 中性的な顔立ちになったユーリは、どうやら男に戻ったようだった。


「やっぱり、そういうことなの?」


「ハク、どういうことだ?」


「うん、多分だけど、ユーリの身体は魂をいじることで女性か男性かを選べるみたい」


 そんな電気のスイッチじゃないんだからと思ったが、試してみる限り、そういうこととしか考えられない。

 恐らくこれは、男の魂を制御するものなのだろう。

 オンの時は男の魂が強く出て体を男性化させ、オフにするとユーリの魂が強く出て体を女性化させる。

 お母さんはユーリを男性化させるだけでなく、ちゃっかり元の姿に戻れるように策を仕込んでいたようだった。


「そんなのあり?」


「私もそう思う」


 いやだって、普通に考えてこんなのありえない。

 普通、魂の融合なんて自我が崩壊するかもしれない超危険な所業のはずである。

 そもそも、普通は魂なんて弄れないし、私だって偶然的に見つけたようなものだ。

 まあ、私にできるのならお母さんもできるかもしれないけど、こんな風にオンオフ機能を付けるなんてできるわけがない。

 と言うか、これは本当に魂なのか? それすら怪しくなってくる。

 だって、もし男の魂を持っているだけで体に男性的特徴が現れるのなら、私はともかく、アリシアは男でなければおかしい。

 魂に何かを仕掛けたのは事実なのかもしれないけど、これ多分魂の融合なんてしてないぞ。

 呪い、いや、精霊の加護か? 多分、そういう契約系の魔法かスキルかで男性化を実現しているんだと思う。

 そう言えば、【鑑定】で調べた時に見慣れない加護があったね?

 なるほど、お母さんが私に精霊の抱擁をしろと言う意味がわかった。

 要は、危険なことなんて何もなかったって言いたいんだろう。

 まったく、それなら直接言ってくれればいいのに。

 私はお母さんのささやかな気づかいにぷくっと頬を膨らませた。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  まさか文字通りの“男の娘”化だったとは(´⊙ω⊙`)WAO! [気になる点]  可変するスイッチを切り替えられるのはもしかして精霊の抱擁をした者にしか出来ないのかな?ユーリさんの意思で可…
[一言] 男の子スイッチ( ˘ω˘ )
[良い点] 危険性もないことですし、必要な時に変われるのでいいことずくめですね 最後に頬を膨らませてるハクちゃんが可愛いです( ´艸`) まぁ、しっかり説明は欲しいですよね
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